現代親就

□Love yourself
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※ 親就高校三年生設定です。



人の温もりが苦手だ。

特に・・・あの男のそれは、嫌いだ。

自分に言わせれば、温もりと言うより寧ろ拷問。

無粋で空気を読まなくて・・・頼みもしないのに、人の世話を焼く。
長曾我部元親。

特に今日みたいな日は。

あの男に付きまとわれるのが・・・一番、嫌だ・・・。



≪Love yourself≫

〜君が嫌いな君が好き〜




季節はまた巡り。
巡るめく街の景色もまた、目まぐるしい。
そんな、先日までは鬱陶しい程に華やかだった商店街。
人も街も。
バレンタイン商戦にこぞって踊らされていたのに、今では既にホワイトデーや新学期の準備に切り替わっている。
そんな景色を横目に、毛利元就は静かに眉をしかめた。

余韻に浸る事など・・・誰も、しない。
世間も人も・・・他人の事など気にとめず、・・・世界は今日も回っているのだ。



そう、たとえ今・・・元就が第一志望の大学入試に失敗して、落ち込んでいようとも。

誰も、気にも・・・しないのだ。



そんな元就の隣りを歩く大きな体躯は、元就の歩幅に合わせ、ゆっくりと歩いている。
元就は、元親をちらりと見上げた。


正直、こんな時は、誰にも会いたくなかった。
ただ、ひとりで居たいのに。


なのに、元親はそれをさせてくれなかった。
第一志望不合格を目の当たりにし、暗い気持ちで駅の改札をくぐった元就を待ち受けたのは、他でもないこの男で。

それから今に至るまでずっと、ただ無言で元就の隣りを歩いているのだ。

元親の左側を歩いている為、元就には隠された左目を覆う色しか見えない。
その目線は拾えない。
元就からは見えないその右側の隻眼は今、何を映し、そして何を思い、歩いているのだろう。



「連絡しろっつったじゃねェかよ」

商店街を抜け、小さな公園に辿り着いたところで元親がぽつりと呟いた。

『合格してたらメールしろよ』

昨日、この男に電話でそう言われた。
そして今日、
大学合格発表の文字盤に、自分の受験番号は表示されていなかった。
だから電話もメールもしなかった、ただそれだけの事。
「・・・我はそのような約束をした覚えはない」
「何だよそれ、酷ェ言い種」
これでも凄い心配していたのに。
だが、元親がそれを言ったところで「頼んでない」と返答がくるのもわかっていたので、元親は小さくため息をついた。
「・・・可愛くねェの」
「貴様などに可愛いなどと思われたくない」
「たまには素直になってみろよ、俺はおめェの何なんだよ」
「っ・・・・・・」



『元就、好きだ』
『死ね』
『今日から俺ら、そういう事な』
『・・・貴様には日本語が通じぬのか』

そんな、わけのわからない言葉を交わしたのはこの公園。
元就はふと、去年の事を思い出した。
ここで、元就は元親に好きだと言われた。
返事もしていないのに、強引に元親の恋人にされてしまった。

勝手に告白してきて、勝手に恋人宣言をして。

自分相手に本気で恋したなどと、そんな言葉ははなっから信じていなかった。
からかってるのだろう・・・そう思ったから。
好きだとか、愛してるとか。
優しい言葉だけ並べても、意味はない・・・そんなの、信じない。
みんな形だけ、中身なんてない。
ただ、表面上の恋人が欲しいなら、相手は自分じゃなくてもいい筈だ。

そんな事を思ってしまったから。
元親の告白に対して返事が出来なかったのだ。
あの時、返事をしなかった今の自分は。


元親にとって、一体何なのだろう・・・。


「たまには寄りかかられてェんだよ、俺は」
「は?」
突然、過去回想に耽っていた元就を現実に引き戻したのは、元親の声だった。
「何でもねェふりしてんなよ。泣きたきゃ泣けよ、辛いなら吐き出しちまえばいいじゃねェかよ」
少しの憤り・・・と心配するような元親の口調に。
ああ、そうだった。
受験結果の事を話していたのだったと我に返る。
「別に・・・何とも思っておらぬ」
「嘘つけ」
悲しくないと言えば嘘になる。
悔しくない筈もない。
だが、終わった事だ。
時の運と、自分の実力が足りなかっただけなのだと、割り切るしかないのだから、今更何かを言う気も自分にはないのに。
「感じ方など、人それぞれだ。貴様にとやかく言われる筋合いはない」
それこそ、今、元就が何を考えているかなんて、自分の自由だし人に教える義理もない。
また、それに対して元親が何を感じようが、元就には関係ないのだ。
「・・・なんで、いつも、そうなんだよ・・・」
思わず怒鳴りつけそうになるのを、すんでのところで堪え、元親は必死で声音を抑えた。

