現代政佐

□道化師の勘違い
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※ 単品で読めます。
  設定的には『道化師は照れ屋さん』の後日談です。



赤茶けた髪は地毛の色。
着崩した制服は、自分なりのスタイルで。
校則は全て守っている・・・わけではないが、法に触れるような事はしていない。
成績だって、悪くない。
品行方正とは言わないけれど、特別問題児なわけでもない。
と。
自分では思って居るんだけど。

どうも、世間は自分をそうは見てくれないようだ、昔から・・・ね。



≪道化師の勘違い≫




目の前にそびえ立つ真っ黒な壁を前にして。
猿飛佐助はふぅ、と溜め息をついた。

壁・・・といっても本当に壁なわけではない。
佐助を取り囲む学ラン姿の男達が、それを壁のように見せていたのだ。


時は放課後、場所は学校近くの河川敷。


授業を終え、佐助はいつものようにさっさと学校を後にした。
そして、これまたいつものように、今晩の夕食の献立を考えながら、のんびりと歩いていた・・・筈、だった。
詳しい経緯はもう忘れた。
だが、気付いた時には、佐助は囲まれていた。
一回り程の体躯を持つ、他校の生徒が四人ほど。
一癖も二癖もありそうな連中が、そこには居た。

「片目の男を出せ」

と。
佐助の聞き間違いでなければ、彼等は今、確かにそう言った。
「片目の男・・・?」
誰の事?
そう訝しげに眉を顰めながらも、佐助は瞬時に頭をよぎった存在に、鼓動を高まらせていた。



・・・・・・・・・。



・・・佐助に彼氏が出来た。

それは、先日の体育祭での事だった。
自分がこんなひねくれた性格だから、いろいろと紆余曲折もあったけれど、晴れて恋人という立場になれた。

伊達政宗。

佐助の大事な恋人。

彼は人気者だ。
彼は強い。
彼はモテる。
彼は格好いい。
そして、彼は。
「・・・・・・。」


・・・・・・片目、だった。


「・・・その片目の男っての、本当にうちの生徒なのか?」
自分を囲む男達を見上げ、佐助はそう口を開いた。
なんかよくわからないけれど。
守らなきゃ、
とっさにそう思った。
「ぁあ?」
だが、それまでの佐助の沈黙の時間に、目敏く男達は食い下がった。
「っ・・・何すんだよっ!」
突然 背後から両腕を羽交い締めされ、とっさに佐助はもがいた。
だが、いかにも喧嘩慣れしてそうな男達相手に、その抵抗は何の効力もなさない。
「離、せよ・・・っ」
それでも必死にもがき続ける佐助に、目の前に近付く男が勝ち誇ったように、ニヤリと笑った。
そして。
「!!」
バキッと鈍い音が響くと同時に、佐助は地べたに吹っ飛ばされていた。
「っ・・・・・・!」
口の中に、血の味が広がる。
頬が、じくじくと熱を持って佐助に痛みと危険を伝える。
「友情ごっこもいいけど・・・てめえの為にならねえぜ?」
「そうそう、もっと痛い目見たくなけりゃあ、さっさと呼んできな」
自分を見下ろす男達を悔しげに睨み付けながら、佐助は殴られた頬を軽く拭った。
全く・・・、
(伊達ちゃん・・・何やったんだよ・・・)
確かに政宗は、喧嘩っ早いところはある。
けれど、理に叶わない争いをするような男ではない。
ましてや他校の生徒と、だなんて。
自分の処分はともかくとして、所属する剣道部の大会出場が危ぶまれるような、そんな頭の悪い事は絶対にしない。
「・・・・・・。」
佐助はゆっくりと立ち上がった。
「・・・生憎と」
「あ?」
おおかた、理不尽な逆恨みでも買ったのだろう。
じゃなけりゃこんな柄の悪そうな連中が、政宗なんかに絡んでくるわけがない。
接点なんて、あるわけがないのだ。
「俺様、忙しいんだよね〜」
「ぁあ!?」
「スーパーのタイムセール始まっちゃうんだよ、ここまで来て学校に戻るとか無理だからさ、悪いね」
「てめえ・・・!」
言って、すんなり聞き入れてくれるような連中じゃない。
それは、先ほど不意打ちで喰らった一撃と、一連のやりとりでわかっている。
だからこそ。
余計に彼等の要求を呑む事は出来なかった。
「・・・それに、」
佐助は小さく息を吐き出し、拳を握り締めた。
「アポなしで会える程、うちの旦那も暇じゃないんだよね・・・」
「いい度胸だ・・・」
男達を纏う空気が不穏に揺れる。
覚悟を決めたように、佐助も拳を握り締めた。



