現代小十佐

□嫉妬知らずな恋人
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※ 公式学バサ設定を微妙に引用してます。




此方に気付いて小走りになりかけていた茜色の動きが、一瞬止まった。

アイツの恋人、猿飛佐助。

彼が動きを止めたのは、その恋人の隣りを陣取る自分の存在が、邪魔だったからだろう。
僅かに顔をしかめた佐助のその表情に、ちょっとした悪戯心が生まれた。
だから、それを、実行したのだ・・・。



≪嫉妬知らずな恋人≫



「なぁ、小十郎」
「何です?」
「あれやってくれよ」

ここは私立婆沙羅学園。
先日、真田幸村率いるサッカー部とのグラウンド争奪戦を経て、今日は野球部がその使用権を公使していた。
そんな放課後のグラウンドで、伊達政宗はどこか楽しそうに目を輝かせていた。
「あれ、とは・・・?」
不思議そうに首を傾げる隣りの男、
昔馴染みであり、此処では先輩にあたる片倉小十郎。
彼方に背を向けている小十郎は、フェンス向こうから此方を睨み付ける恋人の姿に気付いていない。
「ガキの頃、よくやってくれたじゃねぇか」
そう言って、政宗は甘えるように小十郎にすり寄った。
「何を言ってるのやら・・・もう大人でしょうに」
「いいじゃねぇか、ほら」
ぐいぐいと密着してくる政宗に、手を引く気配はない。
諦めたように小十郎は小さくため息をついた。
「・・・仕方ない御方ですな・・・」

痛いの痛いの飛んでいけ。

少しだけ羞恥を感じながらも、小十郎はそう昔懐かしい呪文を口にする。
そうして政宗の右目に、眼帯の上から軽くキスをした。
その時だった。
「!!」
意地悪くにやりと笑った政宗に、何かとてつもなく嫌な予感が襲い、小十郎はバッと後ろを振り返った。
「あ・・・・・・、」
全く、
嫌な予感というものは。

どうしてこうも的中してしまうのだろうか。

小十郎がフェンスの方を振り向いた時、よく見知った茜色が、同時にグラウンドに背を向けるところだった。
「さぁて・・・どうする小十郎」
ニヤニヤと笑いながら、政宗がたたみかけてくる。
その、腹の底から愉しげな笑顔は止まらない。
「貴方という人は・・・!」
突然、幼少期の戯れなんかを持ち出したのは、それが狙いだったのか、と。
ようやく小十郎は気付き、思わず怒りにぎり、と歯を噛み締めた。
これが先祖代々仕えている名家の御曹司でなければ、今すぐにでも殴り倒しているところだ。
「Ha・・・怒んなよ、嫉妬させんのも戦法のひとつってな…ほら、さっさと行って弁解して来いよ」
悪びれた様子すら見せず、政宗は佐助が消えていった方角を、くいっと顎で指し示す。
「・・・・・・、」
心なしか、慌てたように走り出した小十郎に「今夜のpartyは忘れんなよ!」と政宗の声が、その背に放たれた。



・・・・・・・・・。



「佐助!」

その目立つ外見は、すぐにわかる。
駐輪場から自転車を押して歩いていた佐助を、ぎりぎり小十郎は捕まえる事に成功した。
突然、息せきって自分の肩を掴んだ小十郎に、佐助は少しばかりの驚きを浮かべる。
「・・・どしたの急に、」
「え、あ・・・」
「部活中だろ?」
だが。
予想外の佐助の態度に、一瞬 小十郎の頭の中は困惑する。
「いや、まあそうなんだが・・・」
とりあえず追い掛けなければ、と。
何も考えずにグラウンドを飛び出してしまったが、実際の所その後の事は何も考えていなかったのだ。
「だったらさっさと戻らなきゃ」
なのに。
いつもどおりの、佐助のその穏やかな口調と相変わらずの無表情。
もしかして、先程のあれは見られてなかったのか・・・?
と、いいように解釈してしまいたくなる程に、何もかもがいつも通りで。
「・・・何か、用があったんじゃねえのか」
言い訳は、不発弾を爆発させるだけかもしれない。
そう思ってしまった途端、小十郎は先程の出来事を心の中に封印した。
「今、来てただろう」
「・・・通りかかっただけだよ」
「そうか、」
「わざわざ聞きに来てくれたんだ、俺様大感激〜♪」
「別にそんなんじゃねえ・・・」
「そ? まぁいいや、」
じゃあ俺様帰るからね〜、
そう言ってへらりと笑う佐助に、小十郎も小さく笑みを返した。
良かった・・・。
佐助との修羅場は難なく避ける事が出来たようだ。

