現代小十佐

□X'masは貴方と。
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クリスマスって何なんだろうね。
そりゃ俺様だって。
人並みにツリーや町の装飾やらイルミネーション見て、綺麗だなぁとは思うよ。
でも所詮は異教徒なんだよ、異教徒。
キリスト教の信者だけが祝ってればいいのに。

なんで日本にクリスマスなんて根付いたんだろう。
つか、誰だよ日本にクリスマスなんて持ち込んだ奴は。

・・・そうつい悲観的にクリスマスを見てしまうのは、単なる俺様の嫉妬なわけで。
そう、俺様はクリスマスなんて大嫌いだ。
数あるクリスマスソングの中で唯一共感出来たのも、切ない悲恋歌のワンフレーズ『Merry Christmas for me・・・♪』だったしさ。
去年もひとり、
今年もひとりのクリスマス。
Merry Christmas for俺様。
来年も期待しないで迎えるんだ、これは予感じゃなくて確信。
もう、わかってる事、なんだ・・・。



≪X'masは貴方と≫




今年のクリスマスの予定は、12月22日に確定した。


『佐助、クリスマスの事なんだが・・・』
ほらきた、
受話器越しに伝わる低音は、猿飛佐助の大好きな声。
恋人の、片倉小十郎。
けれど、彼がこれから口にしようとしている言葉は、きっと佐助が大嫌いなフレーズ。
聞きたくない、
「あ、いいよいいよ、わかってる」
だから、言われる前に遮った。

次に彼が言う言葉はわかっている。

「どうせ今年も仕事でしょ」
毎年毎年同じような会話、聞き飽きた台詞。
どんなに言葉や表現を変えようとも、結局、事の顛末は変わらない。
『・・・あのな佐助、
「つか、世間はクリスマスの意味わかってんのかね」
小十郎の言葉を遮り、口早に佐助は言葉を紡いだ。
「自分らキリストの誕生日祝う気なんてないくせにさ〜・・・なんか俺様引いちゃう〜」
嘘だよ、むしろめっさ食い付いてるっての。
「馬鹿みたいにみんな浮かれちゃってさ、おめでたいったらないよ全く」
そのおめでたい奴等が、本当は羨ましくて仕方ないんだよ畜生。
「つか、そもそもキリストの誕生日祝う前に、23日の天皇誕生日祝えってんだよ、みんな日本人失格なんじゃな〜い?」
『・・・・・・。』
「つか偉い人ってば・・・揃いも揃って忙しい時に生まれてくれちゃってるよねぇ。12月末なんて、年度末決算、仕事納めの超繁忙期、社会人にとっちゃ嫌な時期だよね〜師走師走ぅ」
小十郎に喋らせる隙を与えないよう、佐助は言葉を走らせ続ける。

仕事を優先せざるを得ない、人望の厚いあんたが格好良いんだよ、とか。
物分かりのいい彼氏を演じたい、とか。
そんなのは、見栄っ張りで、建て前で。

ただ、彼の口から謝罪の言葉を聞きたくなかっただけ。

遅くなると思うけど逢いたい。

密かにそんな言葉を紡いでくれるのを、願っていただけ。

だが、それが叶う筈もない事も重々承知しているから。
だからせめて謝らないで欲しい。
「ごめん」の一言は絶大で、わかっていても気力が堕ちる。
謝られたら、そこで全て終了。
欠片ほどの望みすら、そこで消えてしまうから。
だから、佐助は小十郎に口を割らせないよう、必死で言葉を紡いでいたのだ。
「それに俺様もバイト入れちゃったからさ、気にしないでよ」
自分も予定を入れてしまったから、だからあんたも気にしないでいいよ。
そんな逃げ道を作ってしまったのも、この人が毎年毎年、本当に申し訳なさそうに謝るから。


だから、嘘を付いたんだ。


本当はバイトなんて、入れてなかったのに。
『・・・・・・・・・そうか』
そして少しの沈黙の後、小十郎がそう応えてよこした。

その後の事はよく覚えていない。
キリストの誕生日なんかよりさ、俺様の誕生日はちゃんと祝ってよね。
とか何とか言ったような気はする。
ともかく、ここで二人の会話は途切れた。
早々に通話を切り上げ、携帯の終話ボタンを押すと、佐助は大きく息を吐き出した。
自分の気持ちとは正反対の、終始嘘を付き続けた小十郎との会話に、何故か疲れがどっと押し寄せていた。

胸が、痛いや・・・。

佐助は胸をぎゅっと抑えたまま、再び携帯のディスプレイに視線を移した。
そして。
「あ、かすが?」
ひとつの嘘を現実にするべく、同郷のバイト仲間へと電話をかける。
「・・・うん、やっぱ俺様暇になっちゃった。うん、そう・・・」
かすがは元々24日、通常シフトを組まれていた。
なので、散々佐助に羨みと嫉妬の眼差しを浴びせ、おまけにずるいと文句まで言われた。
「だから、バイト代わってやるよ」
そんなかすがに、もしかしたらバイト代われるかもよ、と打診しようとも思ったけれど。
過剰な期待をかけるのも本意ではなかったので、この前は言わなかった。
だけどもう確実に代わってやれる。
「え? そんなんいいって。うん、楽しんで来なよ、謙信サマとやらとさ、」
通話越しのかすがの表情が、手に取るようにわかった。
あの高飛車なオネェサマが、何度も何度も礼を言う。
そんな心からの感謝の言葉に、少しだけ気分が晴れた気がした。佐助は通話の終わった携帯をベッドに放り投げた。
これで本当に何もかもが、The end。
俺様のクリスマスは今年も始まる前に終わった。
毎年毎年、クリスマスにバイトを代わってやれる優等生・・・なんて。
俺様偉くね?


