ゆめA

□コーヒーを入れよう
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夏が終わって秋が来て、静かな足音を立てて今年もこの季節がやってきた




「…お前、今それ何杯入れた?」

「2杯だけど」

「そりゃ最早紅茶じゃねーだろ、砂糖湯だ」


そんな事言わないでよ、と口を尖らせながら景吾に砂糖湯と言われたロイヤルミルクティーをぐるぐると掻き混ぜた

つい最近までブーツを履くか迷うぐらい暖かかったのに、いつの間にかブーツを迷うどころか手先足先が冷たい季節になっていた

やっぱり冬にはロイヤルミルクティーでしょ、と言えば景吾はあっさりロイヤルミルクティーを用意してくれた
午後●ィーも好きだけど、やっぱり目の前で淹れて貰ったロイヤルミルクティーは格別に美味しい
だけど一口飲んで、何となくもうちょっと甘さが欲しくなって砂糖を二杯入れてみた


「お前そんな甘党だったか?」

「ううん、カフェオレもコーヒーも砂糖無しで飲めるけど
何となく、体内が糖分不足だったみたい」

「へぇ…」


たまにこういう事がある
無性にケーキとかチョコレートとか、飛びっきり甘い物が食べたくなる事が

隣に座る景吾はブラックコーヒーを飲みながら、私のロイヤルミルクティーを興味深そうに覗いてくる
そんな視線にも構わず甘くなったロイヤルミルクティーをコクリ、と飲むと口の中いっぱいに甘ったるい味と香りが広がった


「美味いのかよ、それ」

「甘いけど美味しいよ
そんなに気になるんだったら一口飲む?」

「いらねぇ」

「あ、そ」


眉間に皺を寄せていかにも解せない、といった顔の景吾がなんだか笑える
景吾はあまり好んで甘い物を食べたりしないから、きっと味も想像がつかないんだろう


「最近寒くなってきたでしょ
寒い時ってホットミルクとかココアとか、温かくて甘い物が恋しくなるのよ」

「ハッ、矛盾してるな
糖分は体を冷やす作用があるんだぜ?」

「うっそ!本当に?」

「あぁ、本当だ」

「えぇ〜…何かショック」


糖分が体にいいとは思ってなかったけど、まさか暖かい物を飲んで結果的に体を冷やしていたなんてショックだ

綺麗なティーカップから甘い匂いの湯気が立ち込めて「そんな事言わずにどうぞ?」とばかりに私を誘惑するロイヤルミルクティーが憎い
私は半分自棄になってそれを一気に飲み干した


「あっつ…」

「当たり前だろ、何やってんだよ」

「舌、火傷したかも」

「バーカ、見せてみろよ」

「ん、」

「あーこりゃいったな」


私の舌を見てあーあぁ、なんてわざとらしく言う景吾が何だか恨めしい
でも今はそれよりも舌先のヒリヒリ感がはんぱなく痛くて、何で私はいきなり一気飲みなんてしたのかと今更後悔した


「なぁ、」

「ん?」


呼ばれて顔を上げると、驚く間もなく唇が重ねられていた

思わず見開いた目を閉じると、景吾は私の後頭部に手を回してぐっと力を入れてきた
こうされたら私は覚悟を決めなければいけない
何故ならこれはもっと深く、深く、の合図だから
しばらくは新鮮な空気は吸わせて貰えない


ヒリヒリと痛む舌先が景吾のそれで絡めとられて、一瞬びくりとしてしまった
だけどそんな事はお構い無しと言わんばかりにどんどん深くなっていく
さっきまで甘ったるい幸せで満たされていた口内に、ほんのりほろ苦いコーヒーの香りが侵入してきて、その香りが鼻孔を満たしていく


「…っ、はぁ…」

「…相変わらず肺活量が足りねぇな」

「テニスやってる景吾と一緒にしないでよ…」


さすがに苦しくなって胸をトンと叩けば、やっと解放されて空気を吸い込むことが出来た


「…って言うかどうしたの、いきなり」

「お前が舌なんか見せてくるから悪いんだ」

「景吾が見せてみろって言ったんじゃない」

「関係ねぇ
それにしてもやっぱお前それは甘過ぎだ、紅茶の味がしねぇじゃねぇか」


そう言われて、私が景吾のコーヒーの味を感じていた様に景吾も私のロイヤルミルクティーの味を感じていたのかと思うと何だか恥ずかしくなった

口の中はまだなんとも言えない甘さとほろ苦さが混ざったままだ
だけど決して不味くはない


「冷えは万病の元なんだぜ?
体を暖めてぇなら砂糖より他に有効なものがあるだろ」

「え、ちょ、景吾…」


ぎゅう、っと効果音が聞こえるぐらいきつく抱きすくめられた

バクバク、心臓が慌ただしく熱い血液を送り出しているのが分かる
指先から頭の先まで一気に熱くなっていく
私の体全部が、景吾に熱っされていく

ふわりと優しく髪をすかれて、不意に景吾の指先が私の熱い耳に触れて
その景吾の指先も熱くて、なんだかちょっと嬉しくなる


部屋にはロイヤルミルクティーの香り高い甘い匂いがまだ微かに漂っている


甘いよ、景吾
さっきのロイヤルミルクティーより、ずっと甘い


ぎゅっと景吾の背中に手を回せば、それを待っていたかの様に景吾は私にぐっと体重をかけてきた
ゆっくりとソファに沈められていく柔らかい感覚と、どんどん火照っていく自分の体温を感じながら、まるでロイヤルミルクティーの中に沈められていくみたいだと思った






















甘すぎる空間で大人な味を








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DOGOD69様より
素敵お題お借りしました
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