戦国政佐

□七夕浪漫憚
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「果たし状のお届けに上がりましたよ〜っと」

そして今宵もそれ、は窓から訪れる。

「よぅ、」
別段 驚く事もなく、伊達政宗は、読んでいた書物を静かに小机に置いた。



≪七夕浪漫憚≫




待っていたわけではない。
だって、いつ来るかなんてわからないから。
それが政宗の想い人の在るべき姿だ。

本当は、毎日だって会いたい。
次の約束を取り付け、その日を心躍らせ待っていたい。

けれどそれが叶わないのが、真田の忍び、猿飛佐助という男なのだ。
主の命令なしでは動けない、それが雇われ忍びの常。
「よぅ、久しぶりだな織姫」
だから、なのかもしれない。
奇しくも今宵は七夕、
逢いたくても会えない恋人を、つい かのヒロインに当てはめてしまった。
「はぁ?」
案の定、佐助の反応は予想通りだ。
「七夕の今日、折りしも日ノ本は夏の長雨の真っ只中・・・痺れを切らした織姫は、天の川を飛び越えて逢いに来ると思ってたぜ、honey」
びしょ濡れのまま、窓枠から離れようとしない佐助の目の前まで身体を進めると、ちゅ、と政宗は軽く口付けた。
「ふざけんな、仕事だよ仕事」
ほら書簡、
と、まるで押し付けるようにして、ぐいと政宗の胸に、佐助は主から預かった書簡を突き付ける。
その顔に表情は、ない。
「・・・・・・Thanks」
相変わらず読めねぇ忍びだぜ、
そう思えども、佐助は優秀な忍びだ。
いつもへらへらとして、人をくうような態度をすれども、公私混同はしない。
だから、政宗がこの書簡に目を通すまでは、佐助の仕事モードは切れない。
(見掛けによらず、堅ぇんだよな・・・)
その生真面目さと完璧な仕事ぶりは、受け取った書簡にも顕著に表れていた。

・・・外はこんなに大雨なのに、
目の前の忍びはびしょ濡れなのに。

それでも書簡の文字には水滴はおろか、一片の滲みすらなかったのだ。
「じゃあ帰るから」
「What!?」
流石だな、そう労ってやろうと思ったそんな矢先、政宗は佐助の言葉に一瞬にして、度肝を抜かれた。
「また来年の七夕にな、彦星様」
ともすれば、そのまま窓から飛び出してしまいそうな、そんな恋人を、慌てて政宗はつなぎ止める。
「馬ぁ鹿、誰が帰すかよ」
しっかりと佐助の腕を掴み、離さない。
「・・・来年って何だよ」
離せよ、と。
想像していた佐助からの、不満の声は上がらなかった。
そもそも佐助ほどの忍びなら、その気があるならこんなに簡単に政宗に捕まれるような事は、まずない。
つまり、逆を返せば簡単に捕まえられた・・・という事は、佐助のその本心も帰る気はなかった・・・という事だ。
「彦星と織姫は年に一度しか会えないんだろ、俺様が織姫ならばそういう解釈」
相変わらず素直じゃない、
佐助の言葉はいつも、その態度とは裏腹だ。
「Ha、可愛くねぇ」
「どうとでも」
でも政宗は、そんな佐助に心から惹かれていた。
腕を掴まれたまま立ち尽くす佐助を、政宗は自分の胸に引き寄せた。
「ちょっ・・・ゃめろよっ、」
そこで初めて、佐助の言葉と態度が一致する。
抵抗を見せ、その腕から逃れようとする佐助を、政宗は強く抱き締めた。
「離せって言ってんだろっ・・・」
雨の、匂いがする。
いつも顔をくすぐる佐助の茜色の髪が、今宵は自分の肩に張り付いていた。
それでも、冷えた身体から伝わる佐助の体温を感じ、政宗は思い切り息を吸い込んだ。
雨の匂いに混じり、政宗の大好きな佐助の香りが心地よい。
「・・・濡れるって」
「どうせすぐ脱ぐ」
今更言っても遅いけど・・・と遠慮がちに言った佐助に、政宗はにやりと笑ってそう受け答えた。
「っ・・・・・・!」
政宗の、その言葉の意図を理解した佐助の顔が、真っ赤に染まる。
ようやく、佐助の仕事モードはオフになったようだった。
「・・・俺が彦星なら、次に会えるのが一年後なのわかってて、簡単に帰したりしねぇけどな」
次はいつ会えるのか。
この戦国乱世、生きて会えるかもわからないのに。
「・・・出たよ、神に逆らう暴言が」
政宗の胸の中で、くすくすと佐助は笑う。
この場合の『神』、は差し詰め真田幸村か。
「こんな緊急でもない書簡持たせて、真田幸村も人が悪ぃな」
「違っ、旦那は・・・」
「俺ならこんな悪天候の日に、遣いなんて出さねぇけどな」

