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□想いの行方
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寝返り、裏切り、騙し合い・・・・・・。

殺るか殺られるか。

ならば殺られる前に、息の音を止めてやる。



≪Whereabouts of the thought≫
  〜想いの行方〜



昨日まで味方だったものが、明日は敵になる・・・。

そんな事が日常茶飯事である事はわかっている。

けれど・・・・・・。

それが、惹かれて恋い焦がれてやまない相手だったら。

どうすればいい・・・。


その時、気付いたら真田幸村は二双の槍を地に下ろしていた。

あの人の側近と刃を交える、というだけでも心が重く痛んだのに。
だが、それは相手も同じ思いだったらしく、全く技にキレがない。
むしろ上の空で、隙だらけで。
何かと葛藤しているのがありありとわかり、幸村は自分の心の動揺だけは、相手に悟らせるまいと必死で脳に命令を下し続けていた。

ふと、その先に目をやった時に、この世で一番見たくなかったものが視界に入った。

最愛の彼の人、

伊達政宗が、二人がかりで身体を支えられ、運ばれていく後ろ姿を。

思わず槍を下ろした幸村に、片倉小十郎は容赦なくその鋭い切っ先を首元に突きつけた。

同情などいらないと言われた時、心の臓を握りつぶされたような衝撃が体内に走った。

何故、そのような酷な問い掛けをするのか。
・・・あの人を死なせたくないと思うのは、その右目を担うそなただけではないのに。

出来ることなら引き止めて。
出来ることなら医者を呼び。
・・・誰よりも早く駆け付けたかった。

だが、立場と立ち位置がそれを許さない。

何よりも近く寄り添いたいのに。


「・・・行ってくだされ・・・・・・」

結局、今の自分が出来る事と言ったらこんなに小さな事。
「・・・すまねぇ・・・!」
一礼し、早々に立ち去って行く片倉小十郎の背中を、やるせない気持ちで見つめる事だけしか・・・・・・自分には出来ないのだ。


   * * *


「それは天狐殿でござろうな」

後日。

松永討伐という自国の問題も解決し、恩義にはきちんと礼をしなくてはと、伊達政宗はその右目を引き連れ、上田城を訪れていた。

幸村の前から政宗が去った後、瀕死状態だった政宗に、応急処置を施した者が居たのだという。
聞けば、狐の面をかぶった忍びだったという政宗に、幸村は直ぐに思い当たったのだ。
「天狐?」
「某の忍びではございませぬが、存じております」
佐助の友人だ。
「佐助に勝るとも劣らぬ、強い忍びでござる」
自分も以前、修行の際に大変世話になったものだ。
「そうか・・・そいつに礼が言いてぇんだがな」
武田軍が誇る真田の戦忍、猿飛佐助と互角だというその忍びに、俄然興味の湧いた政宗は少年のように瞳を輝かせた。

命の恩人、って奴だ。

合意さえとれれば自分に仕えて欲しいとも思った。
望む額の給金支給も厭わないつもりだ。
「あいつに・・・会えねぇか、真田」
「天狐殿は、佐助も会うのが困難だと申しておりましたが・・・聞いてみましょうぞ・・・・・・・・・佐助!」
いつものように天井を見上げた。

はいよ、っと。
ひらりと幸村の前に姿を表す佐助に、天狐仮面を探すよう命じる・・・・・・、

そんな幸村の計画はあっさりと崩れた。
見つめる天井の板はことりとも動かず、再度 佐助の名を呼ぼうとも沈黙を保つばかりだった。
「何処に行ったのだ・・・?」
そう呟きながら、それでも政宗に、必ず天狐と接触すると約束する。
「・・・・・・。」
そんな2人のやりとりを冷静に見ていた片倉小十郎は、大きなため息をついたのだった。


   * * *


あまり政宗に無理をさせないよう約束をさせられた上で、二人は城を後にした。
久しぶりの手合わせ、久しぶりの昂揚感。
何もかもが久しぶりすぎて、楽しかった。
小十郎の約束も空吹く風で、ふたりは限界までやりあった後、互いに仰向けにひっくり返り、その大空を見上げていた。