誰だって、好きな人のつらそうな顔は見たくない。

けれどこの男は、それを心の内に秘めて、たったひとりでその痛みに耐えようとするから。
だから、見せてほしいと思う、分かち合いたいと思うのに。
無理しているのは、見ればわかるのだ。
同じ無愛想な表情でも、無理している時とそうでない時の元就の表情の違いに。

そんな些細な違いにすら、気付けてしまうほど・・・元就の事が好きなんだ。

「うるさい、余計な世話だ」

どんな暴言も虚勢にしか聞こえない。
小さい体で精一杯の意地を張って。
元親に背を向け俯く元就に、どうしようもなく庇護欲が煽られる。
「なっ・・・」
思わず背後から抱き締めた元親に、びくんと元就が身体を強ばらせた。
「お前って本当、不器用な」
そんな所が元就らしいけど。
「でも・・・元就はそのままでいいや、変わんなよ」
「何・・・を、・・・」
なんだその無茶苦茶な言い種は。
何か、言い返したかったのに、元就の言葉は声音にならなかった。
人の性格を否定したかと思えば、そのままでいいという。
「我とて・・・好きでこんな・・・・・・っ」
好きでこんな性格なわけじゃない。
好きでひねくれているわけでもないし、好き好んで敵を作りたいわけでもない。
ただ、素直に人に甘える術を知らないだけだ。
「離、せ・・・っ」
「嫌だね」
胸に、じんわりと熱が入り込んでくる。
言葉では拒否をしつつも、抱き締めてきた腕の強さ、元親のその温もりに、抗えなかった。
「人に、見られる・・・」
自分は小さい人間だから。
自分の気持ちより、周囲の目や体裁が気になってしまう。
こんな白昼堂々、誰が訪れて来るかもわからない公園で。
男に抱き締められているなんて。
人に見られたら、いい見せ物だ。
そう・・・思う、のに。
なのに。
今は。
いつも自分の感じるまま、風のまま、羽のように空に舞っていくような、自由な生き方をしている元親の、広い身体に包まれるのが心地良い。
「周りなんざどうでもいい」
元就の言わんとする事は、元親もわかっているつもりだ。
でも、場所も場面も関係ない。
今、元就を抱き締めたかったのだ。
誰に見られようが、どんな噂をたてられようが、構わない。
大切なのは元就の事だけ。

いつだって、自分がついてる、傍に居る。
そう伝えたくて。



「頑張れ、・・・元就」


つい、何気なくそう言ってしまったのだ。
その瞬間、元就の顔色が変わった事に。
背後から抱き締めている元親は気付かなかった。
「・・・貴様に何がわかる」
「え・・・?」
「いや・・・何でもない」
頑張れ、なんて。
そんな、偽善的な言葉は聞きたくない。
ぎり、と元就は歯を噛み締めた。
身体が震えるのを抑えつけるように、ぎゅっと拳を握り締める。
お決まりの「頑張れ」なんて台詞は反吐が出る。
本心からそう思ってないくせに。
ただ、目の前に可哀想な人間を見つけたからかけた言葉なんて、少しも心に響かない。

見かけだけの同情なんて、いらない。

誰に言われなくても頑張ってるのだ。
頑張った結果がこれなのに、これ以上「頑張れ」なんて。
それが一番傷つくのに。
だが、それを元親に伝えれば、ただの八つ当たりだ。
だから、元就は言いかけた言葉を飲み込んだのだった。
・・・が。
「あ、ぃや…悪ィ」
「?」
「おめェ頑張ってんもんな、いつだってすっげぇ頑張ってたもんな…そんな奴に失礼な事言った、」
「!!」
そんな元親の言葉に、元就はハッとして抱き締めていた腕を乱暴に振り解いた。
身体を反転させ、真正面から元親と対峙する。
「ごめんな、」
「別に・・・気にしてなどおらぬ」

心を・・・読まれたのかと思った。

この男と居ると、どうにも調子が狂って良くない。
何もかも自分の事を知り尽くされているようで、居心地が悪くなるのに、この上なく居心地が良くて。
この矛盾の、答えが見つからないのだ。
「貴様こそ・・・」
この男は、何故そんなにも自分を気にしてくれるのだろう。
自分と一緒に居ても、嫌な思いをするだけだろうに、なのに。
「貴様は・・・何故、そんなにも我に付きまとう」
「はァ!?」
そう思いながら口を開けば、素っ頓狂な・・・少しだけ怒りを含んだ元親の声が大きく響いた。
そして、憤りのない感情を逃がすかのように、元親は、がしがしと自分の頭を掻き回した。

