小十♀佐

□二者択一の定義
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※ 佐助は初めから伊達軍の忍び設定です♪


≪二者択一の定義≫




外交遠征から帰路に着き、主 伊達政宗から離れたのはほんの数刻前。
猿飛佐助は今、使った忍具を手入れしている最中だった。
・・・・・・が。
「おい、ボンレス猿飛」
「何ですか、ペーパー伊達サマ」

その、別れた筈の主が何故か今、此処に居る。

「・・・いつも言ってるけど。此処はあんたの来る所じゃないよ」
大型手裏剣に丹念に椿油を塗り込めながら、佐助は政宗の方を見る事なく小さくため息をついた。
別に喧嘩を売っているわけでもなければ、無視を決め込んでいるわけでもない。
ただ、主のその表情が、手に取るように判るだけの事だ。
「ペーパーで止めんじゃねぇよ、Paper moon伊達政宗だ」
三日月を紙切れなんかと一緒にするな、と。
案の定、不機嫌極まりないと言った声音が佐助の頭上から降り注いだ。
「はいはい・・・どっちでもいいですけどね」
「良くねぇ、雲泥の差だ」
「あぁもう、ごめんなさいってば!」
ここで、ようやく佐助は手を止めた。
自分を見下ろす政宗をそのまま見つめ返し、佐助は今度は明らかにわかるようなため息をつく。
「で?」
「Aha?」
「どうしたのさ、用があるなら呼んでくれれば、直ぐに行くっていつも言ってんじゃん」
「俺の領地で俺が立ち入れねぇ場所はねぇ」
「そりゃそうだけど・・・」
別に意地悪で忍小屋に近付くな、と言っているわけじゃないのだ。
「此処は危険なんだって・・・これもいつも言ってるけど!」
此処に来るまでには、実験用のトラップが仕掛けられている事もある。
薬品調合中に爆発を起こしたりする事も、稀じゃないのだ。
「うるせぇな・・・暇だったんだよ」
「何それ意味わかんない」
反論の言葉を無くした佐助に、政宗はご機嫌に笑った。

・・・佐助の小言など。

もう何万回も聞いている気がする。
耳タコな文句ではあるが、それは普段、表情を露わにしない佐助の本心で。
心の底から主である政宗を心配してくれている。
そんな声音が、政宗には、実はとても心地が良かった。
「・・・用があればこんな所、来やしねぇよ」
だから、ついついいつも、怒られるような事を佐助に仕掛けてしまうのだ。
「生憎とアンタに割く時間なんざ、普段は持ち合わせてねぇんでな」
「・・・そりゃ御足労傷み入りますよっと」
軽く眉を顰めながらも、いつの間にか作業道具は片付けられている。
政宗の視界に映ったのは、決して上等とは言えない浅黄色の小さな座布団。
それが政宗の目の前に用意されていた。
小言は云えど、意地になって追い出す事はしない。
それが、政宗の飼っている忍びの本来の優しい性格だった。
遠慮なく政宗は座布団に胡座をかく。
そして。
「・・・茶ならいらねぇよ」
そう佐助に声をかけた。
いつもこの後、佐助が困るのを、政宗は知っている。
「ん・・・悪いね、」
だから先手を打ったのだ。
佐助はいつも、政宗が此処に腰を据えた後。
自分が飲用している番茶を出すか、それとも厨房まで政宗の為の玉露を取りに行くか、必ず迷うのだ。
佐助のその忍びらしからぬ一面は、見ていてとても楽しい。
だから、来るなと言われても、政宗は頻繁にこの小屋へ足を運んでしまうのだった。
「それにしても、今日は酷ぇ目に合ったぜ・・・おい、痛むか? それ・・・」
黒籠手を外した佐助の腕を見つめ、政宗は顔をしかめる。

それは今日、訪れたザビー教国で佐助が作ってきた傷だった。
あの時は、着衣に滲んだ血液と思われる染みを目視しただけだった。
だがこうして見ると、箇所は青紫に腫れ上がり、見ていてとても痛々しい。
「ああ、ただの掠り傷と打撲だね〜」
いっそ骨でも折れててくれれば、長期お暇頂けて万々歳だったのにさ〜、
などと言いながら、佐助は面白そうに笑った。

この主は、本当に素直じゃない。

多分、今は、本当は・・・。
「・・・ありがと。優しいじゃん、旦那」
佐助を案じて此処に来てくれたのだ、とわかった。
自分とて、だてにこの天の邪鬼に仕えてるわけじゃないのだ。
「別に・・・心配して来たわけじゃねぇよ」
「わかってますって、暇だったからでしょ」
「That's light!」
それでもけらけらと笑い続ける佐助に、妙な居心地の悪さを覚え、政宗は立ち上がった。
「あ、それから」
無言で扉を開いた時、思い出したように、政宗は佐助を振り返った。
「?」
「小十郎・・・今、こっち向かってるぜ」
「え・・・・・・」
「知ってるだろうが・・・一応、言っとく」
「そんなの知らないよっ」
「嘘付け、」
「本当だって。びっくりしたって!」
そう言いながら、慌てて佐助も政宗に続き表へ飛び出した。
「じゃあまた後で!」
主の見送りもそこそこに、佐助はその場を走り去っていった。



