ゆめA

□潔く留年
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*高校生設定























「…先輩アホすぎ」

「うっうっさいわ!!」


目の前で心底呆れたという顔を私に向けてそう呟くのは、部活の後輩(私はマネージャー)


畜生、何で私がこんな目に合わなアカンねん!!!!

恨めしげに窓の外を見ると、赤く色を変えた太陽が私を嘲笑うかの如く真っ直ぐに財前のむかつくぐらい整った横顔を照らしていた


まぁ何でこんな事になったかっちゅーと、そもそもの原因は私にある訳で…



私は数学が大嫌いで、ホンマに大っ嫌いで(大事な事やから2回言いました)
1学期に5段階評価でアヒルちゃん(2の事な)を頂いてしまう程大嫌いで
このままやと希望してる大学に推薦してもらえへんって事で、勉強する事になった

そんで折角やし誰かに教えてもらおーと思って部員に頼んでみたら、ことごとく断られた

小春→ユウジに睨まれた
ユウジ→小春とデートしたいから嫌やって言われた
師範→家が忙しいらしい
千歳→フラフラ消えてあてにならん
謙也→最近できた彼女と色々忙しいらしい(謙也のクセに)
白石→めんどいって笑顔で言われた


ホンマ頼りにならん奴らばっかりやで!!!!
って私がぷんすか拗ねてたら、白石が「ええ事思いついた」って言うから何やろと思ったら、出てきた言葉が

「財前に教えてもらいーや」

だと


これには流石の私も
「はぁ!?財前2年やん!!」
って言い返したけど
「脳内年齢はお前より遥かに上やから大丈夫や」
って言われた

どういう意味やねんコラ!!って言いたかったけど、その前に私達の話を横で聞いていた財前と目が合った


「…さすがの俺もこれは無理っスわ」

「どういう意味よ財前」

「0には何かけても0っちゅー事ですわ」

「よし、そこに直れ
私が介錯してやるから」


相変わらずこの後輩は後輩らしくなくて困る
私の事を先輩やなんて1ミクロも思ったことないんやろーなこいつは


ぷいとそっぽを向いた財前を睨み付けて威嚇してたら、白石が困った様に笑って「しゃあないなぁ」と言った


「財前、こいつに勉強教えるんそんな嫌か」

「…嫌っスわ」

「でもなぁ、さすがにうちの部のマネが赤点ギリギリちゃんやと色々角が立つからなぁ…
あの事、なかった事にしたるから頼まれてくれへんかなぁ財前君?」


<あの事>と言われて財前の肩がぴくりと反応した
何のことやら分からん私を余所にして、財前はにこにこ微笑む白石を一睨みした後、はぁ、と溜め息を吐いてがたりと席を立った

何や何やとオロオロしながら立ち上がった財前を見上げたら、奴は軽く舌打ちしてから私の鞄と右腕をがっしり掴んで、私を引きずる様にしてそのまま部室を出ていった


パニックになりながら向かった先は、2年の教室
多分、財前のクラス


財前は適当に私を座らせて、その向かいにもう1つ机をくっつけてその机の中から数学の問題集を取り出し、ドサリと机の上に放った

「それ、2年の基礎問題集っスわ
さすがにそれぐらい解いてもらわな困りますわ」


どうやら財前は白石に<あの事>とやらを無しにしてもらう変わりに私に勉強を教える事にしたらしい

っちゅーかさすがに2年の基礎問とかないやろ、余裕や余裕…と思ってたら
アレ?何やっけこれ見た事あるんやけど全然分からへん…何で?何でなん?


「…先輩、まさかそれすら解けへんとか言いませんよね?」

「ア、アホ!!
こんぐらいちょっと本気出したら2秒で終わるわ!」

「顔真っ青やけど」

「…!!」




そして一番最初に戻る


「ちゃうねん、私めっちゃ現実主義者やからな
二次方程式とかXとかYとか言われても困るねん
私の人生でいつ役に立つねん!!足し算と引き算出来たら生きていけるやろ」

「近い将来受験で役に立ちますけど」

「…あぁそうですか」


相変わらず問題集に文字が埋まる気配はない
っちゅーか財前、私に問題集渡したっきり放置やし
それ教えるって言わんからな、ただ馬鹿にしてるだけやからな


「…先輩、そんなんで卒業出来るんスか?」

「してみせるわ!!」

「…せんでえぇのに」

「何や財前、私がおらんと寂しいんか〜?」

「…」


問題集を睨み付けながらいつもの軽いノリでおちょくったら、想像してた「死ね」とか「何言ってんねんアホ」とかの罵声は聞こえてこんくて
アレ?と思って問題集から財前に視線を移すと、存外、奴は私をじーっと真っ直ぐ見つめていた


「な、何なん
今のつっこむ所やろ?」

「何で?」

「何でって…」


何や財前どないしたんや
私があまりにアホすぎて財前にまで何かうつってしもたんやろか(私のアホさはウイルスか!!)


「先輩みたいなアホは、卒業せん方がえぇんちゃいます?」

「なっ…」

「大学なんか行ったら先輩の面倒みたろうなんて奴とか、ましてや先輩に惚れる様な物好きおらへんやろ、俺以外に」



シャーペンがカタンと音を立てて指先から落ちた

財前はそのまま空になった私の手を掴んでぐい、と引っ張り体を前のめりにして机越しに顔を寄せてきた


バサリ
次は分厚い問題集が机から落ちた


あれ、今、何が起きた?
もしかして、もしかしなくても私、財前に奪われた…?


唇の感触に気付いた時にはもうそれは離れていて、目を見開いた先には生意気に微笑む嫌味な後輩がいた



「卒業なんかせんでえぇから、もっと楽しい事勉強しましょうや」



何やイヤラシイ表現やなぁとか、高校ぐらいちゃんと卒業さしてとか、つっこむべき事はいっぱいあったけど、今の私の口からはそんな余裕のある言葉は出てこない

何故なら、生意気な言葉に反して、財前の目がいつにも増して、いや見た事もないぐらい真剣でどこか苦しそうな光を宿していたからで
私まで泣きそうになったのは多分、夕焼けが目にしみたなんて理由やない



















潔く留年しなさい
勉強なんかせんでえぇから

















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DOGOD69様より
素敵お題お借りしました
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