現代親就

□朝日を見に行こうよ。
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注)親就19歳、高知県浦戸市にて同棲設定です。



「嫌だ」

「即答かよ・・・」
予想はしていた事だったけれど。
あからさまに嫌な顔をされて、存在ごと全否定されるのは。

いくら俺だって流石に傷つくってもんだぜ・・・?



≪朝日を見に行こうよ≫




長曾我部元親は夢の単車を手に入れた・・・それは確かに最近の話だ。
だが、免許自体は既に取得していたし、ペーパーライダーなわけでもない。
こいつを買うために、バイトにバイトを重ね、デートの時間さえ惜しんで働きまくった、いわば汗と努力の結晶なのだ。そしてやっと、小遣いではなく、自分で稼いだ金で手に入れた単車なのだ。
排気量250なんかと一緒にすんなよ?
こいつの馬力はハンパねェ。
ようやく、夢の愛車を手に入れた元親は、一番最初に見せたい、乗せてやりたいとそう思った人物に誘いをかけたのだ・・・・・・が。

ここで話は冒頭に戻る。

元親が後部シートに乗せたかったのは、一応・・・恋人、と言いきっていいのだろう・・・・・・か?
(同棲してんだ、あいつは恋人あいつは恋人あいつは・・・)
恋人。
名を、毛利元就という。
俗にいうツンデレ・・・むしろ『デレ』な部分は皆無にすら思える。
素直じゃない、合理的、冷酷無比。
そんな、見る人から見れば、ただの可愛げのない男だと思われがちな元就だが、元親にはその心の内が手に取るようにわかる。
こんな面白ェ奴、他にはいねェ。
元親は、心から元就が可愛くて、そして愛しくて仕方なかった。

だから。

デートに誘ったところで、まず第一声は断られるのもわかっていた事だった。
だが・・・。
「貴様に殺されるのも嫌だが、貴様と共に死ぬのは更に屈辱的だ」
「あのな・・・」
「絶対嫌だ」
元就が、まさか事故死を前提に食ってかかるとは。
これはさすがに予想外だった。

「面倒くさい」
とか、
「何故このような寒い季節に、我がバイクになぞ乗らねばならぬのだ」
とか。
「我が貴様如きと出掛けると思ったか」
とか。

ここら辺りの毒舌がとんでくると思っていただけに、元親は一瞬、本気で気落ちしたのだ。

元親の運転技術を否定した、という事ではなくて。
「ちぇ・・・わぁったよ」
「?」
「せっかく極上の日輪拝ませてやろうと思ったのによ」
「・・・貴様などと来光参拝など、極上が廃れるわ」
何だかんだ言いつつも、身も心も自分に預けてくれていると、そう思っていたからこそ、受けた痛手だった。
(俺はおめェとだったら、事故って死んでも悔いはねェのに)
いつも、天の邪鬼で可愛げがなくて。
でも心の奥底では繋がっていると信じていた。
そう信じていたのは、自分だけだったのか・・・?
「本当おめェ・・・時々酷ェぞ」
「御言葉有り難く頂戴しよう」
「褒めてねェんだけど・・・」



・・・。

・・・・・・。

・・・・・・・・・。

というわけで。

次の手を考える事にした。

元就の暴言をいちいち真に受けていたら、とっくに傷心死してるっつの。
恋人なんかやってられっかよ。
そう考えてしまう自分は、我ながら前向きな人間だと思う。
でも。
何となく想像がつくのだ、きっと元就は今頃・・・。
過ぎた物言いに後悔してるんじゃないかと、元親はそう思っていた。
というか、少しは悔いていて欲しい、希望的願望だけれど。

元親はふと、先日のクリスマスを思い出していた。
差し出したプレゼントに対し一言「いらぬ」と言い捨てた元就。
だが、その直後。
本人に自覚はないのだろうが、その後悔が、色濃く表情に現れたのだ。
だから元親は、
「頼むから貰ってくれよ、お願いだ」
とアシストを出してやり、無事元就にプレゼントを渡すことが出来たのだ。
あの時。
「・・・仕方ない・・・貰ってやる。よこせ」
と、端から聞いたら殴られそうな物言いで、元親からプレゼントを受け取った元就は。

