現代幸佐

□もう一度、笑って。
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神様なんて信じない。

運命なんて言葉はただのお綺麗な飾り物。
その小洒落た言葉を振りかざして、自分に酔いたいだけじゃん。



≪もう一度、笑って≫




俺様さ、前世の記憶があるんだよ。

猿飛佐助がそう言うと。
決まって周囲は、おもしろ半分に食いついてきた。
「へぇ・・・前世は何だったの?」
って。

でも。
自分がかの有名な戦国武将、真田幸村の忍びだと告げると、いつだってそれは大爆笑に変わる。
「すっげー想像力だな、」
と。

・・・本当の事なんだけどな。

まあ、信じて貰えるなんて思っちゃいないし、そもそも信じて貰おうとも思わない。

だが、ただの御ふざけで、他人に話してるわけじゃない。
こうして佐助が吹聴して回っている理由はただひとつ。
誰にどう思われようが、頭が変だと言われようが。

本気で現世の真田幸村を探していたから・・・だった。

たとえ望みは薄くとも、こうして人間を媒体とする情報をばら撒く事で、もしかしたらあの人に辿り着けるかもしれない。
何度転生を迎えても、自分はここ上田で生を受けた。
だから、あの人もきっと・・・。
「真田の、旦那・・・」
そんな欠片程の小さな希望に縋りつきながら、佐助は今日も生きていた。



・・・・・・・・・。



忍びの力を持たない今の自分は、本当にただの普通の学生で。
ただ、幸村に再会出来る事を願うしか出来ない無力な人間だ。

だが。

転機は突然訪れた。

そんな。
日々、不毛な日常を送っていた佐助の目の前に。
「っ・・・・・・!!」

彼の人は、突然現れたのだった。

旦那を見つけた時、感極まって胸が詰まった。
友達と大勢でカラオケに入っていく姿に、・・・いろんな感情が雑多に佐助の頭を支配した。

他人の空似かも、しれない。
でも、自分が感じた脳髄を揺さぶられるような感覚は、きっと間違っていない。
やっと出逢えた・・・のか?
まさか。
何度生まれ変わっても見つけられなかった相手だぜ?
何で今?
どんなタイミングだよ、

許容量崩壊寸前の思考を、必死で抑えつけるように、とにかく冷静になれと。
佐助は必死で自分に命じた。
が、その時だった。
「・・・・・・あっ、・・・」
幸村が、此方を見た。
一瞬、
交差する視線に、佐助は動きを止める。
だが。
「幸村〜!?」
呆然とする佐助を、ハッと我に返したのは。
彼の友人の声・・・だった。

「今行くで御座るっ!!」

彼は、あっさりと佐助から視線を外し、仲間の元へと慌てて走ってゆく。
『幸村』
今、確かにそう呼ばれていた。
あれは・・・やっぱり真田の旦那、だったん・・・だ。
逢えたんだ、
逢えたんだ逢えたんだ逢えたんだ・・・!

自分の勘は外れちゃいなかった。

どうしよう、本当に旦那の事、見つけちゃったよ・・・!!

旦那・・・友達たくさん居た、な。
当然か、無邪気で人懐っこくて、そして素直。
昔、城内や城下の民にも好かれていたように、今でも旦那はきっと人気者に違いない。

けれど。
確かに眼差しは交差したのに。
まるで何事もなかったかのように、何も感じず、幸村は佐助から視線を外した。

もしかして、旦那に前世の記憶はないのだろうか。

それならそれで構わない。
寂しさは募るけれど、それはあくまで自分の感情だから。
だって、だって自分は。
ずっと・・・ずっと、探してたんだよ。
何百年も前から、あんただけが好きだったんだよ。



   * * *



一目、元気な姿を見たいと思っていた。
幸村が、無事に現世に生を受けられたのなら、それだけでいいと思っていたのに。

それが叶ってしまったら、次の願望が沸いてくる。
知らなかった・・・自分は想像以上に我が儘だったんだ。

それでも。

旦那の傍に居たい。・・・なんて、贅沢な望みはしないから。
ただ、毎日、顔を見ていたいよ。
付きまとわないし、話し掛けたりもしない。
あんたの邪魔になるような事は絶対しないから。

