ゆめ

□nameless identity
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「景吾」

「アーン?」

「景吾」

「なんだよ」

「景吾」

「…オイ」

「景吾」

「…いい加減にしないとその口塞ぐぞ」

って言いながら私に体重掛けるのやめてくれませんか

私と景吾は広すぎるベッドの上で(勿論景吾の家のベッド)背中合わせに座って本を読んでいる
景吾の背中は広くてもたれ甲斐があるなーなんて思いながら私が読んでいたのは「漢字字典」

「景吾ってさ、すごい景吾だよね」

「とうとう日本語が話せなくなったのか」

「そうじゃなくてー
景吾ってさ景色の<景>に吾が輩の<吾>って書くでしょう?」

「あぁ、漢字が読める様になったのか凄いな」

「私もそろそろ傷付くよ?」

「それで?名前が何だって?」

「…だからね<景>ってさ、
大きい、めでたい、とか
高く大きいと認める、偉大だと思って慕い仰ぐ
って意味があるんだって
それに<吾>でしょ?
すごく派手な名前じゃない
跡部って名字も何かいかにも御曹子っぽいし
なんか景吾は名前に従順に生きてるんだね」

「そんな事か」

「あれ、下らなかった?」

「名前なんて誰でもそれなりに意味持ってるだろ
自分じゃ決められねーし
名字に至っては親の物だしな」

「まぁ、そうだけどさ」

あっけない返答をされて少しふてくされた私は漢字字典をポイと横に投げた
ふと、背中にあった重量感と温かさが消えたと思ったら、肩を掴まれてぐるっと180゚回された
結果、さっきとは逆に景吾と向かい合って座る形になってしまった


「なぁに、景吾」

「名前なんて所詮アイデンティティーの一部だろ」

「跡部君、日本語を喋ろうか」

「だから別に俺が何て名前であろうと、俺は俺だ」

「そりゃそうだね」

「お前もそうだろ」

「?うん(話が見えなくなってきた…)」

「だから、だ」

恐らく頭の上に大量のハテナマークを浮かべているであろう私を見つめ、景吾は目を細めて微かに笑って(本当に綺麗な顔だな、ムカつくくらい)私の左手を取り、まるで王子様みたいに私の薬指に唇を落とした

「だから、ある日突然名字が変わる事になっても文句言うなよ?」













Nameless identity
名字の一つや二つ貴方にあげる!

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