違う、んだ・・・。

政宗の言葉に、佐助は顔を曇らせた。
幸村は、佐助に書簡を預けた時、
「届けるのはいつでも良い、」
そう言ったのだ。
そういう時の幸村の文は、大抵 佐助の為の口実なのだった。
普段は「破廉恥」だの何だの騒いではいるけれど、
(旦那は・・・)
佐助と政宗の恋路を、応援してくれる。
こうして、幸村が文を書く事で、佐助が政宗に会いに行く口実を作ってくれていたのだ。
「旦那は・・・そんなんじゃない、」

直ぐにでも、一刻も早く逢いたいから。

だから。
自分の意思で、この悪天候の中、此処に来る事を選んだ。

だから、真田の旦那は酷い奴なんかじゃない。
それを伝えたいのに。
そうすれば、佐助が政宗に会いたくてたまらなかったこの気持ちを、暴露する事になってしまう。
そんな事、政宗には絶対 言いたくない。
けれど、じゃあどうすればいいのか。
それがわからない。
伝えたい事を上手く伝える術がなくて、それが酷くもどかしく、そして何だか悲しかった。



「・・・・・・。」



佐助が黙り込んでしまった。

それを見て、政宗は小さくため息をついた。
(わかってんだよ・・・)
真田幸村の意図なんざ。
幸村はたまに内容の無い、薄っぺらい文章を送りつけてくる。
それは、政宗と佐助の仲が幸村に知られた日から、定期的に始まった事だった。
それだけ分かり易く書簡数も増えれば、流石に政宗とて、当然気付くというものだ。
「・・・・・・、」
今、届いたこの文だって。
最後にこう付け足されていた。
おそらくこの書簡が届く時、佐助は雨に濡れている筈だから、と。
『風邪などひかぬよう、暖を与えてやって下され』
そして、天候の良き日を選んで帰ってくるよう伝えてくれ、
そう書いてあった。