・・・。

・・・・・・。

・・・・・・・・・。



青葉城と白石城。
そんなに遠い距離じゃあ、ない。

出来る事なら毎日でも会いたい。

でも、それが叶わないから。
一緒に居られる時間は、少しでも長く共有していたいんだ・・・。

忍小屋を勢いよく飛び出した佐助は、一気に城門をくぐり抜け、山道を下る。
小さく響いていた馬の蹄の音が、段々近付き、そうして現れるのは、誰よりも愛しい人。
「小十郎さんっ!」
手を振りながら坂道を駆け下りてくる佐助を確認し、片倉小十郎は軽く口端を弛ませた。
間合いを見計らって、馬上の小十郎へと高く佐助が跳躍する。
それを見て、小十郎もまた馬を止め、胸の中に飛び込んでくるであろう愛しい人を待ち受けた。
・・・・・・が。

「!!」

次の瞬間、空中で素早く佐助が身を捩った。
突然、自分目掛けて飛んできた何かを素早くかわし、近くの木に着地点を変えた佐助の手には、既にクナイが握られている。

緊張が走ったのは、ほんの一瞬。

次の瞬間、佐助はがっくりと肩を落とした。
「・・・ふざけんなよ旦那ぁ〜・・・」
「政宗様!!」
「よぉ小十郎、迎えに来てやったぜ」
ニッと笑って突然 佐助の背後に現れた政宗の手には。
先ほど佐助を狙ったと見られる石ころが数個、握られていた。
「ちょっと、どういうつもりだよ! 可愛い忍びに石投げるとかどうなの!?」
「そりゃこっちのセリフだ」
「はぁ?」
「『危険な忍小屋』に主様を放置して逢い引きたぁ、どういう了見だ」
「う・・・・・・。」
腐っても主、
意地悪でも主。
政宗にそれを言われては、佐助に勝ち目はない。
このやろ〜、邪魔してんじゃね〜よ・・・
とでも言いたげに、政宗を睨み付ける恨めし気な佐助の視線を真正面から受け止め、勝ち誇ったように政宗はにやりと笑った。



・・・・・・・・・。



「貴方は一体、何をなさりに行ったんです!!」

廊下の外まで聞こえてきた怒号に、思わずぴたりと佐助は足を止めた。

先程。
小十郎が、政宗と自分の顔を交互に眺めた後、ただでさえ深い眉間の皺が、更に深く顰められたから。
(何となく・・・こんな気はしてたんだよねぇ〜・・・)
二人の茶器茶菓子の盆を持ったまま、佐助は深くため息を付いた。
あの時、小十郎が見たのは、自分達の顔に、新たな切り傷が出来ていた・・・それを確認したに違いないのだ。
怒りを纏っている時の小十郎は、正直・・・怖い。
(入りたくないな〜・・・)
そう思いつつも、意を決し、佐助は静かに襖を開いた。
頭っから怒鳴りつけられた哀れな主と目が合った。
軽く肩をすくめながら、佐助はふたりの前に茶を出した。
「大体・・・外交目的だと仰有ったから、この小十郎は留守番に甘んじておりましたものを・・・」
「・・・無事に戻ってきたんだからいいじゃねぇかよ、なぁ」
「そうだよ、俺様がちゃ〜んと御守りしましたっての」
突然話を振られ、慌てて小十郎に向けた佐助の笑顔は、いかにも不自然だ。
だが、小十郎の視線は佐助の顔・・・ではなく。
茶を差し出した、青紫に腫れ上がる佐助の腕、だった。
(やばっ・・・・・・)
慌てて腕を隠してはみたものの、おそらく後の祭りだろう。
自分も一緒に、おとなしく説教を受けるしかないか・・・と佐助は大きく息を吐き出した。
「・・・・・・で、何があったんです」
茶を一口飲み、今度は冷静に小十郎が話を促す。
怒りを抑えようとしている必死さが、また怖い。
「何もかにも・・・俺だってワケわかんねぇよ」
「ほう・・・・・・?」
「嘘じゃねぇって!」
びくびくと佐助と目を合わせながら、政宗がゆっくりと口を開いた。
「いきなりザビー教とやらの入信申込書突きつけられて、そんなつもりじゃねぇっつったらいきなり攻撃して来やがったんだよ」
「洗礼名とか押し付けられちゃってさ、全く話にならなかったんだよねぇ〜」
「それでこんな怪我作って帰ってきやがった・・・か」
声音を抑えたまま、佐助の腕をぐいと小十郎が掴み上げる。
「痛っ・・・・・・」
小さく呻き声をあげた佐助に、ハッと我に返り、慌てて小十郎は腕を放す。
「そうだ、すっげぇカラクリがあったぜ小十郎」
何やら重苦しい空気が流れかけたその時、政宗がとっさに口を開いた。
「は・・・?」
「変な歯車がグルグル回転すんだ、そいつとウチの双竜陣を組み合わせりゃ最強だぜ」
外交は残念ながら適わなかったけれど、ちゃんと観察はしてきたんだぜ、
そう言う政宗に、ようやく小十郎の表情から、少しだけ固さが抜けた。
「猿の奴、そいつに弾き飛ばされてよぉ」
言いながら、思い出し笑いが込み上げてきたのか、政宗は肩を震わせる。
「崖っぷちで必死にぶら下がってやがんの、忍びのくせに情けねぇなぁアンタ」
「言わないでよ・・・まさかあんな動きするとは思わないじゃんよ」
「ボンレス猿飛」
「うるさいよ、ペーパー伊達」
「だからペーパーで止めんなって」
「あんたなんか紙切れで十分、」

「んだとてめぇ・・・!」

「ふたりとも止めないか!!」

再度、小十郎が怒気を発した途端、
弾かれたように、政宗と佐助が笑い出す。
「・・・・・・。」
仲が悪いんだか、良いんだか。
腹を抱えて笑い続ける主と恋人を目の前に、すっかり小十郎は毒気を抜かれていた。

「なぁ猿、」
「ん?」
そうしてひとしきり笑い転げた後。
涙目のまま、政宗が口を開いた。


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