小十♀佐

□不如帰が綴る唄
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貰える情報は貰った、探る所も探り尽くした。
だから最早、用はない。
こんな不気味な場所に、長居は無用だ・・・。



≪不如帰が綴る唄≫




草木も眠る丑三つ時。
周囲を照らす月の、驚く程に不気味な赤さに、猿飛佐助はぶるっと身を震わせた。

今宵は武田軍総大将、武田信玄の密命を受け、佐助は敵地へと赴いていた。

俊敏に、だが無音で木々の枝を渡り飛んで進みながら、少しでも早く帰路につきたいと、佐助は心底そう思っていた。
だが、山の中枢まで下ってきた時、ふと気配を感じ、佐助は動きを止めた。
息を殺し、気配を殺し、ゆっくりとそれに近付く。
「っ・・・・・・!」

あれは。

ひとりの見知った男が。
織田の忍びに囲まれて、いたのだ。

次の瞬間、勝手に身体が動いた。
複数の気配に煙幕を張る。
そして、その中心に立ち竦んでいた男を担ぎ上げ、佐助は空に舞った。

敵が追ってこない事を確認すると、佐助は地に降り男を解放した。
「あんたは・・・」
「奇遇だね、こんな所で会うなんて、さ」
突然の佐助の介入に、驚きを隠せないといった表情を浮かべる男に、佐助はにっこりと笑いかける。
この男はもしかしたら佐助を知らないかも知れない。
だが、佐助は彼を知っていた。
だから助けたのだ。
この御時世で、間諜が殺し殺されるのは、当然の事で。
情報を盗む方は勿論、当然 守る方だって必死なのだから。
別に自分は偽善者になりたいわけじゃあ、ない。
だから、今のを見なかった事にして、普通に素通りする事など・・・わけもなかったのだけれど。
この男が伊達軍の侍、だったから。
だから、助けたのだ。

名前は、知らない。

だが、あの双竜の傍によく居たから、佐助は顔を覚えていたのだ。
「もしや武田の・・・」
それにようやく気付いたらしい男の声に、佐助は小さく頷いた。
さすがに同盟を結んだ国の兵を見放したとなれば、真田の旦那も黙っちゃいないだろう。
何より佐助自身が、そこまで薄情にはなれなかったのだ。
「助けられたな・・・」
「いいって、困った時はお互い様〜ってね」
「忝ない・・・」
「それにしても、独眼竜も酷な事するねぇ」
「え?」

少しだけ感じた違和感。

何でこんな所に。
こんな夜半に、密命に。
伊達政宗は、専門職の忍びではなく。
一般兵を送り込んで来たのか、と。

だがその疑問を解消する時間は、佐助には与えられなかった。
「早く逃げな」
それにいち早く気付き、佐助は短く言葉を発した。
「しかし・・・」
「俺様なら大丈夫、」
先程の織田の夜警団がゆっくりではあるが、確実に佐助の背後に忍び寄っていたのだ。
「早く・・・・・・」
気配が、接近してくる。
「一つ・・・頼んでも?」
その佐助の緊迫した表情に、声を殺して男が言った。
「帰郷の折り、甲斐の武田様に情報を提供して来るようにと・・・筆頭から言い遣ってるんです」
懐をぎゅっと握り締める男に、佐助はその意図を即座に理解する。
小さく頷きながら、佐助はそれを受け取ろうと手を伸ばした。
「わかった、俺様が責任もって大将に届けるよ」
男が佐助に身を寄せ、懐から中身を取り出した。
だが。

「・・・え・・・・・・っ?」

その瞬間、
佐助は脇腹に鋭い痛みを感じた。


男に、刺された。


そう悟ったと同時に、反射的に佐助は臨戦態勢をとろうとした。
だが一瞬垣間見せた油断が、佐助の判断を鈍らせた。
「ぅああっ・・・!」
踏み切ろうとした中足骨に、今度は激痛がはしる。
佐助の右足を貫通した刃は、深く地に突き刺さった。
「っく、ぅ・・・」
脇腹に刺さったままの短刀と。
足を地に縫い付けた腰刀に、佐助の顔が痛みに歪んだ。
「っ・・・!」
その隙を逃さず、男は佐助の両腕を背中から羽交い締めし、拘束具で完全に動きを封じた。
そして。


