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□魂のざわめきを
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≪魂のざわめきを≫



「たぎる・・・。」


「馬鹿じゃないの」
「なっ、佐助!」
突如、背後からかけられた言葉に、真田幸村はびくんとその背を震わせた。

振り返れば、そこにはにんまりと意味深な笑みを浮かべる猿飛佐助の姿があった。

いつもの事だが、この忍びの存在は心臓に悪い。

「主に向かって馬鹿とはなんだ、切腹ものだぞ!」
夜空を眺めながらたそがれていた自分を、誤魔化すように声を荒げてみれば、
「残念でした〜、俺様は武士じゃないんで。切腹なんて関係ありまっせ〜ん」
と、倍返しの毒舌が返ってきた。
「むぅ・・・」
「三日月見て漲っちゃうなんて、旦那、破廉恥〜」
「そっ、そのような事は決して・・・
「こんな所に濃ゆ〜い痕付けられといて、どの口が否定してんだか」
幸村の首筋をつんつんと指差して、佐助は「旦那破廉恥〜」を連呼し続ける。

佐助の触れた箇所、

そこに残るのは鬱血痕。
「のわあぁぁあっ!!」
思わず佐助からのけぞり、顔を赤らめる幸村に。


夜空に浮かぶ三日月が、にやりと笑った・・・気が、した。


・・・。

・・・・・・。

・・・・・・・・・。



「あっ・・・」

昨夜も三日月の綺麗な、晴れた夜だった。

「っ、ぁあああっ・・・」
敷布を必死で握り締め、しどけない姿を晒している幸村を見下ろすのは、もうひとつの三日月。

奥州筆頭 伊達政宗。

「熱いな・・・溶かされちまいそうだ」

だが、こっちの三日月は静かに幸村を見守っては、くれない。
「政っ、宗、殿・・・っ」
散々焦らされ、言葉で責められて。
今、幸村の身体は尋常じゃない程に高ぶっていた。
政宗と繋がった箇所から、止めどなく熱が湧いてくるようだ。
「Are you all right?」
「っ、あ・・・あ、・・・」
言葉の意味はわからない。
だが、その慈しむような視線が、心配そうに頬を撫でる手の優しさが、言葉などいらない事を物語ってくれる。
「ぁ、つ・・・っ」
「痛いか?」
政宗を受け入れたまま微動だにせず、幸村を気遣うその優しさが、もどかしくて、もっと貪欲に自分を求めて欲しくて。
無意識に腰が揺れてしまうのを、意志の力では止められない。
「熱、い・・・っ」
うっすらと開かれた幸村の瞼から、生理的な涙が一筋零れた時。
政宗の理性は脆くも崩れ去った。
「ゃっ、ぁああ・・・っ」
艶めく喘ぎ声は大気に溶けてゆく。
身体の中から自分を支配していくこの男に、熱まで奪われていく。
「幸村・・・」
「ん・・・っ」
溶かされてしまいそうなのはこちらの方なのに。
「I love you・・・」
耳元に触れる、吐息混じりの甘い異国語の囁きに、幸村はびくんと身を振るわせる。
「ぁ・・・あ、」
そのまま唇が下がっていき背筋がぞくぞくと戦慄いた。
「あっ、あっ、んっ」
そんな幸村の痴態に、政宗は思わず目を細める。
律動を速く、そして深くを突く度に、吐息と共に零れる声音すら逃したくないと、そう思ってしまう。
「熱、い・・・っ、政、宗っ・・・殿ぉ・・・」
必死で政宗にしがみつく、決して華奢じゃないその体躯が、全身で自分を求めてくれているのだ。
そう感じられるのが、何よりも嬉しくて。
政宗は強く腰を打ち付けながら、幸村を恍惚の淵へといざなっていった。



   * * *



短い逢瀬の後の、長い別れはいつも悲しい。


恥ずかしくて言葉にこそ出来ないが、その想いを伝えたくて。
幸村は隣りで自分を抱き締める、愛しい人を抱き締め返す。
そうすれば、幸村の想いに応えるように、政宗の腕にも力がこもった。
「また、暫くは・・・・・・」
会えない日が続くな、
と。
そう言おうとして、政宗は言葉を止めた。