・・・。

・・・・・・。

・・・・・・・・・。



言った言葉に嘘はなかった。
夕飯の食材調達の為、佐助はスーパーに行かなければならなかった。

なのに。


「・・・ッ、・・・ア・・・」
何故、自分は今。
こんな薄暗い所で、初めて会った男達の、サンドバックになっているのだろう・・・。


「ははっ、全然駄目じゃん、こいつ」
「威勢がいいのは見た目だけかよ」

・・・河川敷での勝敗は、驚く程あっけなく決終した。

あっさりと崩れ落ちた佐助は、この薄暗い所へと運び込まれた。
襤褸雑巾のように転がされ、もはや身動きすらとれなくなった佐助を、男達は蹴り上げ踏みつけ続ける。
「おい、連絡したか?」
「ああ」
先ほど佐助から奪った携帯をちらつかせる男達を、佐助は悔しそうに、睨みつける。
結局、無力な自分には何も出来なかった。
男達が佐助の携帯から政宗に連絡を取る事を、阻止する力すらもなかったのだ。

浅はか、だった。

勝てない相手に対峙したのだ、
奴らの目的が政宗だったのだから、何よりも先に政宗に繋がる情報の削除を・・・携帯を壊してしまわなければならなかったのに。
そして今、佐助はまんまと人質という、恰好の餌食となってしまった。
(ごめん・・・伊達ちゃん・・・)
そもそも初めから間違っていた。
河川敷で絡まれた時、なんとしても逃げなければいけなかったのだ。
(来るなよ・・・)
頼むから、絶対に来るな。

政宗が、来ないわけはない。
政宗は、此処に来る。
来て、しまう。

この確信に近い懸念が、万が一にも覆される事を、佐助はただ祈るしかなかった。
だが、その最悪の事態は直ぐに訪れる。
「来たぞ!」
見張りをしていたらしき男の声を皮切りに、外がにわかに騒がしくなった。
「最、悪・・・」
無意識に言葉を零せば、うるさいとまた殴られた。
「・・・・・・、」
そうやって、自分の事だけ殴っていればいいのに。
それで満足してればいいのに。
「なん、で・・・」
「ぁあ?」
なんで、自分じゃ駄目なんだろう。

なんで、政宗なんだよ・・・。


「佐助ッッ!!」


ガラッと重たいその扉が絶望の光を差し入れた時、
「ッ・・・・・・」
同時に佐助は、鳩尾に鋭い一撃を喰らった。
(今、の・・・こ、え・・・)
薄れゆく意識の中で、佐助は確かに聞き慣れた声を耳にした、気がした。



   * * *



気が付くと、そこはふかふかな布団の中でした・・・。



「佐助ッッ!!」

此処・・・どこ?
そう思った瞬間、よく知っている声に佐助は意識を引き上げられた。
「旦、那・・・?」
「佐助えぇぇ・・・」
ゆっくりと目を開けると、自分の手を握り締め、今にも泣きそうな表情をした幸村が、そこには居た。
「・・・・・・?」

状況が、見えない。

自分はこんな布団ではなく、冷たいコンクリートに転がされていた・・・筈だ。
「え・・・何・・・ここ・・・」
頭痛を訴える頭で、それでも少しでも状況を把握しようとして、佐助はふと幸村の背後に居る気配に気付いた。
「伊達、ちゃん・・・」
政宗と目が合った途端、
突然、今まで止まっていた佐助の時間が、目まぐるしく動き出した気がした。
(そうだ・・・)

