現代幸佐

□Cavity & depression
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≪Cavity & depression≫



「ちょ・・・旦っ」

仰け反り逃げようとする佐助に、容赦なく幸村が覆いかぶさる。
「ほら、もっと大きく開け」
「ゃあっ・・・も、指抜いて」
嫌だと、必死に訴える佐助をものともせず。
見つけた、と一言呟くと、幸村がある一点を緩く押した。
「あっ、無理、奥駄目ぇっっ!」
激しく首を左右に振って、苦痛をやり過ごそうとする佐助の後頭部をがっつりと幸村が押さえ込み、佐助の自由を奪う。
「っ、いっ・・・んああっ・・・」
幸村の制服の裾をぎゅっと掴むその必死さに、幸村がその手を上から重ねて握ってやる。
「痛いか、佐助・・・」
「んっ、痛い・・・動かさない、でっ・・・」



「明日にでも病院に行け、腫れてる」



少しだけ気の毒そうに顔をしかめ、幸村は佐助の口から指を引き抜いた。
半分涙目になりながらも「ありがと」と礼を言うと、佐助は首を小さく傾げた。
「そんな酷い事になってる・・・?」
「ああ、奥歯が真っ黒だ」
「マジ・・・?」
佐助が大きく溜息をついた。
「日頃の鍛錬を怠るからだ」
「ぃや歯磨きだから。つか怠ってないし・・・」
嫌だなあ、と佐助は眉を顰める。
だが、この奥歯の痛みは日増しに強くなっていた。
とうとう誤魔化しが利かなくなったのが、今日だったのだ。


・・・虫歯だと、わかってはいたけれど。


嫌だなあ・・・。
もう一度、大きなため息が佐助の口から零れ落ちた。
「そんなに嫌か?」
佐助の気持ちが顔に出てたのか、もしくは知らぬ間に言葉にしていたのか。
的確に幸村が佐助の気持ちに会話を合わせてきた。
はあ、と気がつけばもう何度目かの、佐助のため息。
「そりゃ好きな人はいないでしょーが、特に歯医者なんてさ」
歯ぁ削られて、痛くって・・・。
あの研磨音を聞くだけで、身の毛がよだつというかなんというか・・・。
「一緒に行ってやろうか」
「冗談よしてよ、子供じゃあるまいし」
にやりと笑って佐助の頬に触れてくる幸村を、迷惑そうに顔をしかめて、その手を軽い仕草で払った。
「明日、必ず行けよ」
「・・・・・・。」
「佐助、返事」
不機嫌そうに口を閉ざす佐助に、なおも可笑しそうに笑いながら、幸村が返事を催促する。
「・・・・・・はいはい。」
そんな佐助の拗ねたような仕草が可愛く、思わず顔に笑みを浮かべれば、ますます佐助の眉間に皺がよる。
「・・・ねぇ旦那」
「何だ」
「●露丸・・・歯に詰めたら治る、とかいうよね・・・?」
「・・・佐助」
今度はため息をついたのは幸村の方だった。
佐助のが遷ったなと自嘲しながら、相変わらず不機嫌そうな佐助の腰を抱き寄せた。
「何をそんなに嫌がる。子供みたいだぞ」
「そんな事は・・・」
図星を突かれたかのように、佐助が視線を気まずそうに逸らした。
「なんで旦那こそ・・・そんなに心配してくれんのさ」
心配してくれるのは嬉しいけれど、ちょっと過敏過ぎない?
と佐助が幸村を上目遣いで見上げると、その表情を確認する間もなく瞼に口付けられ、佐助の視界が閉ざされた。

「・・・・・・内緒だ」

佐助の腰に絡めた腕を解きながら、「とにかく明日絶対歯医者に行けよ」と幸村が念を押すと、何故か逃げるように自室に姿を消した。


「・・・・・・変な旦那」


   * * *


大人気ないと思われるかもしれない。
薄情だと思われるかもしれない。
幻滅されたら、それこそ立ち直れない。

・・・だから言えない。


キスする度に、顔をしかめられるのは結構ショックなのだ・・・・・・なんて。


言えるわけない。


いかにも自分の都合・・・みたいな言い訳になってしまいそうだったから。
「ごめんな佐助・・・」
心配しているのは本当だ、それは嘘じゃない。
だけど。
佐助の行動、表情、仕草・・・その一つ一つに一喜一憂する自分が居る。
その唇に触れた瞬間、びくりと身体を強張らせる佐助が嫌だ。
いつもと違う、緊張感に固くなる佐助が嫌だ。
歯の痛みに耐えながら、幸村に唇を許す佐助の辛そうな表情が嫌だ。

虫歯だと知らなかったから、本気で佐助に嫌がられているのかと、かなり傷ついたのだ。

だから、佐助には早く治ってもらわないと、あんな事もこんな事も出来ないじゃないか。

そんなやましい事を考えながら、ひとり幸村は自室で頬を赤らめていたのだった。



― End ―

時雨 葵さまに捧げます。キリリク有難う御座いました♪
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