現代小十佐

□恋のつぼみ。
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※ 年齢等、学バサ公式設定を引用してます(ストーリーは妄想による捏造です)。



「よう」
「あ・・・。」

大好きな人に出くわす。
それは、恋する男にとってはいつだって最大級のハプニングであって。
猿飛佐助にとってもまた、例外ではなかった。



≪恋のつぼみ≫





自分のクラスとは程遠い渡り廊下で、朝っぱらからの突然の洗礼に佐助は愕然と動きを止めた。
片倉小十郎。
佐助の所属するサッカー部とは、いつもグランド争奪戦を繰り広げている・・・所謂ライバル、彼は野球部に所属している。
だから、偶然じゃなくとも合い間見える事はしょっちゅうだし、クラスも近い彼とならば比較的遭遇率は高いのだ。
が。
・・・どうして、それが今なのだろう・・・。
そんな大事な時に限っていつも最悪・・・格好も、髪も。
(なんで・・・)
酷い格好だな、と。
くすくすと笑うその仕草に、佐助はかぁっと顔を赤らめた。


恋愛に生きる。

なんて。

そんな気恥ずかしい事は思いたくない、ただ気味悪がられるだけの感情だ。
でも。
誰に言わなくても、せめて自分の中でだけ。
この気持ちを大切にしようって密かに決めたのだ。
なのに、いつもこの人と関わる時は、何故か空振りで・・・上手くいかない。
(それが人生なのかねぇ・・・)

朝練を終えたばかりの佐助の見てくれは、まるでぼろ雑巾と同等、もしくはそれ以上だった。
三年生だというのに、何故か引退という言葉もなく、日々ゴールキーパーのポジションを守っている。
ただでさえ寒いのは嫌いなのに、この季節の朝練は、朝露に濡れたグランドを散々転がってきた泥だらけのボールをキャッチしなければならないし。
加えて今日は、何故かいつも以上に漲っていた真田の旦那のシュートを何発も顔面にくらった。
「泥だらけじゃねえか」
黙って立ち尽くしたまま、言葉も発しない佐助を気にする事もなく、小十郎はまた笑った。
無造作に頬に伸ばされた手に、佐助は小さく身体を強張らせた。
ゆっくりと顔の泥を拭ってくれる、骨ばったその大きな手に撫でられると、らしくもなく鼓動が加速する。
優しくされると・・・つらい。
そんな事されたら。
自分には関係ないのに、世間の波を否応無しに意識してしまう自分が出てきてしまって、切なくなる。
最大のイベント、バレンタインデー。
今月に入ってから学園中が・・・特に女子生徒達が、浮き足だっている。

もし自分が女だったなら。

どうにもならないと諦めてしまったこの想いを、口に出来たのかな。
諦めなくて良かったのかな。
いつか自分を見てくれると信じられたのかな。
「痛っ・・・」
不意に感じたぴりっとした痛みに、佐助は僅かに顔をしかめた。
「っと・・・悪い」
そんな佐助の頬から慌てて手を離した小十郎が、その場所を見て、深く眉を顰めた。
「何・・・?」
「擦りむいてる」
「あ〜・・・やっぱり」
擦り傷なんか、日常茶飯事。
女じゃないんだし、顔に傷ひとつ増えたところで、今更驚きもしなきゃ、動揺もしない。
けれど。
「ちゃんと消毒しとけよ」
「え・・・?」
「放っておくと化膿するぜ」
心配そうに見つめる瞳、再び頬に伸ばされる、大きな手。
「うん・・・」
俺様の事なんか放っておけよ、とか。
俺様に構うなよ、とか。
なんで優しくするんだよ、
とか。
いっそ言ってしまいたいのに、それが言えない。
後でつらくなるのは自分だってわかっているのに。
この人の熱は温かくて、離れられない。囚われてしまう。
あんたの優しさは、自分には・・・残酷過ぎる。

めちゃくちゃ好きなんだって。
月曜日も火曜日も・・・曜日なんて関係ない、それこそ四六時中。
この想いだけは、誰にも負けないのに。
けれど。
「佐助?」
そんな心の叫びは伝えられない。
隣のクラスの大好きな人。
目が合うだけで・・・ドキドキに勝てないんだ。


