小十♀佐

□右目の含蓄
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「こんにちは〜」
「ああ・・・てめぇか」
「?」
他に誰が来ると思っていたんだろう。
「何か飲むか?」
「いや・・・平気、ありがと」



 ≪右目の含蓄≫



「?」
小十郎と向かい合いながら、佐助は違和感を感じていた。
まじまじと目の前の愛しい人を見やれば、視線で「何だよ」と返される。

何かが、違う。

なんか調子が狂う。

だっていつもは「何しにきやがった」で迎えられ、佐助が茶を用意して。
それから共に一服しながら、会話を始めるのに。

そんな通常での流れが、今日は最初っから崩れている。
この人が、素直に迎え入れるなんて。
そして、佐助の為に茶を入れようとするなんて。

「・・・どしたの?」
「何がだ」
「今日・・・変だよ」
訝しげに小十郎を覗き込む佐助の姿に、小十郎は少しだけ気まずそうに視線を外した。
そして、ため息をひとつついてから、言葉を切り出した。

「職をなくした」

「はあぁっ!?」
何馬鹿な事言ってんの!?
予想だにしなかった驚愕の一言に、佐助の目が見開かれる。
「喧嘩したの・・・?」
「喧嘩じゃねえ、解雇だ」

うるせぇ、俺に指図するな!
そんなに自己主張の強い右目なんて、俺の目じゃねぇ。
「二度と俺の前に姿を見せるな・・・だとよ」
怒りに燃える主、伊達政宗にそう言われた。

「・・・右目の存在って何なんだろうな」

確かに従者らしからぬ振る舞いも多い事は認めよう。
だが、自分の言う小言も、うるさそうに眉を顰めながらも最後まで言い分はちゃんと聞いてくれる主だ。
なんだかんだ言いつつ、政宗も心の底からは許容してくれている、
・・・そう思っていたのだ。
今まで、どんな言い合いをしようとも、真剣を交える程の争いがあろうとも、右目であり続ける事を許してくれていた主だからこそ。
怒りに任せ怒鳴りつけられたその暴言に、小十郎は返す言葉を無くしたのだ。
「ただ黙って見守っているのが右目の役割なら・・・俺は政宗様が無くした方の右目と同じ、なんだろうな」
望んでもいないのに、勝手に消失したその瞳。
その右目の代わりになると豪語した小十郎もまた、主の意思に賛同出来ず合い反発していれば、身体から離れて行った本来の政宗の右目と同じ事だ。
「何言ってんのさ」
佐助が穏やかに笑った。
「いい奴なんじゃん、政宗は」
「・・・・・・?」
自嘲めいた表情を浮かべながら佐助を見つめれば、柔らかい笑顔を向けつつも、呆れたようにため息をつく佐助の顔が目に入る。
「だって殿様だよ? 国の頂点に立つ人間だよ?」
そんな人間が、下の者に意見を聞いたり小言を言わせたりするのは、独裁政権じゃない証拠だ。
「どっかの第六天魔王を御覧よ、あんな独裁的な主、俺様だったらいくら金塊積まれたって絶対仕えたくないね」
「・・・・・・。」
「確かに身分は違うけどさ、人間としての中身は対等だと思って接してくれてる・・・だから、言い合いになったり喧嘩したりするんじゃないのさ」
例えばその逆鱗に触れれば、主次第では切腹沙汰だったり、流されたりして当然のこの時代だ。
そんな時代で、意見の相違で言い合いになって落ち込めるなんて、小十郎は本当に恵まれていると思うから。
「俺様もよく真田の旦那を怒らせるよ、」
佐助など必要ない、忍びなどいらない、俺の意見を無視するな。
よく解雇的な発言もされるけど・・・。
「すぐにね、謝りに来るんだよね。」
それは、女として、人間としての自分に無理をするなと、そう言いたいのに上手く言葉に出来ない不器用なせいで、そういう言い方になってしまうのだと知っているから。
「だからきっと、今頃政宗も過ぎた物言いに後悔してるって」
と、そう容易に想像できた。
でも、政宗は旦那と違ってプライドが高い。
自分が悪いと思ってても、絶対に自分からは謝らなさそうだ。
「てめぇも主で苦労してんだな」
「うち? うちはねぇ・・・」
言い合いの大半は、喧嘩というよりかは、気がつくと一方的な説教になっている事が多いかな、と佐助は苦笑する。
口で言い負かされて、それを認めたくない旦那が解雇的な暴言を吐くだけだから。
「ちょっと頼りないかな、いや、良く言えば凄い頼ってくれてるって事なんだけど」
「いつでも必ず俺様の言い分を聞いてくれる、」
猪突猛進なところはあるけれど、絶対自分の意見を押し通すような事はしない。
「すっごい大事にしてくれる、真田の旦那みたいな主、どこを探しても居やしない・・・そう思ってるよ」
にっこりと笑って佐助が宣言すると、急に小十郎の眉間の皺が色濃くなる。
「俺の前で他の男を褒めんじゃねえ・・・」
「え・・・?」
何の事?
そう言い返そうと思った途端、乱暴に腕を捕まれ引き寄せられた。
そのまま唇を小十郎のそれに塞がれる。
「・・・・・・んっ、・・・」
何度も何度も角度を変え、口腔を蹂躙しながらも、忙しなく頬や項へと這わされる大きな手に、ぽっと佐助の頬が赤く染まった。
ようやく唇が離され、甘いため息と共に、呟くように佐助が言葉を紡いだ。
「・・・妬いてくれてるの?」
「さあな」

