小十♀佐

□セピア色の思い出
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宝物がある。

人から見れば何の変哲もない、ただの紙切れ。
いや、むしろもう紙切れでもない代物かもしれない。
だけど。
色褪せたそれは、自分にとっては大切な、とても大事な物。
四人で写っている、一番無邪気だった頃の写真・・・とても大切な・・・、



《セピア色の思い出》



「佐助」

「小十、郎・・・さん・・・」
「久しぶりだな」
駅の改札を出た所で、自分を呼ぶその姿を認めた途端、猿飛佐助は駆け出した。
「ほんとだよっ、も〜全然連絡寄越さないんだから!!」
「悪かった、いろいろ忙しくてな」
「はい、言い訳〜」
一年ぶりに目にするその茜色の髪を、片倉小十郎が優しく撫でる。

女は化け物だ。
と、改めて小十郎は思う。
最後に会った日から、たった一年しかたっていないのに、そう思う。
会う度に、雰囲気や色気、その見てくれが変化していく佐助に、小十郎は毎回ドキリとさせられる。
だが、この髪色とその笑顔だけは変わらない。

それだけが、この幼馴染の存在を確立させ、何となくだが安堵するのだった。
「今日はてめえ一人か?」
「え・・・?」
小十郎の言葉に一瞬、表情を濁らせた佐助を不思議そうに小十郎が見つめた。
「いや、いつも全員で迎えに来てたじゃねえか」
「あ・・・そだね・・・」
「?」
自分の大切な幼馴染、伊達政宗、真田幸村・・・そして佐助。
こいつらの間に何かあったんだな、
そう直ぐにピンと来た。
こいつらももうあの時の子供じゃない。
いつまでもガキの頃のように、仲良く連れ添って居るわけじゃない、そんな事はわかっている。
だが、それを少しだけ淋しく感じるのは、仕方のない事で。
「ごめんね、旦那達まだ部活なんだ・・・って俺様もこれからバイトなんだけどね」
「そうか」
折角の再会に水を差すほど、空気を読めないわけではない。
佐助のその必死な思いに、相変わらず下手くそな佐助の笑顔に騙されてやることにした。
「とりあえず迎えに来ただけなんだ、後でまた遊びに行くからさ、みんなに小十郎さんが泊まってるホテル、メールしといてくんない?」
「ああ、わかった」
そんなそっけない挨拶と共に、小十郎の一年ぶりの再会は幕を閉じたのだった。



   * * *



「・・・で?」


どうやら佐助の言った事は嘘ではなかったらしい。

佐助に言われた通り、本日の自分の宿泊先をメールで送ったその数時間後。
部活を終えた政宗と幸村が、コンビニの袋を引っさげ小十郎のホテルを訪れてきた。
「Hey,久しぶりだな」
「帰って来られるのであれば、某の家に泊まれば良かったのに・・・」
「Ha,いいじゃねぇか。お陰で堂々と酒が飲める」
「ふっ、不謹慎でござるっっ・・・!!」
おまけに未成年でござる〜っっ!!
などと言いながらも、突き出された煙草の先端に、幸村は火を付けてやっている。
「なんだ、相変わらずだな、お前ら」
そんな光景に、思わず小十郎の顔に笑みが浮かぶ。
駅で再会した時の佐助の様子が少し変だったから、大切な幼馴染達との関係性に何かあったのかと思ったが、どうやら自分の勘違いだったようだ。
「何だよ、それ」
「いや・・・さっき、佐助しか迎えに来なかったからな」
喧嘩でもしたのかと思ったぜ。
そう告げた小十郎に、慌てたように幸村が反論する。
「喧嘩などっ!!・・・してませぬ・・・」
が。
その幸村の反論の語尾が、消えるように小さくなる。
「?」
やっぱり、何かが変だ。
そう思い直した小十郎に、政宗は諦めたようにため息をついた。
「ふられただけだ、俺も、こいつも・・・」
「見事に玉砕、完敗でござる・・・」

・・・失恋?

てめえら恋してたのか、とか。
同じ相手を好きになったのか、とか。
そんな野暮な事は聞くまでもなかった。

「ああ、お前ら昔から佐助の取り合いしてたもんな」
幼馴染の紅一点。
みんなが佐助を好きで、将来はみんなで佐助を嫁にする・・・とか何とか言ってたっけな。
その幼い恋心は今も健在だった、そういう事か。
くつくつと笑いながら、差し入れられたビールを喉に流し込んで、小十郎は昔を懐かしむように窓の外を見つめた。
「そういうてめぇもそうだったろうが、このロリコン」
人事のように話に耳をやる小十郎に、政宗が軽く睨みつける。
一人だけ大人ぶってんじゃねぇよ、と小十郎に食ってかかる政宗を他所に、そうだったのか・・・と幸村は驚愕に慄いていた。
「でも残念でござったな、佐助には好きな人が既に居ると」
「へえ・・・意外だな」
「Shit!つか誰だよ相手は」
「完全なるぬけがけで御座るぅあ!!」
適度に酔いの回った男達は、いつになく饒舌だった。



・・・。

・・・・・・。

・・・・・・・・・?

