その他CP

□痛みもない。
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言葉がない、というのは。
もしかしたら凄く、いい事なのかもしれない。



≪痛みもない≫




言葉は時として武器よりも鋭い刃と化す。
だから。
喋らなければ、誰も傷つけずにすむ。
だがその反面、感情を相手にぶつける事が出来ないのは、もしかしたら酷く苦しいのかもしれない。
(ま、忍びに感情なんて必要ないんだけど・・・さ)
密かに情報収集するつもりで、忍び込んだ小田原城に、彼は・・・居た。

風魔の忍び、小太郎。

伝説の忍びと謳われる彼と、一度、佐助は対峙した事があった。
あの時はあっさりと負け、上杉のくのいち共々、死を覚悟した。
だが、生かされた。
そうしたら、今度は純粋なる興味と好奇心が佐助を支配した。
だから近づいた。
今度こそ殺されるかも・・・などとは考えもしなかったのだ。
それは。
もっと予想外な事態に陥ってしまった為、だった。

その懐に偵察へと潜り込んだあの日から。
心ごと・・・彼に捕らわれてしまったのだ。
「あんたは不思議な人だよ」
欺くつもりで暴かれて、手込めにするつもりがハメられて。
「?」
「喋れないの、それとも・・・喋ら、ないの・・・?」
「・・・・・・。」
この腕の中が、心地良いと、思ってしまったのだ。
「ま、どっちでもいいけどさ」
離れがたくて、傍に居たくて。
この忍びの心を知りたいと思ってしまった。
「あんたに『痛み』はあるのかな・・・」
「・・・・・・?」
もしあるのなら。
その奥底の痛みを・・・知ってみたい。
分かち合いたい、なんて偽善的な事は言わないから。
「・・・何でもない、ごめん忘れて」
あまりの自嘲気味た考えに、佐助が苦笑した途端、佐助の視界が暗闇に襲われた。
「・・・・・・コタ・・・?」
その、漆黒の忍び装束に抱き締められたのだ。
そう頭が理解し、佐助はほんのりと顔を赤らめた。
ゆっくりと顔をあげると、めずらしく動揺を浮かべるその瞳と視線が交差した。
何か言おうと開きかけた口を、小太郎の唇に塞がれる。
「・・・・・・んっ、」
強く抱き締められたまま。
何度も何度も顔中に口付けられ、佐助はとろんと熱を帯びた瞳を向ける。
再び視線を交じ合わせると、首がもげてしまうのではないかと、そう思ってしまうくらい強く、小太郎がふるふると首を横に振った。
佐助を強く抱き締めるその腕が、微かに伝える振動が、心拍数を奏でる呼音が。
「うん・・・わかった。」
あんたの・・・気持ち。
そうだね、
あんたはいつも、全身で気持ちを伝えてくれていた。
「ありがと・・・俺様も好き、だよ」

自分が言葉にした想いの丈を、沈黙で返される事が辛かった事もあった。

言葉を交わせない事に、小さな痛みを伴った事もあったけど。

そんな事は些細な問題じゃあなかった。
「んっ、ふ・・・ぁ・・・」
再び唇を奪われ、佐助は小太郎の広い背中に腕を回す。
触れるだけのそれではない、小太郎の熱い舌が、佐助の口腔深く想いを伝えてくる。
その心地良さに、うっとりと佐助はなすがまま、愛しい人の口付けに流されていた。

が。

強く抱き締めるだけだったその腕が、意味を持って佐助の身体を撫で始めた。
「えっ、ちょっ・・・!」
焦る佐助を余所に、小太郎の手は、佐助の衣服の中へと潜り込み、その傷だらけの素肌に触れていく。
「ちょっ・・・待った、こんな所で・・・っん」
投げかけた抵抗は、あっさりと口付けられて効力をなくす。
(こんな所で・・・ってのも野暮な言い訳、かな)
綺麗な月夜、目の前には聳え立つ小田原城。
そして自分達は・・・、
まさに忍びが居る為の、恰好の場所じゃないか。
そう思い直し、佐助はくすりと笑った。
突然抵抗をやめ、何やらひとりで可笑しげに笑う佐助に、小太郎も手を止める。
不思議そうに、そして少し心配そうに、佐助を見つめた。
くすくすと笑い続けながらも、佐助は今度は自分から、小太郎に触れるだけの口付けを送った。

そう、ここは木の上。

「続き・・・しよ、」
そう言って誘うように小太郎を見つめると、小太郎の顔に赤みが差した。
「でも・・・落とさないでよね」
こんな高い所から、無防備な格好で落ちたらきっと、いや絶対・・・痛い筈。
(ああでも)
早急に自分を求めてくる闇と、月の光を見ながら、漠然と思う。
この人になら、落とされてもいいかな、と。
この人と一緒なら。
それならきっと。


痛くなんか、ない。



― End ―



※ 合同企画部屋より移動。


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