佐助と付き合う事になった時、

言い訳をしないとならないような、そんなシチュエーションは絶対作らねえ・・・と。
そう深く決意した小十郎だったが、初めてこんな、心臓が萎縮した気がする。
佐助が先程のあれを見てないのか、見なかったふりをしてくれているのかは、わからない。
だが何はともあれ、目の前に居るのはいつも通りの佐助だ。
「じゃあ、またな」
何よりも綺麗だと思うその茜色の髪をわしゃわしゃと撫でると、くすぐったそうに佐助が上目遣いで此方を見つめる。
そんな仕草がたまらなく可愛くて、思わず小十郎はその顎をすくい上げていた。
そのまま、佐助の唇に吸い寄せられるように、小十郎が顔を近付ける。
そして二人の唇が重なろうとしたその時、
「!?」
唇に触れたのは、柔らかい佐助の唇の感触ではなかった。
「人が見てるよ、」
そう言いながら苦笑する佐助の指に、小十郎の顔は阻まれた。
あっさりと小十郎から距離をとると、颯爽と佐助は自転車に跨った。
ひらひらと手を振りながら、自転車を漕いでいくその飄々とした姿を、小十郎はその背が見えなくなるまで見送った。
だから当然、佐助が小十郎に背を向けた途端、くしゃりとその顔を歪めた事など・・・この時の小十郎には知る由もなかったのだ。



   * * *



「佐助!?」

突然の訪問者を目ざとく見つけたのは、幸村だった。
「へへっ、ただいま旦那・・・今日、いい?」
へらへらと笑みを浮かべながら、佐助はその門をくぐった。

武田道場。

大きな木板にそう書かれている此処は、幸村の家であり、また佐助が実家・・・と呼べる唯一の場所だった。
「いいも何も、此処はお前の家だといつも言っているだろう! だいたい俺は、佐助の一人暮らしには元より大反対だったのだぞ!」
怒りながらも嬉しそうに駆け寄ってくる幼馴染みに、佐助もふっと肩の荷を下ろした。
「佐助、久々に稽古するか!?」
「え〜・・・勘弁してよぉ、俺様疲れちゃってんだけど〜」
「何を言うかっ、二番弟子のお前がそんなでは、お館様が泣くぞっ!!」
「ぃや、俺様いつから弟子って・・・」
「問答無用っ、来い佐助っっ!!」
「あ〜・・・はいはい、わかりましたよ、っと」
幸村が漲ってしまったら、もう佐助には為す術がない。
「・・・着替えて来るから待っててよ」
諦めたように苦笑しながら、佐助は屋敷の中へと急いで向かう事となったのだった。
(やっぱ・・・正解だった、かな・・・)
久しぶりの胴着に袖を通しながら、佐助は大きく息を吐き出す。
何となく。
アパートに帰れば、ひとりで悶々としてしまいそうな気が、したのだ。
でも幸村と居ると、余計な事を考える暇もなく過ごせるから、だから帰って来たのだ。


だが、そんな気を紛らわす時間も、そう長くは続かなかったのだ。


佐助の携帯が着信を知らせたのは、もう日付が変わろうとしていた時分だった。
「はいは〜い、」
どんなに夜が遅かろうとも、着信の相手が恋人なら、嬉しい。
すぐさま佐助は携帯にとびついた。
「・・・もしもし?」
だが。
『・・・・・・。』
聞こえてきたのは無言の返答と、何やらざわついている周囲のノイズ、だった。
「小十郎さん?」
『・・・・・・。』
「どしたの? なんか・・・あった・・・?」
こんな時間なのに、外にでもいるのだろうか。
そう感じた時、受話器の向こうで荒く息を吐く音が、聞こえた。
『・・・あ・・・・・・佐、助・・・?』
「!!」
なんか。
声が、遠い。

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