正直言って、限界ぶち抜いて可愛かった。

嬉しそうに綻ぶ目許を必死で抑えようと、無表情に徹しようと頑張る仕草、
うっすらと染め上げた頬の赤みに。
思わず理性が飛んでしまい、押し倒してしまったのだから。

惚れた方が負けって言葉はマジだなと、不覚にも元親は思ったのだ。



   * * *



その衝撃は、突然起こった。


すぱーんっ!!
と軽快な音と共に、乾いた痛みが元親の頭を打ち抜いた。
立て続けに、その後ぱんぱんっと元親の頭を打つその感覚に、ぼんやりと元親は意識を浮上させる。

― AM4:30 ―

「・・・ん・・・な、んだァ・・・?」
「何をしておる、さっさと起きぬかこの馬鹿者が」
うっすらと目を開けると、新聞紙を丸めた凶器でまた頭をはたかれた。
一体何なんだこの扱いは。
俺はゴキブリか・・・?
「極上の日輪を拝ませると言ったのは、そなたであろう」
「っておめェ・・・」
嫌だって昨日、散々言いやがったじゃねェか・・・。
そうつい言おうとして、寸前で元親は思い止まる。
ようやく寝ぼけていた頭がクリアになってきた。
「・・・行かぬならいい、」
くるりと踵を返し、部屋を出て行こうとする元就の腕をとっさに掴む。
「すぐ準備するから待ってろ!」
叫ぶなり、元親はベッドから飛び起きた。


元就と、行きたい場所があった。
元就に、見せたい光景があった。
元就の、喜ぶ顔が見たかった。

4時半・・・いや、もう5時か・・・。
間に合うだろうか。
高知県の日の出時刻は、大体7時。
あの場所までは、ここから電車で1時間半強。
バイクだと・・・もう少しかかるかも知れない。
ギリギリ間に合うか・・・?

間に合わなかった時の元就の反応に少々不安を覚えつつ、元親は必死にバイクを走らせ続けた。


元親の予想通りというか。
やはり元就は昨日の物言いに後悔・・・したかどうかはわからないが、まあ何はともあれ元親の誘いに応じてくれた。

せめて元就がもう少し素直だったなら。

そうしたら、前日に用意を済ませ、準備万端で臨めたのに。
思わずそう小言のひとつも言ってやりたくなった。
が。
素直になったらなったでそれは元就じゃない、と少し物足りなく感じてしまうかもしれない、そう思う。

元就の事を一番わかってやれるのは自分なのだから。
ほら、今だって。
後部シートから自分の背をぎゅっと抱き締める元就に、自然と元親の口端に笑みが浮かぶ。
考えている事、思っている事は素直に言葉に出来ない元就だが、それを素直に行動に出す事は出来るのだ。
その思うところは残念ながら理解出来ない。
寒いのか、怖いのか、元親の背だから腕を回してくれているのか。
「寒くねぇか?」
そう問えば、頷いたのだろう。
こつんとメット同士がぶつかった。
そんなささやかな事にすら、嬉しいと感じてしまう自分に、元親は高揚していく心が抑えられなかった。

・・・。

・・・・・・。

・・・・・・・・・。

「なァ・・・何で今日なんだよ」
「何がだ」

12月31日、午前7時前。

・・・初日の出鑑賞と洒落込むには、些かフライングだ。

なんとか日の出までに目的地へと到着を果たし、元親はほっと肩を撫で下ろした。

高知県室戸市、室戸岬。
極上の日輪は、ここにある。
この時期にしか見れない、最上の日輪だ。

元親としては、やはり、これは元旦に元就と見たかったのだ。
一緒に初日の出を見て、そのあと初詣に行ったりして・・・とベタなデートプランだが、そうしたいと思っていたのだ。
それを元就に伝えれば、
「何故我が貴様とそのような事をせねばならぬ」
と、お決まりのこのセリフが返される。
自分にくるりと背を向けてしまった元就に、元親が呆れたようなため息をつく。