ぼこぼこに、やられたんだっけ。

耳鳴りがする。
頭がガンガンして・・・酷く痛い。
身体も、痛い。
気持ち悪くて、吐き気が、する。
でも。
此処がどこかはわからないけど、少なくともあの薄暗い倉庫みたいな場所から、救い出されたんだ・・・という事は理解出来た。
そして、此処には彼等が居る。
泣きそうな顔で佐助の手を握り締める幸村とは対象に、何故か政宗の表情は固い。
(何か怒ってる? ・・・つか2人とも胴着姿じゃん・・・って・・・)
あれ?
じゃあ此処は学校なのか?
ぃやでもうちの保健室は、こんな造りじゃない。
「う・・・・・・」
考えたいのに、頭痛が思考を鈍らせる。
その時だった。
「よぉ、気が付いたか、佐助」
またまた聞き慣れた声が、佐助の思考を遮った。
「チカ、ちゃん・・・?」
ドアを開けて入って来たのは、佐助のクラスメイトの長曾我部元親、だった。
「え、あ・・・・・・」
ズキン、とまた頭が痛む。
元親の声に、激しく記憶が揺さぶられる。
なんだこれ、
痛い・・・・・・!!
「・・・悪かったな、佐助」
目許を覆い隠すように額を押さえた佐助に、心底申し訳なさそうに元親が言葉を紡いだ。
「え・・・・・・?」
「アイツら、この前 俺達に負けた腹いせに来やがったんだよ・・・巻き込んじまったな・・・」
「あ・・・・・・、」


この、声だ・・・。


先程、
意識を失う寸前に、何故か僅かなもやもやを、心は訴えていた。
よく知っている声に名前を呼ばれたのに、何かが違う気がしたのだ。
「は、はは・・・」
今、唐突に。
その理由がわかってしまった。
「佐助?」

違和感を持って当然だったんだ。

何故なら、自分なんかを助けに来るなと願った人物と、自分の名を呼んだ声は、別人だったのだから。
「・・・なんだ、そっかぁ・・・」
あの時 佐助の名を呼んだのは、助けに来てくれたのは、元親だったのだ。
「片目の奴を出せっていうから俺様てっきり・・・」
「?」
力なく笑う佐助を、3人はただ不思議そうに見詰める。
絡まれた時に、何故気付かなかったのだろう。

片目の男はもう1人居たのだ。

1人は国体を控えた、文武両道をこなす剣道部のエース。
1人はしょっちゅう他校の生徒と喧嘩しては、保健室や教育指導の世話になっている・・・反省文書きのスペシャリストだ。

冷静に考えれば、判る事だったのに・・・。
「まさか佐助・・・政宗殿が呼び出されたと思ったのか?」
がくりと肩を落とした佐助に、決定打ともいえる幸村の言葉が突き刺さる。
「・・・・・・。」
「そうなのだな、佐助」
確認するように再度、幸村が念をおすと、バツが悪そうに佐助は俯いた。
その次の瞬間、
空気が揺らぎ、パンッと乾いた音が部屋に響いた。
「っ・・・・・・」
と同時に、上半身を起こしていた佐助の身体は、再び布団の中へと沈み込む。
幸村を退け、つかつかと佐助に近付いた政宗が、本気の力で平手打ちを喰らわせたのだ。
「ふざけんじゃねぇっ!!」
突然の出来事と、政宗のその怒声に、あっという間に空間は硬直状態となった。
「アンタに守られる程、堕ちちゃいねぇんだよっ!!」
ベッドで痛みに顔を歪める佐助に馬乗りになり、尚も政宗は胸ぐらを掴みかかろうとする。
「まっ、政宗殿ッッ!!」
そんな光景を目の当たりにし、慌てて幸村が背後から政宗を羽交い締めする。
「政宗殿、落ち着かれよっ!」
「うるせぇ離せよっ・・・」
「馬鹿野郎っ、佐助を殺す気かよ!!」
尚も暴れもがく政宗に、元親も仲裁に加わる。
「ッ・・・・・・!」
元親の言葉に一瞬 力の抜けた政宗の身体を、幸村が一気にベッドから引きずり下ろした。
「政宗殿・・・」
掴んだままの政宗の腕を離してもいいものか、おろおろと政宗の顔色を窺う幸村に、ハッと政宗は我に返った。
「Shit・・・」
苛々する感情を必死に抑えつけながら、政宗はゆっくりと幸村の腕を振りきった。
「おい独眼竜・・・」
「帰る、」
相変わらずおろおろとする幸村と、心なしか心配そうに此方を見つめている元親の視線から逃げるように、政宗はそこから飛び出した。


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