「俺が天下取ったら、てめぇは俺が飼ってやるよ、」
「それはありませぬよ」
幸村が笑う。
天下はお館様が取ります故。
政宗殿は同盟国の主として、しっかり働いて貰いまするよ。
そう言葉を続けて、ふいに幸村は何かを思うように口を閉じた。
「でも・・・・・・政宗殿でもいいのかもしれませぬな」
「?」
「そなたはお館様と同じ・・・お考えを持っております故」
不謹慎かも知れない。
でも。
この人でも、十分に平和な世を築いてくれるだろうと、そう思ってしまうのもまた事実なのだ。
「Ha・・・随分な失言じゃねえか、」
「・・・・・・そうでございますな」
武田の武将として、これが失言なのは重々承知している。
だが、ひとりの民として言わせてもらうなら。
誰が天下を取ろうが、本当は構わないのだ。
「お館様やこの国の民が健やかに、息災であれば、そして・・・」
「? なんだよ」
「そして・・・佐助が幸せであってくれれば、某は他には何も望みませぬ」
遠い目をして上田の街を見つめる幸村に、政宗はチッと舌打ちした。
そして乱暴にその腕をぐいと引き寄せ、強く幸村を抱きしめた。
「政、宗・・・・・・殿?」
困惑の表情を浮かべたのは一瞬。
すぐにこんな昼間から、とか、破廉恥な、などとほざき出す。
その煩い口を自分のそれで塞ぎ、政宗はチッと舌打ちした。
「幸せを願うのは猿だけか? ・・・そこに俺は入ってねぇのかよ」
真っ赤になり、政宗の腕から逃れようともがくが、政宗はそれを許さない。
こっちだって久しぶりの逢瀬なのだ。
離してたまるか、の心境である。
「そんな・・・・・・烏滸がましいでござるよ」
政宗の幸せを願うなど。
民を幸せにする一国の主の幸せを願うなど、どれだけ差し出がましい事か。
だが、佐助は違う。
「佐助は・・・籠の中の鳥なので」
「はぁ?」
「某の為に動き、某の為に死ぬのが存在理由だと。・・・・・・政宗殿」
「An?」
「一度殺した人の心というのは、本当に戻らないのであろうか」
佐助の口癖だ、
感情などないと、自分は殺戮兵器だと。
幾度となく諭しても、佐助のその心は融ける事はない。
「ならば某は、その鳥を後生、大切に飼うだけでござるよ」
真田幸村に飼われて良かった、この籠の中は幸せだったと言ってもらえれば、それでいい。
「馬鹿だな」
幸村の優しさが伝わってくる。
部下である忍びを心底心配する幸村に、改めて愛しさが沸き上がってくる。
「端から見ても十分幸せそうだぜ、あの忍びは」
ちらりと視線だけを上田城へ向ける。
あの忍びがどれだけ小十郎とイイ雰囲気か、てめぇだって知ってんだろ、と耳元で囁くと、その顔が真っ赤に染まった。
「猿、猿って・・・俺を妬かせてぇのか、てめえは」
いい加減、他人の話ばっかしてんじゃねぇよ。
そのまま耳に息を吹きかけると、びくんと震え、そして顔色に更に赤みが増した。
「政宗殿の幸せは・・・誰よりも願っているつもりでございますが・・・」
今回のような事になったら・・・・・・。
考えたくなくて、今まで避けてきた。
今はいい、
だが、いつか本当に敵になったら。
言葉にするのが怖いこの思いを、どうやら政宗はわかってくれたようだった。
その時はその時だ、
と、たいした事ないように切り捨てる。
「そん時、てめぇが俺を殺す選択をしたとしても、俺はてめぇを生け捕りにして飼う・・・って決めてんだからな」
そう勝ち誇ったように笑う顔に魅入られる。
「某が・・・政宗殿を殺められると本当にお思いか!?」
あのような力無い背中を見せられただけで、心臓が破裂しそうになったのに・・・。
それをどうして自分が手を下す事ができようか。
「・・・・・・おい」
急に黙って俯く。
顎を掴み、顔を上げさせようとすると、その身体がびくっと震えた。
「何も・・・出来なかったのに・・・・・・」
「?」
「某は・・・政宗殿を見殺しにしたも同然」
「勝手に殺すんじゃねえ、生きてんだろうが」
抱き寄せられた胸に顔を寄せれば、耳元に聞こえてくるのは確かな心音。
とても・・・力強くて。
「本当に・・・ご無事で良かった・・・・・・」
幸村を強く抱き締める政宗に応えようと、今度はしっかりとその背に腕を回し、強く抱き締め返した。
少しでも、その想いの丈が伝わるようにと祈りながら・・・・・・。


― End ―

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