現代幸佐

□片恋と恋愛の方程式
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ねぇ、旦那が・・・好きだよ。

ずっとずっと、旦那だけを見てきた。

でも。
この想いは誰にも言わない、自分だけのささやかな幸せ、大事な秘密。

だって、嫌・・・だろ、
俺様なんかが旦那を好きだなんて言ったら・・・さ。



≪片恋と恋愛の方程式≫



「・・・っ、あ・・・ゃ、」
「・・・・・・助っ、佐助・・・」
否定したくとも抗えない甘美な熱が、佐助を苛んでいた。
「は、・・・んっ、あっ・・・」
体内に深く突き刺された幸村の欲の根に、ただ恍惚とその事実を佐助は受け止める。


これは夢、かな・・・。


俺様が願ってばかりいたから。


旦那・・・・・・、

なんで?
どうして俺様を抱いてんだ、よ・・・?
「んっ、あ・・・ふぁ、あ・・・」
いいよ、
凄く気持ちいい。
「旦っ、あ・・・熱っ、い・・・っ」
旦那の熱が、俺様を狂わせる。

夢なら・・・・・・いい、よな。

その広い背中に腕を回して、ただ必死に縋りつく。
足りないと、もっと欲しいと強請るように、佐助は揺れる視界で幸村を見つめる。
「好・・・・・・っ」
幸村の与える快楽に遮られ、開いた唇が言葉を発する事は、出来なかった。
「・・・あっ、やあっんああっ」
がくがくと佐助の身体が震え、限界を訴えると、幸村はその細い身体を殊更強く抱き締めた。
「好きだ、佐助・・・」



・・・。

・・・・・・。

・・・・・・・・・。



「はぁー・・・・・・。」
大きく溜息をつきながら、佐助が寝転がるのは学校の屋上。
「夢じゃ、なかった・・・なぁ・・・」
弁当を食べるのもままならず、口を開けば出てくるのは溜息ばかり。
そんな状態じゃあ、とても飯なんて食えやしない。
昼食をとるのを諦めた佐助は、その場で不貞寝をきめこむ事にした。

旦那の腕・・・力強かったな・・・。

ふと昨日の幸村の熱を思いだし、佐助の顔がほんのりと染まった。


朝、起きたら。
確かに幸村はそこに居た。
それも一糸纏わぬ姿で。
「っ・・・・・・!」
慌てて、でも幸村を起こさないよう、佐助はそっとベッドを抜け出した。
シャワーを浴びながら、頭の中は情事の事でいっぱいだった。
身体中に付けられた情欲の証が、夢ではなかった事を明白にさせる。
鏡に映る鎖骨の痕に触れながら、佐助は切なげに瞳を伏せた。
(好きだとか・・・)
言わなくて本当に良かった。
だって、叶うわけないってわかってるんだ。
でも。
『好きだ、佐助』
あの言葉が、耳から離れない。
昨日の幸村からは、ほんのりと酒の匂いが漂っていて。
だから、おそらく言った言葉に責任があるとは思えない。
だからこそ、やり切れない想いでいっぱいになるのだ。

何でだよ・・・。
何で、あんな事、言ったんだよ・・・。

願うだけでいいと思っていた、いつかは旦那と・・・って。
人知れず、幸村の事を想う時間が好きだった。
だから。
そんな淡い恋心を抱いていた佐助にとって、恋心云々をすっとばした昨日の行為は衝撃的で、だが現実で。

朝はいつものように二人分の弁当を作り、朝食を用意し、いつも通りに冷静を装おうとした。
だが、階段をどかどかと降りてくる幸村の足音を聞いた途端、どうにもこうにも羞恥に見舞われて。

逃げるように佐助は一人で家を出てしまったのだった。



・・・・・・・・・。



「あ・・・ヤバ・・・」

ぼうっと自分の腕時計で時間を確認した佐助は、ぎくりと身を起こした。
どうやらあのまま眠ってしまったらしい。
広げたままの弁当のご飯は、乾いてかぴかぴになっていた。
「やっちゃった・・・」
校庭では部活に励む学生の姿がちらほら増え始めた。
という事は。
午後の授業を、丸々さぼってしまったという事で・・・。
はあ、と大きなため息をついて、佐助は重たい腰をあげた。
「・・・・・・帰ろ」
と、貯水タンク台から飛び降りようとして、ふと佐助は動きを止めた。