佐助が直ぐにでも、政宗に会いたいと思ってくれたのは明白、
だから少し意地悪をしてみたのだ。
会いたかった、と。
佐助の口から言わせてみたかったけど。
「ほんと・・・頑固な奴」
俯いたままの佐助の顎をくいと持ち上げ、政宗は佐助の額に唇を落とした。
「?」
幸村は悪くないと伝えたいのに、自分が直ぐに会いたかったと、伝えられない佐助。
その不器用さが、たまらなく可愛いのだ。
これも惚れた弱みか、
「こんなに早く届けてくるなんて、流石 真田幸村ご自慢の忍びだな」
仕方ねぇ、折れてやる。
そう思った。
「会いたかったぜ、honey」
「っ・・・・・・」
思わず面を上げた佐助に、今度はその唇に、政宗は唇を重ねる。
「・・・とりあえず」
「え・・・?」
「温めてやらねぇと、な」
身体も、その心の中身もな。
そう耳元で囁く政宗に、佐助は真っ赤になって、また俯いた。
政宗の言葉ひとつで、佐助は動けなくなる。
「んっ・・・、」
政宗の温かい手のひらが、佐助の装束をゆっくりと脱がしていく。
政宗と肌を重ねるのは、予想もしていたし期待もしていた、けど。
「ちょ、待って・・・」
「何だよ、」
ただ会いたい一心で此処まで来た、
けれど、ここにきて佐助に躊躇が生まれた。
こんなみすぼらしく雨泥に濡れてしまった自分を、その姿を政宗に晒す事を、恥じたのだ。
「水浴び、させてよ・・・」
こんな、雨泥にまみれた身体でこの人の傍に居たくない、そう思った。
「そんなの後でいくらでも浴びさせてやる」
「え・・・・・・っ、ちょっ・・・」
「いいから集中しろよ」
噛み付くように、佐助の唇を塞ぎ、政宗は佐助を黙らせる。
深く口付け、舌を絡める。
そうすれば、佐助はすぐに大人しくなる。
佐助の唇を塞ぎながら、政宗は佐助の身体に手を這わせる。
「ゃだ・・・っ、て・・・っ」
首を振り、唇を離して必死で佐助は抗議する。
「・・・何でだよ」
どうしてこんなにも必死なんだか、
不思議に思い、政宗は手を止めた。
「水、浴びさせて・・・、」
「だからそんなの後でいくらでもさせてやる、つったろ」
「嫌だ、今・・・させて」
「だから何でだよ」
「っ・・・・・・、」
「あのなぁ…」
自分から我を通そうとして、押し黙る。
こういう時の佐助は本当に分かり易い。
(こういう時は・・・)
大体、その答えは政宗を喜ばせる結果になる時だ。
(Ah・・・・・・)
なるほどな、
と、不意に政宗はその理由を理解する。
窓枠に押し付けられたままの、可哀想な佐助。
政宗に一糸までもを剥ぎ取られたその裸体は、しっとりと雨に塗れていた。
だがそれだけではない。
「っ・・・あっ・・・」
ペロリ、と政宗はその滑らかな胸に舌を這わせる。
「Ha・・・泥臭ぇ、」
「っ・・・!!」
佐助の胸から舐めとった泥を、政宗は外にぺっと吐き出す。
「・・・だから・・・っ」
「アンタって・・・時々ほんとcuteだよな」
「はっ!?」
「俺に抱かれる為に、綺麗にしたかったんだろ?」
「・・・・・・ばっ・・・」
馬鹿じゃないの、
そう言いたかったのだろうが、佐助にとってはかなりの恥辱だったようだ。
あまりの羞恥に最早、言葉が回っていない。
「・・・・・・。」
この忍びは。
どれだけ政宗を翻弄すれば気が済むのだろう。
どれだけ政宗を夢中にさせれば満足なのか。
兎にも角にも、久々の逢瀬、

