小十♀佐

□独占欲
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片倉殿と物見にでも行ってこい、

事の始まりは、真田幸村のそんな一言だった。



   ≪独占欲≫



今日、奥州からその筆頭 伊達政宗が幸村との手合わせにやって来る。
猿飛佐助は朝から慌しく動いていた。
客間の掃除をして、茶や菓子の在庫の確認をして、ああそうだ宴の準備もしなければならない。
あの竜とその右目は本当に大酒豪だから・・・。
などと、朝から女中よろしく城内を飛び回っていた佐助を呼び付けた主、真田幸村は、
「たまには羽を伸ばせばよい」
と言って、薄紅色の綺麗な着物を佐助に差し出したのだった。
例によって。
こんな高価な物貰えない、とか
こんなの着たら俺様忍べないじゃん、など。
散々拒否しまくった佐助だったが、主に逆らえる筈もなく。
結局、言われるがままに、その反物に袖を通す事となった。



「どう・・・かな・・・?」
城門にて待ち構える主と、奥州の伊達主従の前におずおずと姿を現すと、ひやかすように伊達政宗がひゅーっと口笛を鳴らした。
「馬子にも・・・
「おお!!似合うぞ佐助、何とも愛らしゅうござる」
茶化そうとした政宗の言葉を遮り、幸村が感嘆の声をあげる。
さすが俺の忍びだ、と頭をぐりぐり撫でつける幸村に、佐助はくすぐったそうに笑顔を零した。
「はぅあっ・・・!!」
その手が突然、佐助の頭上でぴたりと止まった。
「何、突然どうしたのさ旦那・・・」
「簪を忘れたでござる・・・」
「いいよそんなの、あっても差せないって、俺様・・・髪の毛短いし」
「しかし・・・」
「気にすんなって旦那ぁ、こんな綺麗な着物くれただけで十分だって」
「うぅ・・・今度、必ず買ってやるからな」
「だからいらないって・・・」
「佐助えぇぇ・・・」
拗ねたように上目遣いで佐助を見つめるこの視線に、佐助は弱かった。
「わかった、わかったよ・・・じゃあ、今度、一緒に選んでよ」
「うぬ、心得た!!」

「そろそろ行くぜ」
そうして微笑ましいまでの真田主従の、じゃれ合いという名の会話がまとまったと思われた頃。
タイミングを見計らったように、片倉小十郎が短く声を発した。
「あ、うん、それじゃあ旦那・・・」
「行ってこい」
「・・・行ってきます」



   * * *



「なんか不思議な感じ」
「ああ」
「こうやって、二人で城下町に出掛けるなんてさ」
「ああ」
城を出て少しだけ歩くと、まもなく眼下に賑やかな界隈が姿を現し始める。
この一本道の林を抜ければ、あの雑踏に入れるのだ。
これって政宗流に言うと『でーと』ってやつだよね・・・。
そう思うと、どうしても自然と顔が火照ってしまう。
だが、佐助は先程から少し気になっている事があった。
城を出てから、小十郎が何も喋らないのだ。
佐助が何を話しかけても「ああ」としか言わない。
最初は柄にもなく緊張しているのかとも思ったが・・・。

なんか機嫌悪い?

着慣れない反物に袖を通し、歩きなれない履物で、もたもたと歩く佐助に、ゆっくり歩調は合わせてくれている。
肩を抱かれているその手も、置かれたままなのに・・・。

「小十郎さん」
佐助はぴたりと足を止めた。
「なんだ」
「外出・・・したく、なかった・・・?」
いつも通り、城内の縁側で。
お茶でもすすりながら語っていた方が良かったのかな、とそう思ったのだ。
見慣れない土地で、軽装で出歩くなんて。
しかも仕える主を置き去りにしたまま、なんて。
本当は嫌だったのかも知れない。
「帰ろう」
佐助が小十郎の腕を引き、くるりと城の方へ向きを変えたその時だった。
ぐいっとその腕を強く引き戻される。
「え・・・・・・んっ!」
突然背後から顎をすくわれ、強引に唇を塞がれた。
「ぁ・・・ん、ふ・・・っ」
全く予期していなかった突然の小十郎の口付けに、佐助の頭がパニックを起こす。
触れるだけのそれではなく、口腔深く小十郎の舌に絡めとられ、息が出来なくなる。
そのまま縺れ合うようにして雑木林の中へ倒れ込むと、小十郎の手が乱暴に佐助の着物の帯を解いてきた。
「ちょっ、やめっ・・・」
これから起こる事への嫌な予感に、慌てて佐助が小十郎から身体を離そうとするが、もがけばもがくほど小十郎の腕の力は強まり、必死で抵抗を見せていた腕も、あっさりと頭上に纏め上げられた。
「ぃやだっ、こんな・・・小十郎、さんっ・・・」
身八つ口から入り込んできた小十郎の手の熱を感じ、佐助が拒絶の声をあげる。
必死で身を捩ると、その抵抗すらも力で押さえつけられ、びりっと短い音を立て袖口が破れた。