だから、バイトを始めた。

「いらっしゃいませ〜♪」
結局のところ。
生まれ変わっても、人間の性格なんて物は、そうそう変わるわけはないんだ・・・。
そう考えると、自分の性格上、本当に忍びに向いていたんだな、と思う。
人目につくのは苦手だし。
接客業なんて・・・大嫌いだし。
けれど。
「836円になります〜」
ここに居れば、旦那の姿を見ることが出来る・・・と。
そう思ったのだ。

先日見た旦那の制服が、地元の公立高校のものだったから。

だから。
その想いだけで、佐助は学校の目の前にあるコンビニで、働き始めてしまったのだった。
そして、佐助のその思惑は予想通りだった。
毎日、登下校中の幸村を見る事が出来た。
ただ、予想外だった事がひとつだけ。
「い、らっしゃい、ませ・・・」
それは。
頻繁に、幸村が買い物に訪れて来る事・・・だった。


「あんまん6つ下さい」


「!?」
思わず客だということも忘れ、ぎょっとする佐助に、背後から我に返るような大爆笑が起こる。
「ぎゃははっ、何だよそれ、買い過ぎー」
「あんまんは美味いで御座るよ?」
「ぃやそーゆー問題じゃねーだろ・・・」
「幸村君、本当に甘党だよね・・・あたしは肉まんのが好きだけどぉ」
「あんまんを悪く言う者は、あんまんに泣くで御座るよ」
「あはは、誰もそんな事言ってないわよ〜」

「・・・・・・。」

そんな会話で盛り上がる学生を横目に、佐助はそそくさとスチーマーへと足を運ぶ。
が。
「あ・・・・・・。」
その瞬間、
「すみません・・・」
佐助はスチーマーの扉の前で、動きを止めた。
「?」
「今・・・あんまん、3つしかなくて・・・」

昔、一番見たくなかった・・・旦那の悲しそうな顔が目に浮かんだ。



『旦那、団子食い過ぎだぜ・・・今日はもうおしまい』
『うぅ・・・』
『そんな顔しても駄〜目、』


「っ・・・・・・、」

昔の記憶が、交わした言葉がふいに蘇った。

だが。

「や、普通にそーだろ」
「だな、常時あんまん6個も蒸かしてる店なんて、そうそうねーよ」

間髪入れずに、幸村にツッコミが入る。
今の幸村をフォローするのは・・・現世での幸村の友人達、なのだ。
そしてそれは、決して佐助では・・・ない。
「申し訳・・・ありません」
自分はただ、客である幸村に。
謝る事しか・・・出来ないのだ。
「ならば今日は3つにするで御座る」
申し訳無さそうに頭を下げた佐助に、幸村はにっこりと笑ってそう言った。
無いものは無い、仕方のない事だ。
「はい、すみませんでした」
「明日は6つ、売ってくれるで御座るか?」
「え・・・・・・」
明日・・・?
「あ、はい」
「じゃあまた明日の昼休みに来るで御座るよ」
予約だ!
そう言って、幸村は嬉しそうに笑った。
「はい、準備して・・・お待ちしてます」
「ありがとうっ!!」
その、嬉しそうな笑顔が一気に弾ける。
ぱあっと満面の笑みを浮かべた幸村に、佐助もぎこちない笑顔を向けた。


『佐助ぇ・・・明日また食べていいで御座るか・・・?』
『はいはい、用意しとくから』
『まことか!?』
『まことまこと。明日も同じ団子でいいのかい?』
『うむ、ありがとう佐助っ!!』


ありがとう。


そんな、他愛のない言葉に、ただの挨拶程度のやりとりに。

涙が、出そうになった・・・。

交わす言葉、リフレインする記憶と感情。
どうしよう、
好きだ・・・やっぱり。
どうしようもなく、旦那が好きだよ。
無邪気に昔と同じ言葉を紡ぎ、昔と同じ笑顔をくれる。

「・・・残酷だ、ね・・・」
学生達が去って、静けさを取り戻した店内で、佐助はぽつりと呟いた。

昔も今も、苦しい片恋。

また、こんな想いをするのなら、出逢わなければ良かったのかも・・・しれない。
幸村に会いたい、
その一心で探し続けていた、出会う前までのあの頃が一番幸せだったのかも知れない。
これは自分で招いた結果、
ただ探すだけで。
出逢ってしまってからの事など、考えてもいなかったのだから。
「きっつい、な〜・・・」
改めて、佐助は自分の浅はかさに、頭を垂れた。

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