「・・・・・・だ、ろぅ・・・」

「え?」
「・・・人混みは嫌いだと言った」
「ちょ、おま・・・」
今のは自分の聞き間違いだったのだろうか。


正月になど出掛けたら。
あのような人込みの中で、貴様とゆっくり過ごせぬだろう。


確かに、そう聞こえた、気が・・・した。
「元就・・・」
恥らっているのか、急に前を歩く元就との距離が広がった。
速度を上げる元就の歩調を追いかけるようにして、たまらず元親は背後から元就に抱きついた。
「っ・・・そうではなくて・・・」
「あぁ」
その顔が耳の先まで真っ赤に染まっているのが見てわかった。
「皆、初日の出ばかり気にするくせに、その年最後の日輪には見向きもせぬゆえっ、」
「あぁ」
「だから我が労いの参拝をしてやろうと・・・っ、聞いておるのか」
「あぁ、聞いてる聞いてる」
もうマジ可愛くて仕方ねェ。
耳元にふっと息を吹きかけ、その耳朶を軽く唇ではめば、びくんと元就の身体が小さく震えた。
身体は素直なのな、
そう揶揄すれば、元就の顔が更に羞恥に染まる。
「ゃ、め・・・ろっ!!」
制止の言葉も聞かず、元親が元就の項に唇を押し当てる。
そのまま唇を移動させ、敏感な首筋に食らいつく。
反射的に喉を反らせた元就の顎をがっつり捉え、頭ごと抱え込むように元親はその唇を塞いだ。
「んぅ、・・・・・・は、ぁ・・・っ」
歯列をなぞるように、ゆっくりと口の中で蠢く元親の舌の動きに、肌が粟立つ。
と同時にゆるりと元就の熱がせり上がってくる。
「も、ゃめ・・・っ」
ここでは、駄目だ。
そう切れ切れの呼吸で、涙目で訴えてくる元就に、元親はぎりっと奥歯を噛み締める。
何処彼処でも、つい理性を飛ばして盛っちまいたくなるのは、誰でもない、元就だけだ。
「わぁってるよ、ここじゃしねェよ」
でも。
「あとちょっと、な」
くるりと元就の身体を反転させ、再び唇を重ねる。
無理な体勢から開放されたせいか、今度は従順に元親の舌を受け入れる。
何度も何度も舌を絡ませ、元就を求めてくる元親に必死でしがみつきながら、元就は呆然と東の空が明るんでくるのを見つめていた。
「ぁ・・・ゃ、もっ・・・時間、だ・・・」
「それは残念」
にやりと笑いながら最後に触れるだけのキスを落とした元親は、あっさりと元就への拘束を解いた。
その潔すぎる程の元親の行動に、言葉には決して出せない寂しさを少しだけ抱えながら、元就は隣りの愛しい人を見上げる。
「ほら、出てきたぜ」
元親の指差す方向、
水平線から浮かび上がる日輪が。
その御来光を目を輝かせて迎えようとして。

「っ・・・・・・!!」

元就は思わず息を呑んだ。
「な? 凄ェだろ?」
そう、得意気に話しかけてくる元親の言葉も耳に入らない程、その時の元就の時間はスローで流れていた。

なんて。
なんて美しい朝日、
「これは・・・」
「室戸岬の『だるま朝日』、この時期にしか見れないんだぜ?」
日の出の時刻、水平線から顔を出した朝日を、海の水面が綺麗に映し出す。
朝日が完全に水平線から離れるまでの、ほんの一瞬の時間。
空へ昇りゆく朝日と、海に映った朝日。
この二つの朝日が繋がって、光り輝くだるまのように見えるのだ。

それが、だるま朝日。

「綺麗だ・・・」
思わずそう呟いてしまった元就に、満足そうに元親がその肩を抱き寄せた。
わずかに予想していた抵抗もされず、目の前に広がる美しい光景にただただ没頭する元就に、元親も自然と笑顔が零れる。
連れて来て良かったと心から思った。
だけど元親にしてみれば。
そんな朝日に照らし出される元就の穏やかな表情の方が、何倍も自分を魅了し、目を奪っていくのだ。

やべェな、
そろそろ・・・限界、かも。

日輪を前に、目を輝かせる元就が・・・可愛すぎる。

どんなに理性の人になろうと努力しても。
どう頑張っても、元就の前では元親の努力なんて無効化してしまうのだ。
完全に水平線上を離れてしまった朝日を、飽きることなく眺め続ける元就に焦れたように、元親は抱き寄せた腕に力を込めた。
「・・・帰っか」
帰宅を強請るように触れるだけのキスすれば、「あ、ああ・・・」と顔を赤らめ、俯いた。

さっさと帰って・・・続き、しようぜ。
とは言わなかった。
この天邪鬼な日輪の機嫌を損ねるわけにはいかねェからな。



― End ―

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