「あ・・・」

一瞬。
自分の置かれている立場も忘れ、佐助は呆然と破れた箇所を見詰める。

どうしよう、

今日の為に、この日の為に、きっと凄く凄く悩んで旦那が選んでくれたであろう美しい着物が。
どんどん無残な姿へと変貌していく。

「おとなしくしてろ、これ以上、破きたくなかったらな・・・」

だが。
今にも泣き出しそうな佐助に追い討ちをかけたのは、相変わらず不機嫌なままの、小十郎の非道な一言だった。



「あっ、やっ、んっ・・・」
しなやかな身体が反り返る。
足の間に小十郎を挟みこみ、その足をばたつかせてもがいてみれば、両足をぐいと左右に押し広げられた。
「あ、ぃやあ・・・」
下腹部を小十郎の眼前に曝け出させられ、佐助は羞恥に瞳をぎゅっと閉じた。
そのまま熱い手が内股を這い、骨ばった長い指が佐助の体内へともぐりこむと、びくんと腰が揺れる。
「ぁあっ、あ、あ・・・」
ゆっくりと指を動かすと、それに呼応するかのように、佐助の口から甘い吐息が零れる。
とろとろに溶け、しとどに小十郎の指を濡らす佐助のそれに、小十郎は本能のままに自身を突き立ててしまいたくなる衝動を必死に抑えた。
佐助の中で指を蠢かせたまま、小十郎は佐助の胸の膨らみに唇を寄せた。
白い肌に喰らいつき、その肌をもう片方の手で撫で上げ、あますところなく、佐助を堪能する。
「んっ、ゃだそこ・・・っ」
拒否の言葉は、いつも甘い。
言葉を発する度に零れる吐息は甘やかで、いつしか拘束の解かれた腕は、縋るように小十郎の背をかき抱いていた。
「もっと欲しがれ」
「んあぁっ」
ぐっと一度奥まで貫いた指をゆっくりと引き抜くと、今度はそのまま浅いところを蹂躙する。
「ゃ、あ・・・んっ」
焦らすように、優しく、ゆっくりと。
収縮を続ける内部をあやすかのように、軽く触れる行為はあっさりと佐助の理性を崩壊させた。
「ゃだっ、ぃやあ、こじゅ、ろ・・・さんっ、」
もどかしいほどの刺激に、佐助が激しく首を左右に振って拒否を訴える。
身体全体を震わせながら、自ら腰を揺らして小十郎に擦り付けてくる痴態はこの上なく妖艶で、小十郎の征服欲が一気に増した。
「も、ゃだ・・・あ、」
切なげに眉をよせ、焦らされる事に耐えられなくなった瞳から、涙がぼろぼろと零れだす。
「挿れるぞ」
あやすように頬を撫でると、うっすらと開かれた潤んだ瞳が妖しいほどに艶めいていていて、その瞳と視線が交差した途端、ぞくりと小十郎は肌を震わせた。
「っ、あ、あ、ぁああっ・・・」
ぐいと押し付けた下肢をゆっくりと推し進めると、息を詰めるようにして小十郎を受け入れていく甘い響きが耳をくすぐる。
交わったまま、佐助を抱き上げ向かい合うような形にして抱き締めると、自分の重みで更に小十郎を奥深く飲み込み、佐助が鳴いた。
溶けた表情、うつろな瞳。
ただ小十郎に縋りつき、快楽を拾おうとしているその姿に、思わず小十郎が息を詰める。
「大丈夫か」
「んっ・・・小十郎、さん」
「なんだ」
「もう・・・機嫌、直っ、た・・・?」
「ッッ・・・!!」
小刻みな呼吸を繰り返しながら、発した言葉に、どくんと小十郎が脈打った。
と同時に、背筋を甘い痺れが駆け抜け、小十郎は一気に下から佐助を突き上げた。
「ぃやああっ、んっ、ああ・・・っ」
抱き締められたまま与えられる強い刺激に、佐助はただただ鳴いた。
乱れ、乱され、必死に小十郎の背に腕を回す。
「あっ、こ、じゅっ、ん、ゃああ」
がくがくと全身を震わせながら、小十郎の名を紡ぎ出そうとする必死な声音に、離れまいと縋りつくその細い腕に、ますます煽られていく。
何度抱いても飽きる事はなく、とろけそうな佐助の体内は小十郎を柔らかく締め付ける。
とうとう自制が利かなくなり、小十郎は激しく佐助を揺さぶった。
何度も何度も自身を突きたて、荒々しく佐助の中を蹂躙していくと、もはや感じ入って声を出す余裕もないのか。
ふっふっと佐助の短い呼吸音が耳に届く。
その呼吸の間に漏れるか細い声に、ますます愛しさだけが募っていった。
貪欲なまでに、互いを貪り合い、唇を重ね、そしてほどなくして、佐助が甲高い声をあげ、絶頂に達したことを確認した。
「あ、あ・・・あっ、ん・・・」
その後、二、三度、佐助の中を穿つと、切なげな嬌声が漏れ、余韻に浸りたくなるような締め付けが小十郎を包み込み、小十郎も佐助の中へと想いの丈を放った。

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