「・・・・・・なんでわっかんねェかなあ・・・」

抱き締めてんだよ、男相手に。
普通だったら考えられなくねェ?
「前から言ってんのによ・・・好きだって」
「・・・・・・っ、・・・」
元就が絶句する。
そんな元就に、全くしょうがねェなぁ・・・とでも言うように、元親は腕を伸ばした。
が。
「ふざけるなっ!」
再び抱き締めようとしたその手は、元就の手に振り払われた。
「我をからかって、・・・楽しいか!?」
「至って真剣だっつの、お前で遊ぶほど暇じゃねェよ」
「っ・・・・・・!」
「わからねェなら何度でも言おうか?・・・おめェが好きだって」
今度こそ、有無を言わさず強引に引き寄せた。
戸惑い、強張るその華奢な身体を抱き締め、元親は元就の耳元に唇を寄せた。
「ただおめェが傍に居ればいい」
元親がそんな事を囁くものだから。
思わず元就は赤面した。
「だから、そんなに自分・・・嫌うなよ。」
元親の言葉が、ダイレクトに胸に響いた。
元親はそう言ってくれるけど、それでも。
「我は・・・自分が、嫌いだ」
意固地な性格も合理的なところも。
第一志望の大学すら入れない低レベルな知能も何もかも。

でも。

信じて・・・いいのだろうか、この男の言葉を、その気持ちを。
「・・・おめェが嫌ってるおめェ自身が、それでも俺は好きなんだよ」
だから・・・もっと、自分愛してやれよ。
「っ・・・・・・」
次の瞬間、元就は元親の背に腕を回し、強く抱き締めた。
何があっても、何を言っても受け止めてくれる、揺るぎない大きい器。
いつも自分を抱き締めてくれるその大きな背を、今どうしても抱き締めたかった。

元就のそんな仕草に触発され、更に強い力で元就を抱き締め返すと、苦しそうな吐息が元就から零れた。
それでも離れまいと、ぎゅうぎゅう抱き締めてくる仕草がどうしようもなく可愛くて、言葉に出来ない程の愛しさが元親を支配する。
元就の顎を優しく掬い上げると、何をされるのかわかったのだろう。
目許を赤く染め、元親から視線を外すように泳がせた。
それでも顔を近付けていく元親に抵抗は見せず、恥ずかしそうに、元就はゆっくりと瞳を閉じた。
重ねられた唇と、ようやく受け入れてくれたこの想いに、元親はこの上ない幸せに満たされていた。



   * * *



どれくらいの間、こうして居たのだろう。

気が付けば、日没の時刻が近付き、徐々に街灯が付き初めていた。
そんな夕焼け空に照らされながら、元就は元親の隣りをのんびりと歩いていた。

先程の、重い気分は消えていた。

「・・・ごめんな、おめぇが大学落ちて・・・俺、正直・・・嬉しい」
「なっ・・・」
「だってよ、これでまた四年間、同じ大学で過ごせるって事だろ」
「・・・・・・。」
元親の言葉に、少々複雑な思いで耳を傾ける。

第一志望に落ちた。
ということは、滑り止めで抑えていた大学に進学するという事、必然的にそうなるわけだが・・・。
その大学は、元親の第一志望、進学が決まっていた大学だったのだ。

「・・・・・・浪人する」
「あっ、酷ェ」

やっぱり素直に嬉しいとは言えないけれど。
だけどこんな展開も悪くない。
結果オーライというやつだろう。
元就には悪いけどと言いながらも、満面の笑みを浮かべる元親が、凄く可愛らしく見えた。
「これでまた、一緒に居られるな」
「ふん・・・」
「好きだぜ、元就」
「っ・・・・・・」
元親の言葉に、答える事は出来なかった。

愛の言葉を告げるのは、まだ・・・照れてしまうけれど。

でも、肯定するように強く握った手を、元親はわかってくれただろうか。
「ずっと、一緒に居ような」
おずおずと元親の顔を見上げれば。
変わらず嬉しそうな元親の笑顔と、更に強く握り返された手に、酷く安堵する自分が居る。

くじけそうな毎日も、消えてしまいそうな夜も。

「なあ・・・4月から一緒に、暮らそうか」

それを超えて聞こえてくるのは、広い海を連想させる、元親の声。



― End ―


バレンタイン企画【K/AT-T/UN・Love yourself】で書かせて頂きました。


★「君が嫌いな君が好き〜♪」の歌詞がピッタリな気がします。
のリクエストコメント有難う御座いました!!
元就の♀化は、うちのサイトは扱っていないので、同性設定でやらせて貰いました、あしからず。


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