・・・俺様って。


いつから、我侭を言う事、期待する事を諦めたんだっけ・・・?



   * * *



「これ返す」

そう言って佐助の前に突き出されたのは、二枚のチケットだった。
「・・・・・・は・・・?」
思わず受け取ったそれに目を通し、佐助は呆然と目の前の伊達政宗と、そしてその隣に寄り添う真田幸村を見つめた。
某テーマパークの入場券。
確かにこれは、佐助が以前から行ってみたいと小十郎に零していた場所の物ではあったのだ。
が。
「・・・人違いじゃない?」
自分がこれを政宗に渡した記憶がない。
そもそも自分が行きたいと思っている所のペアチケットなら、当然自分が行く。
政宗なんかに渡すわけがないのだ。
「小十郎が、必要なくなったとか何とか言って、寄越しやがったんだよ」
「?・・・・・・そう」
ああなんだ。
あの人の物だったのか。
ならば、自分で小十郎に返却すればいいのに。
そんな事を思いながらも、受け取ったチケットを政宗に戻す事を拒否られてしまい、佐助は大きくため息をついた。
「喧嘩だか何だか知らねぇけど、さっさとXmasまでに仲直りして、楽しんで来いよ」
せっかくのpartyだ、台無しにすんなよ。
そう語りかける政宗の言葉を、どこか頭の奥で呆然と処理する。
「別に、喧嘩なんて・・・」
「Ha、嘘つくなよ」
喧嘩でもしてなきゃ、Xmasに出掛けるつもりだった場所のチケットなんて譲り渡さねぇだろ。

そう付け足した政宗の言葉に、佐助の時間が停止した。

え・・・。

「今、なんて・・・」
「嘘つくなよって」
「違う、その後・・・」
「Ah? Xmasにてめぇと出掛けるつもりだった場所の・・・
「嘘、・・・・・・。」
自分から聞き返しておいて、今度は突然言葉を遮る佐助に、殴りつけてやりたい衝動に駆られつつ。
それでも呆然と焦点の合わない瞳を浮かべるその姿に、政宗は思わず息を呑んだ。

「だって、仕事だって・・・今年も、無理、だって・・・」

膝の力が抜けたのがわかった。


「何だ聞いてなかったのか? あいつ、休み取ってたんだよ、Xmas」


「そんな・・・・・・だって・・・」

かくんと地に膝を落とした佐助を、慌てて幸村が支える。
その幸村の肩に体重を預けるように、佐助は額を押し当てた。

だって俺様、バイト入れちゃった、じゃん・・・。

うわ言のようにそう呟く佐助に、幸村は悲しそうに眉を顰める。
「佐助、今からでもバイトを休めないのか・・・?」
今までずっとふたりのやりとりを黙って聞いていた幸村が、ようやく口を開いた。
「無理に決まってんじゃん・・・俺様のバイト先、知ってんだろ・・・」
「Oh,Jesus・・・」
佐助の言葉に政宗が頭を抱える。
そうなのだ。
佐助がバイトをしている店は、まさに今が売り上げ上昇傾向にあったのだ。
いや、年に一度の繁忙期だと言っていいのだろう。
・・・ケーキ屋なのだから。
クリスマスに焦点を当てて、従業員を増やしこそすれ、減らすことなど到底出来るわけがない。
「・・・と、いうわけなんで、さ」
ゆっくりと立ち上がった佐助の顔は、既に先程の打ちひしがれたような表情はなく。
特有の薄っぺらい笑顔を浮かべる、いつもの可愛げのない佐助だった。
「やっぱり俺様達には必要ないチケットなんだ、」
だから、旦那達でデートして来なよ。
そう言って幸村にチケットを握らせた佐助の笑顔は、はたから見ても、とても痛々しかった。



   * * *



バイトを代わってやって良かった。

そう心から思えたのは、思いの外この時間が楽しかったから・・・かも、しれない。
大学で講義を終えた後、佐助は馴染みのケーキ屋で白衣に身を包んでいた。
ホールケーキからカットケーキまで。
需要は各家庭それぞれで。
母親が買いに来たり、子供と一緒に買いに来たり。
前日予約のお客様には特典を付けて。
とっても微笑ましい光景。
子供の笑顔は、嬉しい。
自分も少しだけ幸せを分けて貰った気がして、心がほっこりとなるし、そして・・・とにかく忙しかった。
それこそ余計な事を考える隙もない程に。
だが。
夕方5時を過ぎた頃から、少しだけ心の隙間にじわじわと忍びこんでくる鈍痛に、佐助は気付いていた。
気付いていたけど、敢えて気付かないふりをした。
仕事を終えたお父さん達が、ケーキを買いに来る。
若いサラリーマンや、スーツに身を包んだお姉さんが、カットケーキをふたつ購入・・・とかしていけば、「あぁ、彼氏と食うのか」とか余計な雑念が入り込んでくる。
羨ましいな・・・。
なんて。
そんな感情を持つなと言われても無理だった。

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