「あれ・・・?」

そこ、に迎えられた瞬間。
佐助はニ、三度、目を瞬かせ唖然とした。

先に告げた通りバイトを終え、佐助が小十郎の泊まるホテルを訪れた時、目に入ったのはまるで荒らされたような雑多な空間だった。
散乱した瓶や缶・・・そして。
「二人、は・・・?」
政宗の嗜好銘柄の、吸殻。
それを横目に確認しながら、佐助は呟いた。
明日は休みだから、徹夜準備万全でここに乗り込んで来た。
酒や煙草の残骸から察するに、政宗と幸村が来ていた事は確かなのだが・・・。
今この部屋に居るのは小十郎ただ一人だった。
「帰ったぜ、明日部活の練習試合なんだと」
「あ、そうだった、っけ・・・」
思い出したように佐助が呟く。
すっかり忘れていた。
確か応援に来いとか何とか、言われてたっけか。
その後、少しだけ彼らと気まずくなってしまい、練習試合の事などすっかり忘れていた。
そんな事を考えながら、転がったビール缶やらカクテル缶を眺め「不良少年が・・・」と苦笑する。
「そういうそれは何なんだ?」
小十郎に指摘され、「ああ・・・」と差し入れの袋を小十郎に差し出す。
転がっている缶と全く同じビールに果実酒、カクテル、煙草、つまみ。
どれも政宗と幸村の持ち込んだ物と全く一緒だった。
「さすがだな」
好みを知り尽くしている。
人に対する洞察力、そして気が利くところは、昔も今も健在か。
などと改めて思いながら、せっせと残骸の片付けをする佐助に小十郎は苦笑した。
「ほら」
缶ビールのプルタブを開け、佐助へと差し出す。
「ありがと・・・みんなが居る間に、間に合わなくてごめんね」
少し申し訳なさそうに謝り、佐助は小十郎の持つビール缶に自分のそれを、カツンと合わせた。
「お帰り小十郎さん・・・乾杯」


こうして話すと、やはり時間は経っているんだなあと改めて認識させられる。
会話の内容が新鮮なのは、そのせいだ。
四人で話す時は、共通の話題が幼少期でしかないので、自然と昔話になってしまうから。
共に居る時間も減り、それぞれに付き合いがある。
当然、それに連動する状況も出来、ねずみ講のように各々の人生が枝分かれして行く。
だから。
自分の知らない所で佐助が。
そして佐助の知らない所で自分もまた、成長してるのだと、嫌がおうにも理解させられる。
「てめえは・・・随分女らしくなったな」
「へへっ、そうかな」
「ああ・・・綺麗になった」
「ありがと、でも誉めたって何にも出ないよ〜」
つい、言葉にしてしまった気恥ずかしい本音は、自然に佐助に笑い飛ばされた。
酔いのせいだと思われてるのなら、それでいい。
「あんたも格好良くなったよ?」
「俺は昔から格好良かったぜ?」
「ちょっと自分で言っちゃうワケ?」
顔をふくらませムキになる佐助に、笑い飛ばし返してやった。

他愛のない会話、交わされる笑顔。

幼馴染の再会のとあるひと時。

懐かしい思い出に、積もる話。
大切にしたい、大事にしたい。
けれど、壊したい。

幼馴染なんて、そんな柵さえなければ・・・。

漠然とよぎった仄暗い考えに、慌てて小十郎が頭を振った。
「ちょっ、馬鹿・・・!」
ふいに聞こえた佐助の声にハッと我に返ると、小十郎の手から滑り落ちた、飲みかけのビール缶が床を濡らしていた。
「あ・・・悪い」
「あぁもう、何やってんだよ・・・」
文句を言いながらも、テーブルをずらし、小十郎の目の前を佐助がタオルで拭いていく。
小十郎の目の前にかがみこんで手を動かしている佐助の、チュニックから少しだけ覗いた胸の谷間を視界に入れてしまった途端、

小十郎は理性の箍が外れる音を、聞いた気が、した。

「ぇっ・・・!?」
突然ぐいと背後から腰を抱き寄せられ、小十郎の座るソファに、その膝の上に引き上げられ、佐助は困惑した。
驚愕の先に瞳が見据えるのは、こんなに間近にあるのは始めてであろう小十郎の顔。
近いよ・・・。
そう言いかけた瞬間、その顔がゆっくりと距離を詰めるように降りてくる。
「っ・・・」
反射的に瞳を閉じてしまった佐助に、ダイレクトに感覚が支配をかけてくる。
触れるだけの口付けが、強張った佐助の身体をほぐしていく。
ちゅ、ちゅ・・・と数回触れ合った後、小十郎の唇が離れていったのを感じ、ゆっくりと佐助は瞳を開いた。
「酔ってんの・・・?」
「・・・かもな」
「ファースト、キス・・・」
「だったのか?」
「・・・返せ、馬鹿・・・」
その佐助のとろんとした、照れ隠しのような瞳と視線が交叉した瞬間、
再び小十郎は佐助に口付けていた。
「ぅ、・・・んっ」
わずかに想像していた抵抗もなく、再び瞳を閉じて小十郎の唇を受け入れた佐助に、歯止めが利かなくなるのがわかった。

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