男同士だし、振り向いてもらえるわけもない。
そんな事はわかっていたけれど。
気付いたら、芽生えてしまった恋だった。
「もう・・・いいって」
頬を撫でてくれる小十郎の手に、自分のそれを重ねるのはほんの一瞬。
「ありがとう」
ゆっくりとその暖かい熱を手放し、佐助はにっこりと微笑んだ。
佐助の言葉に重なるように、聞きなれたチャイムの音が始業時刻を知らせる。
共に歩き出した教室までの距離が、凄く長く感じた。
「じゃあまた・・・」
「ああ」
小十郎が教室に入っていく。
その姿をぼんやりと見送ってから、佐助も隣りの教室のドアを開けた。
(あぁ・・・やられた・・・)
あの人は。
あんなナリして、凄く・・・優しいんだよ。
小十郎の笑う顔が好きだ。
あの強面から発せられる表情が、大好きだ。

『ちゃんと消毒しとけよ』

心配、してくれた。
まあそれくらいなら、誰にでも言うんだろうけどさ。
あんたの、その不器用で、なかなか気付かれないような、そんな優しさは、自分にとっては太陽のようで。
そんな、相変わらずの小十郎の日だまりに。
今日はまだ始まったばかりだというのに、佐助の心は完全にKOされてしまったのだった。
本当に厄介だよ、恋って恐ろし過ぎる。
あんたの行動、表情のひとつひとつが嬉しすぎて、何も手に付かなくなる・・・なんて。
あんたは知らないだろ?



   * * *



「好きなん、だ・・・」
「え・・・・・・?」
「ずっとずっと、好きだった」

言ってしまった・・・。

心臓はばくばくで、鼓動は早くて。
もう、何が何だかわからなかったけど。
兎にも角にも、佐助はたった今、小十郎に告白をしてしまったのだ。

最初に来たのは達成感、そして脱力感。
そして。
次に自分を襲ってきたのは。
じわじわと、真綿のように締め付けてくる心の痛みと後悔、だった。
目の前には、驚いたように自分を呆然と見つめる、強面の顔。
そんな小十郎の姿に、佐助は絶望的に俯いた。

今なら、間に合う。
「冗談だってば〜、ごめんごめん驚いた?」
と、たった一言、そう言えばいいのだ。
なのに。
「気持ち悪い、よな」
口をついたのは、そんな一言だった。
今なら関係を崩すことなく修復出来た、筈なのに。
冗談になんて出来なかった、のだ。
自分の心に、どうしても嘘は付けなかったのだ。
「・・・ごめん、忘れて」
無言のままの小十郎が、そんな彼の瞳に晒されている自分が。
つらくて、居た堪れなくて・・・。
呟いたと同時に佐助は踵を返した。
とりあえず、この場を立ち去りたかった。
が、それは叶わなかった。
ぐいと背後から掴まれた腕に、佐助は軽く背をのけぞらせた。
促されるままに再び小十郎の顔を見つめれば、先程と変わらない動揺したような、その表情。
「っ・・・。」
泣きそうに、なる。
想いは届かなかった。
この場を立ち去る事も叶わない、この絶望的な状況に、佐助の涙腺が僅かにゆるんだ時だった。
「本心か?」
俯いた佐助の頭上から、静かに小十郎の問いかけが、聞こえた。
(え・・・)
思わず顔をあげて小十郎を見つめる。
「その、なんだ・・・からかってるわけじゃ、ねえんだな」
歯切れ悪く、小十郎が言葉を紡ぐ。
茶化すでもなく、気味悪がられるわけでもなく。
佐助の言葉を、その想いを真摯に受け止めてくれたのだ。
「俺と・・・付き合いたいのか」
それを理解したうえで、小十郎がそれを自分に問いかけるなら。

やっぱり、誤魔化したくない。

付き合いたいよ、あんたに好きになってもらいたい。
そんなの決まってんじゃん。
「望んでいいのなら。」
「いいぜ?」
「っ・・・・・・」
即答され、思わず佐助が絶句する。