「もう・・・いいぞ」


不敵に笑って、
男が、言った。
「っ・・・・・・、」
男の言葉に、先ほど見た織田の夜警団達が、姿を表す。


「そういう、事・・・」


この男が、
助けてやったと思っていた同胞の侍が。

実は、
間諜だった、のだ・・・。

騙されたのだ、自分は。
織田の兵に囲まれていたと、思っていたあの姿はそうではなく。
夜警団を囲ませ、この男が中心になっていた・・・のだ。

馬鹿だ、自分は。
今頃やっと、気付く、なんて・・・。

自分のあまりの浅はかさに、悔しそうに佐助は唇を噛み締める。
男は先程とは一転、勝ち誇るかのように、佐助を見下していた。
「この女、好きにしていいぞ、ただし・・・」
憎しみを込めて睨み付ける佐助を、ニヤリと笑いいなし、男が高らかに告げる。

「最後は・・・殺せ」



・・・・・・・・・。



好きにしていい。

そんな事を言われて、次に何が起こるか。

わからないほど無知じゃない。

実際それを言われた後の、男達の変わった目の色も目の当たりにし、佐助はある種の覚悟を決めて居たのだ。

男が悠々と去っていく。
それに続く夜警団が二分され、今この場に居るのは佐助と、兵士が五人ほど残された。
「っ・・・・・・!」
いきなり背後から肩を引き倒され、簡単に地に転がされる。
腰刀が刺さったままの足は蹴り上げる事も適わず、なすがままに四肢をそれぞれ別の人間に押さえつけられた。
「痛っ・・・・・・ぅあ・・・」
そうして佐助から全ての抵抗を奪った事を確信し、男は二本の刀を佐助の身体から引き抜いた。
どくどくと生暖かい血液が流れ出すのがわかる。
(やばい、かも・・・流石に)
出血多量で身動きが完全にとれなくなる前に、この最悪な状況を打破しなければ。
そう思うのに、無惨に開かれた左右の足の間に、男が入り込んで来る。
佐助はそれを、ただ無抵抗のまま迎え入れさせられるしかなかった。

どうする、
どうする?
どうすれば、いい・・・?

「っあぅ・・・・・・っ!」
突然、先ほど刺された脇腹に拳が叩き込まれた。
「何考えてんだ?」
「・・・・・・。」
「こんな時に考え事とは、随分 余裕だな」
「・・・・・・。」
「ま、やめとけよ。考えるだけ無駄だ」
男のその言葉を合図に、四方から手が伸ばされる。
佐助はじくじくと痛む脇腹の痛みに耐えながら、瞳をぎゅっと閉じた。
「忍び喰うのなんて初めてだよな」
「ははっ、女は女だ、大差ねぇって」
「それにしても、脱がしにくいな・・・クソ、なんだこの服は」
下品な男達の声が、口々に佐助へと浴びせられる。
「・・・・・・。」
それに言い返す事もなく、佐助はただひたすら無になり、事の流れに身を任せていた。
だが男のひとりが、先ほど佐助の足を貫いた腰刀を手にした時、佐助の感情の均衡は破られた。
ぶつっと嫌な音を立てて、腰紐が切られる。
そしてゆっくりと、肌をなぞるように刀を肌の中に無理矢理に潜り込ませてきた。
「っ・・・・・・、」
肌に触れる、刀峰の冷たさに身体が震えた。
びくんと反射的に身体を上下させた佐助に、気分を良くしたのだろう。
男はその刀を一気に真上に引き上げた。
「っ・・・、」
びりびりと派手な音と共に、佐助の装束は切り裂かれる。
露わにされた佐助の上半身と、直に感じる初冬のひんやりとした外気。
そして次に感じたのは、冬の寒さとは違う、禍々しい程の悪寒だった。
(気持ち、悪・・・い)
気味の悪い、生暖かい感触が胸に触れた。
「!!」
「意外といいもん持ってるぜ、この女」
ぐにぐにと乱暴に胸を鷲掴みされ、嫌悪感に佐助は思わず顔を背ける。
「こんなんで締め付けちゃあ可哀想だぜ」
だが男は嘲笑を浮かべながら、端切れと化した無惨なサラシを、佐助の目の前へとひらひらと落とした。
再び、さっき聞いたような布の破けるような音が、した。
今度は、佐助の下腹部を覆う装束が切り裂かれたのだ。
複数の人間に凝視され、恥辱に耐えるように佐助はきつく瞳とじた。
その瞬間だった。
「っ、は・・・・・・っ」
下腹部に生じた焼け付くような鈍痛に、無意識に佐助は目を見開いた。
あまりの痛みに、一瞬 思考回路が機能停止に見舞われた。
「イイぜ・・・すっげぇ締まる」
獣じみた吐息を漏らしながら発する言葉。
男のその表情は、快楽に酩酊している。
この男に貫かれたのだ、とわかった。