この目の前の不器用な人は、多くを語らない。

だが、その分、行動は素直だった。
言葉ではぐらかしながらも、不快感丸出しの表情とその唇で、佐助の言葉を封じてくる。
「あんただって・・・」
耳元に移動した小十郎の唇に、身体をぴくんと震わせながら、佐助は視線だけを動かし、軽く睨み付けた。
「?」
「政宗の事で悩んでるあんた、なんか恋人と痴話喧嘩してるみたいだよ」
「妬けるか?」
「さあね」
小十郎の手が佐助の服の下に入り込み、胸をきつく締め付けるサラシを取り去れば、佐助の身体が緊張して強張った。
「ちょっ、と・・・」
「慰めてくれねえのか?」
「馬、鹿・・・っ、あ・・・」
やんわりと胸を揉まれて、佐助が甘い声を上げた。
「さっさと、仲直り、してきなって・・・」
目許を染めた潤んだ瞳でそんな事言われても、もう理性は半壊だ。
「後でな」
強く抱き寄せられた下肢に、小十郎の欲望を感じ、佐助の体温も一気に上昇した。
「っ、・・・もう・・・」
しょうがないなあ・・・と呟きながらも、言葉とは裏腹に、佐助はその広い背中に腕を回した。
「今日中に・・・帰らせてよね」
「それは約束出来ねえな」
にやりと笑うその顔に、また鼓動が跳ね上がる。



ああもう何でこんなに格好いいんだろう、



悩んでても、凹んでても、生意気な笑顔を浮かべても、なんでこんなに心臓がばくばくするんだか。



普段強気な表情ばかり見ていたからかな、
この人でも落ち込む事があるんだ・・・。

そう思ったら、ますますこの人が愛しくなった。
ゆっくりと布団に押し倒された佐助が熱っぽい視線で小十郎を見上げると、欠片程度に残されていた小十郎の理性は崩壊した。







後日、

仲良く罵声を飛ばし合いながら、政務に励む双竜が居た。
そんな二人を人知れず天井裏から、にんまりと幸せそうに微笑みながら見届ける佐助の姿があった。



― End ―

【2009/02アンケート】1位の小十♀佐でした。
『精神的に弱った小十郎を佐助が癒す話。』のコメントを元に書かせていただきました。
コメントくれた方、どうも有難う御座いました♪

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