片倉小十郎という人が好きだ。

目で追い始めるときりがないってわかっていたのに。
気付いたら、こんなにもこの人に。
はまってしまって、いた・・・。
迷って悩んで。
一度は心に封印した想いを、やっとの思いで告げたのだ。
なのに。
こんな、・・・。
「ちょっとそこまで買い物に付き合ってくれない?」
「いいぜ、付き合ってやる」
みたいな軽さ、
それ程までに、あっさりとした言葉。
そんな返事を貰ってしまったら。
ただ、頭が混乱するだけだ。
「馬鹿じゃないの・・・自分が何言ってんのかわかってんのかよ・・・」
あまりにも早過ぎる返答、あまりにも早過ぎる展開に。
ただでさえ心中穏やかじゃなかった佐助の心に、今度は猜疑心がじわじわと芽生え始めていく。
「俺様の好きは・・・・・・っ」
言いかけて、身体がバランスを崩す。
一度は解放された腕を、再び小十郎が掴み、自分の方へ佐助を引き寄せた所為だった。
「ぇ・・・っ」
傾いた身体は、小十郎の腕に抱き締められる。
腰に腕を回されて。
驚く間もなかった。
次の瞬間、感じたのは・・・熱い熱い、人の熱、だった。
キス・・・されたのだ、小十郎に。
「こういう事だろう」
触れて、離れて。
唇に触れたのは、ほんの一瞬。
「・・・・・・っ」
少しだけ目許を染めて、自分を見下ろす小十郎に、つられるように佐助も顔を赤らめた。
顔が、火照る。
唇が・・・熱い。
だが、自分を抱き締めてくれている小十郎の腕は本物で。
おそるおそるその背に腕を回した時、小十郎の腕に力が篭った気がした。

そして。

「俺も、てめえの事が・・・・・・
「さぁ〜すぅ〜けえぇ〜っっ!!」

・・・・・・・・・。

見知った声に、邪魔された。



何、だよ・・・。

肝心な部分、聞きそびれちゃったじゃん。
真田の旦那ぁ・・・、俺様今いい所なんだよ。
頼むよ旦那、お願いだ。
少しでいいから察してくれ。
そう願いつつも、慌てて佐助は小十郎から身体を離した。
顔を赤らめたまま、複雑そうな笑顔を浮かべたまま、小十郎の顔を見上げて、
小十郎の顔を、見上げ、て・・・

今まで自分を抱き締めてくれていたその人は、見上げた筈の顔は。


「旦、那・・・。」
真田幸村、だった。
「朝だぞ佐助、さっさと起きるのだ!」
馬乗りになって、起こしに来た幸村に。
佐助はひらひらと手を振って、肯定を示す。

「今日も朝練で御座るぅぁあっ!!」

そして佐助の覚醒を確認すると、バタンとドアが閉まり、豪快な足音を立てて幸村が階段を駆け下りていく。

そう、
これが、現実。

(夢、か・・・)
ようやく頭がクリアになってきた。
信じられない、とは不思議と思わなかった。
あんな、自分に都合のいい事・・・現実に起こるわけがないのだから。
何故か、どこか納得したように、佐助はため息をついた。

また今日という一日の始まりを迎える。

それにしても。

「幸せな夢、だったなぁ・・・」
どうせ夢なら最後まで見たかった。
あの人の言葉、ちゃんと聞きたかったよ。

「・・・さ〜て。朝練、朝練っと。」

ったく、いいところで邪魔してくれたぜ旦那。
とは思いつつ。
佐助は心底自分に呆れていた。
あんな・・・自分に都合いい夢を見てしまうほど、気持ちのキャパ超えてたんだと否応なしに痛感させられたからだった。
と同時に、あるひとつの決意が心に芽生えたのを、佐助は感じていた。

やっぱり、あの人が好きだ。
好きで好きで好きで・・・本当に、大好きで。

めちゃくちゃ好きなんだよ、
誰にも渡したくない。



バレンタインデーまであと一週間。


この決戦の日に、この際だから・・・自分も混ざって、みようか。

どうせ、もうすぐ卒業だし。
何もしなくても別れるのだから。
だったら最後に玉砕覚悟で気持ちを伝えよう、そう決めた佐助の恋の矢は。

今、小十郎に解き放つ覚悟を持ち、光り輝いた。





余談になるが。
この佐助の想いが、幸村に邪魔されたあの幸せな夢が。

正夢になる事は・・・今はまだ、誰も、知らない。



― End ―


バレンタイン企画、
【倖/田/來/未・恋のつぼみ】
で、歌詞を引用しながら書かせて頂きました。

★小十郎にあたふたさせられる佐助、

のリクエストコメントに全く添えてないのが心苦しいのですが、わたしがイメージするとこうなっちゃいましたww
コメントを下さった方、どうも有難う御座いました♪


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