別に前戯をして欲しかったわけじゃない。
それこそ・・・気持ち良くなどなったら負けだと思うから。

だから好きなだけ痛くすればいい、
痛みなら、いくらだって耐えてやる。
そうは思っていたけれど。
外気に晒され、寒さに萎縮した佐助の秘所に、熱く滾った男のものは流石に今の身体には辛すぎた。
(下手くそ・・・っ、痛・・・いって、の・・・)
そんな事はお構いなしの男は、がつがつと強く腰を打ち付け続ける。
そして身体に触れる複数の手が、舌が、ただ気持ち悪くて仕方なかった。


痛い、苦しい・・・痛い・・・気持ち、悪い・・・。


胃液が逆流しそうな嘔吐感に、佐助は必死に耐える。
声だけは絶対にあげるものかと、強く唇を噛み締める。
発情した男の吐息が、下品過ぎる程の喘ぎに変化した。
佐助を貫く男の顔がうっとりと恍惚に頬を染めた。
「うっ・・・」
短い喘ぎと共に、佐助の体内へ熱を吐き出す。
そうして男は満足そうに、佐助の体内から自身を抜いた。

が。

ほっと一息をつく間も、佐助には与えられてはいなかった。



「次は俺だ」
抜けたと思ったら、ゆっくりと佐助の中に、次の男が挿入ってきた。
「っ・・・・・・、」
だが、散々乱暴に掻き回されたせいか、最初の男の時のような衝撃はない。
佐助の体内へと全てを埋めると、男はニヤリと笑って佐助を見下ろした。
男はそのまま動かない。
(何・・・考えて、る・・・?)
訝しげに佐助は男を見上げる。
だが男は嘲笑を浮かべたまま、やはり動く素振りを見せない。
(こいつ・・・・・・)
嫌な予感が、する。
何かはわからないけれど、とてつもなく嫌な予感が。
そして、その予感は直ぐに的中した。
「あっ・・・ん・・・」
一瞬、
この声が、誰のものなのかわからなかった。
今、佐助を貫いている男に気をとられていたせいで、気付かなかったのだ。