真田幸村という男は、想いを言葉にするのを嫌う。

いや、決して嫌いなわけではないのだろう。
ただ羞恥心や表情が先に立ち、言葉として表現する事を倦ねているだけなのだ、とそう思う。

今もまた。

言葉にこそ出さないが、その瞳と自分にしがみつく腕の強さが。

離れたくないと、まだ別れの言葉など口にするなと、全身全霊で訴えているようで。
そのあまりにも悲しそうな瞳に、胸が締め付けられそうになった。
「そんな顔すんな・・・また襲うぞ」
「なっ・・・破廉恥な・・・」
ちょっとからかってみれば、すぐ顔を真っ赤に染める。

くるくると変わる表情、真っ直ぐで素直な幸村。

改めて、この男が愛しいと思った。

否応無しに込み上げてくる恋情に、困ったように政宗は苦笑した。
「あ・・・っ」
ゆっくりと顔を近付けると、政宗の腕に、幸村が身体の強張りを伝えた。
今しがた、もっと凄い事をしていたというのに、その反応がとても初々しい。
触れるだけの口付けを幸村に送ると、そのまま政宗は首筋へと唇を這わせた。
「んっ、・・・ぁ」
そして、その首筋に強く吸い付いた。
そこに色濃く残すのは所有印、独占欲の証。

「消える前にまた来いよ」

そう言ってにやりと笑ったニヒルな表情に、幸村は顔を真っ赤に染めながら、ただただ見惚れていた。


・・・。

・・・・・・。

・・・・・・・・・。



「佐助・・・」
「ん?」
「政宗殿に・・・逢いたい」
「さっき奥州から戻ってきたばっかじゃん!」
間髪入れずに入る佐助のツッコミに「それはそうなのだが・・・」と呟きながら、幸村はうなだれた。


どうしてこんなに惹かれるのか、わからない。


この首筋の鬱血痕も、付けられたばかりだというのに、早く消えかけてくれ・・・と願う気持ちを抑えられない。

『このキスマークは証、アンタは俺のもんだからな、』

その独占欲の痕に触れるだけで、こんなにも心が苦しい。

苦しくて苦しくて・・・どうしようもなく、心が震えるのだ。
身体ごと、脳髄の奥の奥まで全ての理性を奪い去る、この魂のざわめきを。

抑えられない・・・。

「・・・あんたのしたいように、すればいいさ」

やがて。

呆れたように佐助が溜め息をついた。
だがその表情とは裏腹に、幸村を見つめるのは優しい眼差しだった。
そこには先程の呆れ顔も、からかうような表情も何もない。
「俺様はいつだって、何処までだってお供するだけさ、旦那」
穏やかに佐助が告げる。
「佐助・・・・・・」
そんな佐助の言葉に、幸村の胸がじんと熱くなる。
「おぬしは最高の『ぱーとなー』だ」
「何それ」
「俺にもよくわからぬ」
「はぁ〜?」
「政宗殿が言っていたのだ」
伊達政宗にとって片倉小十郎は最高の『ぱーとなー』なのだと。
「だから佐助も俺の大切な『ぱーとなー』なのだ」
「意味わかんないんだけど」
ひとり満足そうに頷く幸村に、佐助は不満そうにその挙動を見つめる。

まあ・・・とりあえず、俺様誉められたんだよな。
「お誉めに預かり恐悦至極、俺様大感激〜ってね、ありがと旦那」
にっこりと笑って佐助が礼を述べると、幸村も嬉しそうに笑顔を向けた。
「では明日の日の出と共に出立だ」


どこまでも共に来てくれるのだろう?


そう得意気に笑う笑顔が。

その澄みきった真っ直ぐな瞳に、政宗は虜になったのだろう。

そして自分もまた。
この主には逆らえないのだ。
「本当に行くのね・・・了解っと」
じゃあさっさと寝なさいな、と言い残し、佐助は姿を消した。

夜更かしなんかするんじゃないよ。
あんたの求める三日月は、空でじっとなんかしちゃいない。そうだろ?

余韻の残る佐助の物言いに、ほんのりと幸村は頬を染め、夜空を見上げた。



― End ―


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