現代小十佐

□その恋に気付いて
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この、髪と瞳の色が嫌いだった。
幼少期には不気味がられ、中学生になれば、いつでも指導の対象となった。
それは高校生となった今でも変わらない。
そんな自分のダークポイントを「綺麗な色だな」と、そう言ってくれた人間が居た。
初めて彼、と会った時。
猿飛佐助の中でそれは訪れた。



《その恋に気付いて》



うちの学校の用務員、片倉小十郎。
教育施設に席をおくにはおよそ程遠いその外見は、無愛想な表情が更に怖さを引き立てていた。
よくヤクザと間違われるだの、すれちがっただけで子供が泣くだの、彼についての信憑性のあり過ぎる噂は、常に耐えない。

どこの世界にも異端視される人間は居るわけで。

自分と重なる部分を、小十郎に見つけてしまったからなのかも知れない。
誰もが一目おいたその用務員に、佐助は不思議と興味を持った。
話し掛ければ無愛想で、表情も固いけど。
それはただ不器用なだけだと、案外早く気づいた。
顔に似合わず園芸が大好きで、学校の庭園の世話は勿論、いつの間にか、敷地の一端に趣味の農園を作ってしまった。
そこは、佐助がいつも昼寝をするのに格好の木の近くだった。
そのうち、佐助は木の根に寝転がりながら、小十郎は野菜の苗に水をあげながら、語らうのがいつの間にか日常になっていた。
だが、そんなささやかな時間は長くは続かなかった。

壊したのは他でも無い、自分。

なんで、小十郎にあんな事をしてしまったのか、わからないんだ・・・。
いつものように昼寝をしようと、佐助はいつもの木の根元へとやってきた。
その日は、今までに一度もなかった事が起こっていた。
なんと、その佐助のお気に入りの場所に、先客が居たのだ。
「片倉さん・・・?」
一生見る事のないだろうと思っていた、強面な男の寝顔がそこにはあった。

触れたくて触れたくて。

一緒に軽口を叩きながら笑って居られる至福の時間。
そんな日常に満足出来なくなっていったのは、一体いつからだっただろうか。
大好きで、たまらなく大好きで。
知れば知るほど、この男の事がどんどん好きになっていた。
それでももっと知りたい。
枯れることのない欲求が、佐助の心の奥底から溢れ出てきた。
その穏やかな表情と、安らかな寝息に誘われるように、佐助は気がついたら小十郎にキスしていたのだった。



あの日。
佐助が唇を重ねた途端、小十郎は目を覚ました。
慌ててその場を走り去ったものの、気付かれたか、気付かれなかったかなんて、わからない。
でも、とにかく到底顔なんて合わせられなくて。
考えても考えても解決案は出てこない。
悶々としているうちに、あの昼寝場所には行けなくなっていた。

結局。

考えても悩んでも答えなんか出やしない、これが結論。

やっちゃったもんは仕方ないんだし、諦めるしかないじゃん。
そう開き直った、開き直るしかなかった。
でも・・・その割には、いつもの木の所に行く勇気はやはり出なくて。
幸い相手は教師じゃない、ただの用務員。
顔を合わせずに過ごす事は簡単な事だったから。

佐助の昼の寝床は、体育倉庫裏の木の下に変わった。



   * * *



「!!」

身の危険を感じ、がばっと佐助は身を起こした。
「え、何これ・・・水・・・?」
授業をさぼっているの見つかって、俺様水かけられた・・・?
そう思いながら、顔を上げた佐助はその場に固まった。
「すまねえ!!」
そう言いながら、草木に水をやっていたホースを置き、慌ててこちらへ走ってくるのは教師じゃない。
今一番避けるべき用務員、片倉小十郎だった。
「なんだてめえか」
なんだって何だよ、俺様なら水かけてもいいのかよ。
心の片隅にそんな事を思いながらも、佐助は自分の身体が強張っていくのを感じていた。



「すまなかったな」
「いいよ、あんなトコでさぼってた俺様も悪いんだし」
授業をさぼっていた為、教室にジャージを取りに戻れない。
そんな佐助の言い分を苦笑しながら聞くと、小十郎は用務員室に佐助を連れてきた。
俺のだから大きいが、と小十郎が差し出す洋服を、佐助は素直に受け取った。
袖を通し、長さの余る腕をまくると、ほんのりとフレグランスが香った。
その小十郎の香りに、先日のキスの記憶が思い出させる。
「ありがと、後で返すから・・・」
「予備だ、いつでも構わねえ」
「ごめんね」
「悪いのは俺だろうが」
「でもあそこに居たのは俺様だし・・・ってさっきと同じ会話」
可笑しそうに佐助が笑うと、小十郎も「そうだったな」と柔らかい笑みを浮かべた。
「ああ、それから・・・」
「え?」
小十郎の言葉に、佐助が顔を上に傾けた。
その瞬間、抗う間もなく顎を掬われ、佐助の唇に柔らかいものが触れた。

え。何、これ・・・。

それ、はニ、三度、佐助の唇を甘噛みすると、ゆっくり離れていった。
「・・・・・・え・・・?」
キス、されたのだ・・・小十郎に。
いきなりの挙動に、心が順応出来ない。
ぽかんと呆ける佐助に「これはどういう意味だ・・・?」と小十郎が聞いた。
どういう意味、どういう意味って、こっちが聞きたいよ・・・。
何、
何なんだよ、一体。

「・・・てめえが先にやったんだろうが」

「!!」
この前の事、なのだと瞬時に頭が回った。

起きてたんだ、起きたんだ、気付かれてたんだ・・・!

認識した途端、佐助の心臓が心拍数をあげる。
どうしよう、どうしよう、どうしたら・・・。
「ごめんっ、何でもないから・・・忘れて」
「駄目だ、答えになってねえ」
回らない頭でやっと発した言葉は、あっさりと小十郎に却下される。
ますます頭が混乱していく。
どうしよう、本当にどうしよう・・・。
自分をじっと見下ろしてくる小十郎の視線に、いたたまれなくなり、思わず佐助はその場を離れようと身を翻した。
が。
しっかりと掴まれた腕は離してくれない。

「好きなんだよ・・・」

「え・・・・・・?」
「あんたが好きなんだよっ、もう離せよ!」
小十郎の瞳が驚きに見開かれた。
その一瞬を逃さず、佐助は掴まれた腕を振り切った。
その後はもう一目散に用務員室を後にした。
後ろを振り返るのすら怖かった・・・。

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