ゆめA

□resign&loss
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*糖分0・アンハッピーエンド















少しでもいいから貴方に近付きたかった
彼女になりたいとか、好きになってほしいとか、欲を言えばキリがないけれど


強いて言うなら
貴方の視界に入りたかった

貴方の世界に住んでみたかった

そこに映る世界の一部になりたかった










「…すまないが今は、そういった事に興味がない」



せめてこの時くらい、目を反らしてくれたら良かったのに

貴方に好きだと告げた私の顔は酷く切羽詰まっていたと思う
とても恥じらいや照れを併せ持った可愛らしい恋する乙女の表情ではなかった




「今は、って事はその内、近い将来は希望があるの?」

「今の俺にはやるべき事が多くある、その上未熟だ
だが、大人になれば…」

「待てないよ」



そう言い切ると、真田君は少し息を飲み、「お前の好きな様にすればいい」と静かに言った



「私の好きな様に」
それこそ、子供の私にはそんな事できやしないというのに

子供の私には選択肢が無いのだ








失恋したのに
涙が出てこない



ねぇ、真田君、


ねぇ、さようなら














ーーーーーーーーーー












愛だの恋だのというものを理解するには俺達はまだ若すぎる

今はただ目の前にある成すべきことを出来る限り完全な形で成すのみだ


「私、真田君の事が好きなの」


日直の居残りで二人きりになった教室で突然そう告げられた

彼女はクラスメイトで、割と話す女子だったが、まさか突然こんな事を告げられるとは思いもしなかった

しかし今の俺にはその気持ちを受け入れる事はできない、その旨をありのままに伝える

「待てないよ」

そう告げられて、一瞬でも心が揺れたのは何故だろう

その本意が掴めないまま、彼女は日誌を掴んで教室を出ていった

その彼女の後ろ姿を見て、足が動きかけた
俺は今、追おうとしたのか
何故、だ















そして彼女はいなくなった

遠方へ引っ越したらしい
昨日が立海に通う最後の日だったが、彼女の希望で生徒には黙っていたのだと担任が告げた







そしてようやく俺は気付いた

あの時追うべきだったと
「待てない」と言った彼女の言葉の真意を

そして何故あの時俺の足が彼女を追おうとしたのかを










今、成すべきことを成す
俺は、何も成せないままただ、失った

もう取り戻す事は出来ない
















resign&loss
大人への成長とは
多くを諦め失う事だ


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