現代幸佐

□頑張ってみようか。
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「もう無理っ・・・・・・」

佐助は部屋を飛び出した。

正直、もう耐えられない。
ずっと頑張っていたけれど・・・もう限界だよ、旦那・・・。


《頑張ってみようか》


・・・俺様、真田の旦那が大好きだ。

素直なところも、猪突猛進なところも、真摯なところも、子供っぽいところも。
全てひっくるめて大好きだよ。

あんたの望むことなら、そして自分に出来る事なら何でもしてやりたいって思ってる。
だから頑張ってる・・・つもり、なんだ。
いつだって・・・昨日も今日も、きっと明日もその次も、旦那の為だけに頑張る。

なのに旦那は・・・

「っ・・・・・・」

とうとうずっと我慢していた涙が一筋頬を伝った。
「痛ぃ、や・・・はは・・・・・・」

辛い、痛い、もう耐えられない・・・。

一度零れ落ちた涙は堪えることを知らず、次から次へとしとどに佐助の頬を濡らしていく。

「旦那の、馬鹿・・・」

もう・・・終わりに、しようか・・・。

この瞳を閉じてしまおう。
そうすれば・・・こんな思い、しなくて済む。
辛い思いも、この痛みも何もかも・・・。

「佐助っっ!!!」

突然。

目の前に幸村が現れた。
「旦那・・・」
顔を覆う腕を掴まれ、佐助がびくんと身体を強張らせる。
「どうしたのだ!?」
「・・・何でもない、あっち行っててよ・・・」
顔を覆うものがなくなり、恥ずかしさに俯けば、それすらも幸村の手に阻まれた。
顔を上げさせられ、困ったように眦に唇を這わせてくる旦那の唇が、熱いよ・・・。
「そんなに泣いて、何もないわけがないだろう」
引き寄せられて、抱きしめられる。

ああ・・・。

俺様、あんたのその優しさに弱いんだよね・・・。
やっぱりあんたの腕の中はあったかいや。
「・・・・・・ずるいよ」
そんな事されたら、やっぱり頑張ろうって気になっちゃうじゃんか。
「佐助・・・」
心配そうに覗き込んでくるその表情は卑怯だよ旦那、あんたの笑顔が見たいと思っちゃうじゃん・・・。

「旦那が、悪いんだよ・・・」

「・・・・・・すまぬ。」
「まだ何も言ってない」
「だが、おぬしが泣いているのは俺のせいなのだろう?」
涙に濡れた瞳を薄く見開いて、自分を見つめる幸村に視線を合わせれば、また少し痛みがはしった。

「俺様、今日はちゃんと決めてたのに・・・」

黙って佐助の紡ぐ言葉を待つ幸村に、やがて・・・佐助はぽつぽつと話し出した。

「旦那が・・・急に我が儘言うから・・・・・・っ・・・!」

涙ながらに訴える佐助に、思い当たるところを見つけたのか、幸村の眉がぴくりと吊り上がった。
「なんと・・・許せぬ!!」

次の瞬間、

がばっと佐助を引き剥がし、幸村はその瞳に色濃く怒りを灯した。
「佐助をこんな目に合わせるとは許し難しぃぃっ!!!」
「ちょっ、待っ・・・旦那〜っっ!!」

佐助が慌てて引き留めようとした時には既に時遅く。

キッチンに飛び込んだ幸村が、まな板ごと、その『元凶』をひっくり返していた。
「ぎゃああっ、何やってんのさ旦那の馬鹿ぁっっ!!」
「・・・佐助を泣かせるとはとんだ無礼者よ」
「余計な事すんなぁっっ!!」
勝ち誇ったように笑う幸村に、別の意味で泣きそうになりながら、佐助は幸村を怒鳴りつけた。
「・・・・・・あーもぉ・・・台無しじゃん・・・」
その場に力なくへたり込む。

やばい、ほんとにもう限界・・・一気に何もする気がなくなった。

「すっ・・・すまぬぅ・・・」
ふいに我に返ったのか、急におろおろとし出す幸村を、上目遣いに睨み付けた。
床に崩れ落ちた佐助に、向かい合うようにしてしゃがみ込んだ幸村が徐にうなだれる。

「旦那がハンバーグ食べたいって言うから・・・」

だから俺様・・・頑張ってたのに・・・。

「旦那・・・・・・」
「・・・・・・。」
「結構大変なんだよ『玉葱のみじん切り』、わかってんの?」
無残に床にばらまかれた残骸を力無く拾い上げ、悲しそうに佐助が呟く。
「・・・・・・忝ない」
「目にしみて痛いし辛いし、涙は止まらないし、おまけに結構時間かかるし・・・」
ああもう、せっかく頑張ったのに。
小言の一つや二つじゃ治まんないよ。
「俺様いつも言ってるよな、食べ物を粗末にす・・・・・・
「佐助を粗末にしたくない」
「え・・・・・・?」
佐助の止まらない小言を遮り、ぼそりと告げた幸村の一言に。
不意をつかれたように、佐助の動きがピタリと止まった。
「・・・・・・俺は、食べ物より佐助の方が大事なので、その・・・」
「っ・・・・・・」
「・・・佐助を泣かす食べ物など、この世にいらぬ」
気まずそうに俯きながら、淡々と言葉を発するその口に、佐助の顔が急激に火照っていくのが自分でわかった。
「お馬鹿さん・・・・・・」


今日の夕飯はパスタにしようと決めていたのに。


我が儘を言われた挙げ句、苦労した玉葱のみじん切りも駄目にされて。
なんなのさこの仕打ち・・・。

そう思っていた筈、だったのに・・・。

佐助の心にじんわりと暖かい熱が浸透していく。

目の前のこの主が可愛くて、愛しくて・・・。

思わず幸村の頭を包み込むように抱き締めると、ホッとしたのか、更に強い力で幸村に抱き締め返された。

ほんとに俺様、旦那に絆されてるや。
その一言で全て許してしまう自分も大概甘いと思うけれど。

「ごめんな、佐助・・・」
「いいよ、もう・・・」

俺様を想っての行動だったのならば。
それはもう・・・怒るに怒れないじゃん。

やっぱり俺様、旦那が大好きだ。

大好きだから・・・頑張るよ。


「さて。やるかな」
立ち上がって、佐助が新たな玉葱に手を伸ばす。


旦那が駄目にしてしまった分、頑張ってみますかね。



― End ―

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