小説
□決意
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「おい総悟、そんなとこで迷ってっと置いてくぞ」
そいつは無情にも俺にそう言い放った。
俺は、大人に囲まれて育ってきたせいで、俺だってもう十代後半で、大人の仲間になってもおかしくない年齢だったし、だから、俺は、俺は大人だと思ってきた。
だけど大人はこんなモノにも耐えるのだろうか。
まだ刀から滴る血を見て思った。
生臭い。
グロテスクな。
映画や何かで見ることはあったけど、実際に自分が殺ると、また、何かが違う。
俺は初めて人を殺したのだ。
仕事だと言ってしまえばそれまで。
しかし紛れも無く俺は人殺しだった。
まだ現場に立ち尽くす俺に、土方さんは背を向けて、煙草をふかしていた。
「ねえ土方さん…俺は迷ってるんですかィ?」
「ああ、迷ってんだろ?仕事をすることに。」
断定されてしまった。
腹立たしい。
「俺は迷うの止めまさァ。土方さん、俺ァあの人のために仕事をする。その前に副長の座を頂かなくちゃねィ。」
にやりと笑って今までの思考を吹き飛ばす。
頭に浮かべるのはいつも大きな口で笑って大きな手で俺の頭をガシガシと撫でるゴリラと言われるお人好し。
「土方さん、怪我してやすぜ?」
土方さんの左足。
少しズボンが切り裂かれて、痛々しい傷口が覗いている。
「ああ、こんぐらい大したことねェ。」
無愛想に言う土方さん。いつものこと。
「屯所に帰ったら俺が手当てしてあげやすぜ。」
俺は本気で言ったのに、土方さんはギョッとした顔をして懸命に首を振った。
「おまえゼッテェ何か企んでんだろ!」
「人聞きの悪い。俺ァただ、敵を斬った分だけ誰かに返そうと思っただけでィ」
俺が珍しく本心を述べれば土方さんはやはりまだ疑わしげな顔をしつつ、まあ、変に何かしなければいい、と呟いた。
「さあ、土方さん、こんな所にいつまで居たって仕方ねェ、後処理任せて帰りやしょう。」
「ああ」
「支えてあげやしょうか?足痛いんでしょ?」
また土方さんは驚いた顔をしたが、さっきの俺の言葉を信じたのか、案外すぐに俺の肩に腕を回した。
俺は知ってしまった。
(人間は簡単に死ぬ)
明日また、アンタを副長の座から引きずり下ろすことにする。
だから今日だけは生かしてやろう。
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