佐助の気持ちは、嬉しい。
佐助の心情も、わからなくはない。
けれど。
「待てねぇな・・・」
佐助には悪いが、限界だ。
(こちとら猿不足、なんだよ)
それもどうやらかなり深刻で、もうどうにかなりそうで。
佐助の言い分など聞いてやれる余裕など、ない。
再び、政宗は佐助の胸に喰らいつく。
「ゃっ・・・」
身体全体で佐助にのしかかりながら、政宗は忙しなく佐助の下腹部を弄った。
「んっ、ぅ・・・」
「何だよ、やる気満々じゃねぇかよ」
その気持ちとは裏腹に、欲を露わにする佐助のものをやんわりと握り込めば、佐助の身体はびくんと震える。
「っ、あ、ゃあっ」
明らかに雨粒ではないぬめったそれが、政宗にその感度を明確に伝えてくれた。
「ぅんっ・・・・・・んあぁ・・・」
緩急をつけて佐助の欲を煽りながら、政宗はもう片方の手で、佐助の先走りを拭い取る。
「んんっ・・・・・・!」
そして迷う事なく、佐助の胎内へと指を食ませた。
「あっ、・・・ゃ、あ・・・」
本当に、余裕が、ない。
焦らす事もせず、政宗はひたすら佐助の性感帯を的確に攻め続けた。
「ぅあっ・・・」
早く繋がりたくて、早くひとつになりたくて。
欠片程度に残る理性で佐助の表情を気にしながらも、政宗は指を増やし、強引に佐助の中をかき回し、抉っていく。
「も・・・無、理・・・っ」
そうして佐助の『抗議』の声音が色艶めいた『懇願』に変わる時。
ようやく少しだけ素直になって、くれるのだ。
「立って、らんな・・・っ」
がくんと佐助の膝が折れる。
「ぁあ―・・・・・・っ」
と同時に一層艶めいた嬌声が、部屋に響き渡った。
「おい猿っ!?」
身体が崩れる勢いで、佐助が政宗の指を一層深く咥えこんでしまった結果だった。
「アンタ・・・」
政宗の顔に笑みが零れる。
「ひとりで勝手に達ってんじゃねぇよ」
「っ・・・・・・!」
羞恥と、そして絶頂を迎えた余韻とで、佐助の顔が苦しげに歪んだ。
そんな佐助に、もう愛しさ以外の何物も、湧いてこない。
政宗の指を咥え込んだまま快楽に震える身体を、政宗は床に転がした。
ゆっくりと佐助の身体から指を引き抜けば、その口から切なげな吐息が零れる。
そんな佐助の状態に、遠慮なく政宗は己の欲の根をあてがった。
そして躊躇なく、一気に政宗は佐助を貫いた。
「ぅぁああっ・・・・・・」
指なんかとは比べものにならない、圧倒的な質量のそれが、佐助を襲う。
「っ、は・・・っ、は・・・」
絶頂の余韻を、更に上塗りする程の快楽に、呼吸が止まる。
それを知ってか知らないでか、政宗は佐助に口付けをねだった。
「んっ、んんっ、ん―・・・っ」
唇を塞がれたまま、政宗に腰を打ち付けられれば、佐助の頭の中は一気に真っ白になる。
苦しい、
息が出来ない。
苦しい・・・悦すぎて、苦しい。
「っあ、ぅ、・・・っ」
一度熱を吐き出してしまった身体は、まだ反応が戻らない。
すぐにでも達きたいのに、吐き出すもののない今の佐助は、まるで空イキの断続状態だった。
「っ、あっ、あっ・・・ゃあっ」
ただ、政宗の律動に促され、吐息する事しか出来ない。
「・・・・・・る、」
「あぁ、ぅ・・・」
「おい猿、」
「ぃあ・・・っ、ん・・・」
政宗が何か言っている。
「・・・ふぁ、・・・あ・・・?」
けれど、五感全てが快楽に捕らわれた佐助に、政宗の呼び掛けは届かない。
「そんなに、気持ち良いかよ・・・」
自分を見てくれない、言葉に反応してくれない。
それはそれで悲しい事だけれど。
佐助が前後不覚になるほど自分に溺れている、・・・のは政宗には嬉しくもあり。
小さく震えながらも、再び勢いを取り戻そうとしている佐助のものに、政宗は手を伸ばした。
「今度はひとりで達くなよ、」
言いながら、上下に手を動かす。
「んんっ・・・や、あ・・・」
包み込むように、優しく、ゆっくり。
そう心掛けようとしたのは最初だけで。
気付けば政宗の手は、手淫だけでイかせようとするかの如く、忙しなく佐助の欲を煽っていた。
(大概・・・俺も余裕、ねぇよな・・・)
佐助の前では、いつも余裕綽々、coolでsmartな恋人で在りたいのに。
「佐助、」
唇に触れるだけの口付けを落とし、耳元で囁く。
「アンタが好き過ぎて、どうにかなっちまいそうだぜ・・・」
「っっ・・・・・・!!」
そんな甘苦しい言葉を吐かれた瞬間、佐助の背が大きく反った。
「・・・政・・・むっ・・・」
「くっ・・・」
と同時に、その強い締め付けに促され、政宗もまた、佐助の中に欲を放った。

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