すぐ真下に見えた、あれは・・・。

「ッッ!!」
旦那だ・・・。
彼の人を目で捉え、慌てて佐助は更に身を潜めた。
騒がしい話し声がする。
旦那と、あれは・・・旦那のクラスの長曾我部元親と、伊達政宗か。
「で、どうだったんだよ、昨日は」
「honeyの気持ちはget出来たか?」
二人は幸村を囲むようにして腰を下ろすと、にやりと笑った。

「それが・・・その、覚えて無くて・・・」

「「はあっ!?」」
真面目そうな青年を取り囲む、迫力のある片目の男が二人。
見る人がみれば絡まれているような光景だ。
「それが・・・昨日の記憶が、実は途中から抜けているので御座る・・・」
情けなさそうにうなだれる幸村に、政宗と元親は呆れたようにため息をついた。
「確かに今朝は、起きたら佐助のベッドには居たのですが・・・佐助はいなくて、いつもなら先に学校行ったりなどしないのに・・・」
その言葉に顔を見合わせた二人は、にやりと笑った。
おそらく二人の考えている事は同じだろう。
そして「覚えてない」と言った幸村に、なんでこいつは抑えなければならない肝心なポイントを、いつも外すのだろうと同情さえ覚えた。
「そりゃオメェ・・・やっちまったんじゃねぇの?」
「え。」
元親の言葉に幸村が固まる。
そして。
「佐助 押し倒してpartyしちまったって事だろうが。何で覚えてねぇんだよ、アンタ・・・」
言葉尻を引き継ぐ政宗の言葉に、幸村は完全に全機能を停止させた。
「うっ・・・・・・」
「う・・・・・・?」
「うををを〜ッッ!!」
次の瞬間、顔を真っ赤にして幸村が吠えた。
「そっ・・・そそそそんな、はっ、はは破廉恥な事を某が・・・」
まさか、
まさかまさかまさかまさか・・・・・・。
だって。
覚えて、いないのだ。
けれど、一糸纏わぬ姿で、佐助のベッドで目覚めたのは確かに自分で。
いつも必ず一緒に登下校をする佐助に、今朝は置いて行かれたのも・・・自分、なのだ。
「そんな、まさか・・・」
覚えて無いという事に、これ程までに罪の意識を感じたのは、初めてだ。

その時だった。

「なるほどね・・・」
ふいに頭上で響いた声に、三人が同時に振り向く。
「佐助!!」
「そういう事かよ・・・」
頭を抱え込んだまま硬直する幸村と、表情を強ばらせる隻眼の二人を見下ろした後、ストンと佐助は高台から飛び降りた。
「・・・あのさぁ、」
突然のゲストに驚き慄く三人を余所に、佐助は口を開いた。
「うちの旦那、あんたらと違ってスレてないんだからさ、あんま変な事言ってけしかけんの・・・やめてくんないかな?」
いつもどおりの軽い口調。
だが、冷ややか過ぎる程の冷たい視線は、隠そうとして隠しきれない怒りが頭角を表している。
視線で射殺せたらどれだけ心が軽くなるだろう・・・そう思いながら、佐助は政宗と元親から幸村へと視線を移した。
「・・・昨日は。あんたが考えてるような事は何もなかったよ、旦那」
「佐、助・・・・・・」
「安心した?」
「う、うむ・・・ぃや、あの・・・」
何かを告げようとして言い淀む幸村のわずかな怯えに、佐助の心がちくりと痛んだ。
「未成年は飲酒禁止、知ってんだろ」
「うむ・・・」
自分でも気付かぬうちに、口調がキツくなってしまう。
でも。
そうでもしないと、一生懸命でも虚勢を張っていないと、
「・・・酔っ払って部屋間違えるとか、結構迷惑だから」
こみ上げる感情が零れてしまいそうだったのだ。
「すまぬ・・・」
情けなさそうにうなだれる幸村に、自分の方こそが酷く悪い事をしたような気分になる。
昔から、この瞳に弱いのだ。
結局のところ、何が合っても、何をされても許してしまうのが・・・惚れた弱み、なのだ。
「んじゃ、この話はおしまい」
ぽんっと幸村の肩を叩いて佐助は笑った。
それは、いつも通りの柔らかい笑顔だった。
「また後でね、旦那」
ひらひらと後ろ手に手を振りながら、ゆっくりと佐助は屋上を後にした。

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