現代幸佐
□こんな雨の日には
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こんな雨の日には、あんたに無性に会いたくなる。
会いたくて、声が聞きたくて。
太陽のような、その笑顔に恋い焦がれる。
《こんな雨の日には》
『台風が来てるからさ、今日はやめようよ。』
メールで断った、デートの約束。
一方的に約束を破棄したのは自分なのに、心にぽっかり穴が空いたような、こんな虚無感に襲われるのは何故なんだろう。
佐助は携帯を握り締めたままの拳を、額に押し付けた。
返信は、来ない。
わかってる。
真田の旦那は今、一生懸命バイトに励んでいる頃だから。
はぁ、と溜め息をつきながら、佐助はごろんとベッドに身を沈めた。
・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・。
そうしてどれぐらいの間、ぼうっとして居ただろうか。
うとうとと、うたた寝でもしていたのかもしれない。
ふと時計を見れば、もう夕暮れ時を過ぎていた。
佐助は、握り締めたままでいた携帯を、ゆっくりと開いた。
「・・・・・・返信はなし、か」
もう、バイトも終わっている時間だ。
電話・・・してみようか。
一方的に約束を反故にした詫びと、代わる次の約束を。
幸村の電話番号を呼び出し、通話ボタンを押そうとする指が、ふと止まった。
返信が来ない事の理由を考えた、その答えに行き当たった時、佐助の指が金縛りに合ったように動けなくなってしまったのだ。
いくつか想像した佐助が導き出した答えは、どれもマイナス要素が強く、不安だけが募っていく。
旦那・・・怒ってるのかもしれない。
自分がバイト中で連絡出来ないのをいいことに、一方的にあんな断りメールを送った佐助に、憤っているのかもしれない。
それとも。
バイト中に旦那に何かあったのかもしれない。
怪我、とか事故・・・とか。
とにかく、佐助に連絡出来ない事態に陥っているのかも、しれない。
もしくは。
例によって携帯を家に忘れちゃったりなんかして、自分からのメールを見ていないのではないか・・・?
・・・もしそうだとしたら。
ガタンッとベッドから転げ落ちるようにして佐助は身を起こした。
パーカーをばさっと肩にかけ、慌てて佐助は部屋を飛び出した。
もしかしたら、この雨の中、待っているかもしれない・・・!!
その時だった。
聞き慣れたインターホンの音と共に、カチャリと玄関の鍵が勝手に回った。
「、え・・・・・・」
ドアが開いた瞬間、佐助はただぼうっと立ち尽くしていた。
「どう、して・・・」
かろうじてそう言葉を紡ぐも、佐助の声は酷く掠れていた。
幸村がメールの返事をくれなかった理由。
佐助の元に、会いに来る。
「嘘、・・・だって・・・」
その幸村の行動は、佐助の選択肢に入っていなかったのだ。
そもそも合い鍵を渡したのは佐助の方だったが、此の人が実際使ってみせたのは初めてだったから・・・。
「っ・・・・・・!!」
気付いたら、しがみつくようにして、佐助は目の前の人物を抱き締めていた。
「佐助・・・どうしたのだ?」
佐助の積極的な行動に、顔を真っ赤にしながらも、幸村は優しく佐助の身体を抱き締め返した。
「・・・・・・た、かった・・・」
「え?」
「会いたかった・・・っ」
更に密着させるように、ぎゅうぎゅうと抱き締める身体をやんわりと引き剥がすと、幸村は「馬鹿者」と少し困ったように笑った。
「ならば何故あのようなメールを打つのだ」
雨だから、外で遊べない。
だけど会いたいと。
素直にそう言えばいいのに。
もっと甘えてくれれば嬉しいのに。
佐助は感情を言葉にするのが苦手だ。
きっと、断りのメールを入れた後、気分が沈んでいたに違いない、そうあって欲しい。
佐助が感情を素直に出せないのであれば、自分が行動を起こせばいいのだ。
多少強引でも構うものか。
・・・そう思う一心で、幸村は佐助の家を訪れた。
たかが悪天候が理由なだけで、佐助と過ごせないのはまっぴらなわけで・・・。
「俺も、佐助に会いたかったぞ」
だから、来た。
迷惑か?
そう問えば、幸村の胸に顔をうずめたまま、ふるふると佐助が首を横に振る。
そんな仕草が理性をとばしてしまうかと思うほど、可愛い。
「台風など理由にするな、佐助」
額に唇を落とした。
うっすらと涙を溜めた目尻に、鼻先に、頬に。
そしてゆっくりと唇を重ね合わせた。
「ん・・・・・・。」
甘く漏れる吐息に、幸村は安堵のため息を零した。
「遅くなってすまなかった・・・」
・・・こんな雨の日は、あんたと一緒に居たい。
「今日は何をしようか、佐助」
どんなに外が悪天候でも、あんたの居る場所だけは晴天だ。
「旦那は何したい・・・?」
「佐助と一緒に居たいぞ」
ふいをつくように言われた言葉に、佐助の顔が真っ赤に染まった。
「馬鹿・・・そんなの前提、だってば・・・」
― End ―
雨降りに恋1/10題
お題提供:確かに恋だった
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