幸♀佐

□いにしえの願いA
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※ このお話は、10頁目に≪破廉恥≫があります。自己責任の上、ご観覧下さいませ。



   * * *


旦那を信じてない訳じゃない、
旦那の強さは誰よりも知っている。



≪いにしえの願いA≫



「ちょっと喉・・・乾いちゃった、かな」
「何か飲むものを用意しよう」
「前に俺様が風邪引いた時に、旦那が林檎すりおろして作ってくれた、あの果汁がいいな・・・駄目、かな?」
上目遣いで佐助が幸村を見つめると、幸村の顔がぽっと赤くなった。
「駄目なわけあるか、しばし待っておれ」


佐助に強請られる。
以前までなら、絶対あり得なかったそんな幸せに、幸村は頬が緩むのを隠せない。
元気よく立ち上がると、部屋を後にした。
どかどかと派手な音を立てて廊下を走っていく幸村に、佐助は幸せそうに微笑んだ。


「さて・・・・・・と、」


もう間もなく臨月を迎える。
膨らんだ腹を軽くぽんぽんと叩き、佐助はゆっくりと立ち上がった。
片手にしっかりとクナイを握り締め、きつく瞳を閉じたその表情に、先程までの幸せそうな笑顔はない。


旦那を信じてないわけじゃない、
旦那の強さは誰よりも知っている。


「っ・・・・・・!」


がくりと佐助は地に膝を付いた。
呼吸が少し、乱れていくのが自分でわかった。

「ごめんね・・・・・・守れないかも、知れない・・・」
佐助の腹の中で9ヶ月程。
頑張って育って来てくれた、初めての我が子。
大好きな、幸村の御子。
だが、それでも。
「旦那だけは、守りたいんだ・・・わかってよね」



ふいに部屋にほんのりと漂った妙な香の匂い。
瞬時に佐助は、これはヤバいと悟った。
幸村を、守らなければと思った。
擂りおろし林檎の果汁が飲みたいから、と部屋を遠ざけたのは、何ともうまい事を考え付いたものだ・・・。
そう佐助は自嘲した。
この違和感、不協和音、香の不快感・・・これは敵襲。
既に忍隊も気付いているだろう。
じきに騒がしくなる。

「さよなら、旦那・・・」

抑揚のない声で呟くと、佐助は固く閉じていた瞳を見開いた。

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