だが、無意識に零したそれは、まがいもなく自分の声音、だった。

身体を貫く男と、這い回る男達の手に。
佐助は確かに快楽を感じ始めていたのだ。

好きに弄ばれていた胸が、ふいに生暖かいものに包まれる。
男のぬめった舌が、佐助の胸の突起に口付け、舐めまわし、歯をたてていたのだ。
(あっ、やっ・・・嫌、だ・・・っ)
心とは裏腹に、びくびくと身体が跳ねる。
「んっ、あ・・・あ、」
そしてその時、佐助は今 自分を貫く男の意図を悟ったのだ。
びくびくと反応する身体。
揺れる腰が、佐助の体内に緩い刺激を送り込む。
(こん、なの・・・って・・・)
佐助の体内に埋まったままの男のものと、緩く擦れ合う。
それが酷くもどかしくて、腰が本能のままに求めてしまう。
「もしかして感じてんのか、お前・・・」
「っ、違・・・・・・ぁんっ」
そんな佐助の変化に気付いたのか、男が一気に佐助の中から腰を引いた。
そして再びゆっくりと男は佐助の中へとに腰を進めた。
「あ、あ、・・・・・・っ」
焦らすような腰の動きが、佐助の身体を殊更大きく震えさせた。
「ははっ、こりゃいいぜ」
乾いた男の笑い声にハッとなる。
「乳揉まれて感じたか? 焦らされてもどかしくて辛かったか?」
「違うっ・・・」
「違わねえよ、この淫乱」
「っ・・・・・・!」
揶揄され言葉を失った佐助に、男達の笑い声が追い討ちをかける。
羞恥に勝手に染まる頬は、男達の下品な言葉に対するもの言わぬ肯定の証だ。
だが、何か言葉を発しようとすれば、絶妙な間合いで自分を支配する男が、いなすように腰を揺さぶってくる。
(畜、生・・・・・・っ!)
悔しそうに唇を噛み締め、佐助は男達の言葉と、与えられる快楽に耐えるしかなかった。
「ははっ、馬鹿な女」
「さすが忍びだ、肝座ってんな」
「まわされて、好きでもねえ男のもん喰わされて、最後にゃ殺されるってのに、それでも気持ちイイってか」
身体と。
そして心が受ける衝撃に、思わず涙腺が緩んだ。
「ぅ・・・るさ、い・・・っ」
でもこれは最後の意地だ、
涙だけは見せたくなかった。
強く自分を揺さぶる快楽に必死で耐えながら、佐助は男が自分の中で絶頂へ駆け上がるのを感じていた。



(あと・・・三人・・・)



それは、自分を犯す男の数であると同時に、自分の生命の終わりへのカウントダウンだ。
男が弾け、離れていくのを、佐助はどこか他人事のように感じていた。

「それにしても可愛げがねぇよな」

そんな言葉を漏らしたのは、次に佐助を貫いた男だった。
「鳴けよ、足りないって・・・もっとくれって」
「っ・・・・・・、」
ニヤニヤと楽しそうに笑いながら、それでも少しだけ不機嫌さを表しながら。
男はいやらしく佐助の太腿を撫で回す。
「ああ、恐怖に泣き叫んでもいいな・・・怖いって言ってみな?」
一度、火の着いた佐助の身体は、従順に快楽を感じ取ろうとする。
「嫌だって、誰か助けてって懇願してみるか?」
きつく噛み締めた唇は血が滲み、もはや痛みすら麻痺してしまったかのように、歯が唇にくい込んだ。
それでも佐助は揺れる腰を、止められない。
この上なく屈辱的なのに。
なのに、身体が喜んでいる。
自分を犯すこの熱が、気持ち良くて仕方ないと、感じている自分がただ愚かしくて。
(あっ、やぁ・・・何でっ・・・嫌っ、なの、にっんぁ・・・)
容赦なく体内を掻き回され、叩き込まれ、思わず強請る言葉が零れそうになる。
男の動きは容赦ない。
「おら、何とか言ってみせろよ」
「・・・んっ・・・、く、ぁ・・・」
佐助が頑なに貫こうとする意地を崩すべく、更に激しく腰を揺さぶってくるのだった。
(ひぁ、んっ、やあぁ・・・あ、んっ)
パンパンと肌の触れ合う乾いた音が、やたら卑猥で余計に羞恥を煽り、佐助の感情は高ぶっていく。
「会話にもなんねえか・・・俺の声、聞こえてんのか?」
「ぅあ・・・・・・は、ぁ・・・っ」
「聞こえてねえな、悦すぎて声も出ないってか、光栄だねえ」
「んなワケなっ、ん、く・・・っ」
ささやかな反論すらも、男の腰の動きに封じられてしまう。
無意識に何かに縋りつこうとする腕も、押さえ込まれているせいで、ぴくぴくと指先だけが切なげに戦慄いた。
「可愛くない女は嫌われるぜ」
それでも声は出さない。
ただ、この男の見下したような態度と、威圧的な口調だけが、佐助の理性を繋ぎ止めていた。

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