ゆめA

□じゃんけん
1ページ/1ページ

「ねぇ、国光じゃんけんしよう!!」

「…何故だ」

「いーからハイ!!じゃーんけーん…」






部活終了後の部室
私は備品の片付け、国光は部誌を書く為に、二人で残っていた
けど私の片付けは案外早くに終わってしまって、暇だったから国光の横に座って現在進行形で書き進められていく部誌をじっと見つめていた

そしてふとある事を考え付いた
それがじゃんけんだ


「ぽんっ!!」


無理矢理声をかけて促してみたら、国光はシャーペンを握っていない右手でパーを出した

…あ、負けた

「やっぱ国光はじゃんけんも強いんだね」

「関係ないと思うが」

あ、ちょっと呆れられたかな
でもそういう事じゃないんだけどなー…

国光はまた何事も無かったかの様に部誌に向き直った
私はその横顔をじっと見る

クセがあるのにサラサラの髪の毛、切れ長の目、筋の通った鼻、分厚くも薄くもない形のいい唇…

「…オイ、」

「ん?」

「…見過ぎだ」

「気になる?」

「あぁ、」

「だったらもう一回じゃんけんしよう?」

そう言うと国光は、今度はシャーペンを机に置いた

「何故そんなにじゃんけんをしたがるんだ?」

「じゃんけん、してくれないの?」

「…まず俺の問いに答えろ」

国光の透き通った綺麗な瞳が私を見据える
私はこの瞳に見つめられると途端に、嘘を吐く事も虚勢を張る事も、逃げることすらできなくなる

「いや、どうやったら国光に勝てるかなぁと思って」

「俺に?」

国光は微かに驚いた様な表情を見せた

「うん
だって私国光に何にも勝てないんだもん
テニスも勉強も…見た目も中身も」

「そんな事は…」

「あるよ」

言いながらなんだか悔しくなってきて、思わず国光から視線を逸らした

「私は国光に何か言われたら絶対逆らえないし、国光が言う事は私が言う事よりいつも正しいし」

そう言ってから、覗き見る様に国光の顔を窺ってみたら、国光は小さくため息をついていた

「…ごめんなさい変な事言って
ね、もう部誌書き終わったんでしょ?帰ろ…」

このままの空気じゃヤバイと思って、私は立ち上がって荷物を取りにロッカーの方へ行こうとした
けれど少し遅れて立ち上がった国光が、いきなり私の腰を引き寄せて、そのまま唇を寄せてきた事で阻止されてしまった

「んっ…」

しかも、一度離れた唇はすぐにまた触れて、離れては触れてを繰り返す内にどんどん深くなっていく
左手で腰を、右手で後頭部をしっかり押さえられた私は抵抗する事なんて出来ない
いや、そもそも国光のキスを拒むなんて私には絶対出来ないけど

甘い刺激に脳幹が痺れる
一体どうしたっていうんだろう、しかもここ、部室なのに…

「…はぁっ…な…何?いきなりどうしたの?」

やっと唇が解放され、息を吸い込みながら尋ねる

「お前は、勘違いをしている」

「え?」

何が、と聞くより先に、国光はその態勢のまま私を引き寄せて、私の首元に顔を埋めた

「俺はお前には勝てる気がしない」

「え、嘘なんで…」

「お前といるとたまに自分が自分でない様に感じる」

「…確かに、青学テニス部の手塚部長は部室でキスしたりしないよね」

「…」

私がクスクス笑うと、国光は埋めていた顔を上げて、少しムスっとした顔で私を見下ろした

「…もう一度塞ぐぞ」

「別にいーよ、でもその前にじゃんけんしよう?」

国光の背中に回していた右手を前に持ってきてグーチョキパーをした
国光はまた眉間に皺を寄せて「何故だ」と言った

「これに負けた方は、今日帰るまで勝った方の言う事聞くの」

そう言うと、国光は一瞬面食らった様な顔をしてから、いつもの様に自信に満ち溢れた鋭い瞳を見せた

「いいのか?…俺は負けないぞ」

「まさか、テニスじゃあるまいしどうなるか分からないよ」

さっきは負けたけどね、と言ってから「じゃーんけーん」と声をかける


「ぽんっ!!」


私が出したのはチョキ、国光が出したのは…グー

「あー!!また負けたぁ!!何でぇ!!??」

「だから言っただろう、俺は負けないと」

「じゃんけん弱いのかな…」

私がうなだれるのを見て、国光は今度は深くため息をついた

「お前は…いつも最初グーチョキパーの順に出すんだ」

「えっ!!??嘘!!でも今私チョキ出したよ?」

「その前のでグーを出しただろう」

「デ…データ…乾君みたい…」

「乾でなくともこれくらいの事はすぐ分かる
…それより、勝った方が何だったか」

心なしか国光の顔が楽しそうだ
いや、大丈夫、真面目な国光の事だからあんな罰ゲームみたいな賭け…

「俺は、やると言った事はやるぞ」

「え…」

そう言って国光は指先で私の顎を掬い、軽くキスをした
チラリと片目を開けてみると、国光とバッチリ目が合った
何これ、すっごく恥ずかしい

国光は唇を名残惜しげにゆっくり離してから「冗談だ」と言った

「へ?」

「これ以上ここに居る訳にはいかないだろう、早く出ないと門が閉まる」

と言って国光は、まださっきの熱に浮かされている私から離れて、部誌を片付け、私の分の荷物も一緒に掴んでドアを開けて「帰るぞ」と声をかけた

「う、うん」

私も慌てて部室の外に出た
鍵を閉める国光をじっと見ていると、その視線に気付いたのか、国光がこちらを振り返った

「何だ」

「…もう二度と国光に勝とうなんて思わない事にするよ」

「じゃんけんもか?」

「もう絶対しない!!!!」

キッと睨む様に国光を見上げると、本当に微かに国光は微笑んだ

「それは残念だな」

それだけ言って国光はまたいつもの表情に戻って歩きだした
私もそれの横に並んで歩きだす








手塚国光は確かに最強の男です



























ーーーーーーーーー
あみ様へ
創立記念フリリク
ーーーーーーーーー

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