戦国小十佐

□唇から伝染する
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「こっちはまだまだ寒いね〜」
「そうか? 随分暖かくなったぞ」
「あ〜やだやだ、これだから雪国の人間は」
心底嫌そうに、猿飛佐助は眉を顰めた。



≪唇から伝染する≫



恋仲である片倉小十郎の元を訪ねた途端、佐助は挨拶もなしに寝室へと直行した。
そして掛布をぐるぐるに身体に巻き付けて、そしてようやく小十郎の正面へと腰を据えるのだ。
これが冬の日課だった。

・・・が。

季節は移り変わり、もう春を迎えているのに。
相変わらず寒がりなこの忍びに、小十郎は苦笑した。
「てめえん所だって雪国じゃねえか」
呆れたようにため息をつく。
何故なら今の佐助は、まるで雪で作った『かまくら』の上に、頭一つ、ちょこんと乗っているようで、かなり滑稽なのだ。
「空気の冷たさが全然違うんだって」
奥州の忍びを尊敬するよ、と佐助は呟いた。
こんな北国で真冬の夜警とか、自分には絶対無理だ・・・というか嫌だ。
「忍びの言うことじゃねえな」
「誰のせい?」
甘えるように佐助がその胸に飛び込んだ。
今まで佐助を寒さから防御していた掛布が床に落ち、一瞬寒そうに身体を振るわせた佐助を、言葉とは裏腹に小十郎が優しく抱き止める。
「何だ、随分積極的だな」
「お馬鹿、寒いだけだっての」
だってこっちはまだ桜も咲いてない。
それどころか蕾にすらなってない。
「あ〜あ、せっかく一緒に花見出来ると思ったのに」
「上田は咲いたのか」
「うん、今が満開。旦那なんて、ここぞとばかりに花より団子してるよ」
「そうか・・・・・・ん?」
「何?」
小十郎がふいに佐助から身体を離した。
佐助の胸に、およそある筈のない、柔らかい膨らみを感じたのだ。
「お前何持ってんだ?」
「あ、いっけない」
潰れちゃったかな〜と慌てながら、佐助は小十郎から身体を離した。
「作ってきたんだ、あんたと食べようと思って」
懐から出したのは、少し潰れかけた桜餅。
それを見て、小十郎は僅かに口元を緩ませる。
茶の用意でもするか、と眺めていた書類を閉じ、小十郎は休憩の準備を始めた。




「甘ぇ・・・・・・」
「え、嘘。」
甘さはかなり控えた筈なのになあ〜・・・。
と少々残念そうな表情を浮かべた佐助に、小十郎はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「てめえも食ってみろ」
「うん・・・・・・んんっ・・・、ぁ」
突然、唇を塞がれ、佐助の視界が真っ暗になった。
深く舌を絡め取られ、呼吸が苦しくなる。
「ぁ・・・ん・・・っ」
唇から伝染するのは、愛しい人の甘い熱。
・・・だけじゃなかった。
小十郎が今食べたばかりの桜餅の風味が、小十郎の熱と一緒になって、佐助の思考を甘く溶かしていった。
「な、甘いだろ」
「うん・・・」
ようやく唇が離れて、少しだけ苦しそうな吐息が佐助の口から零れた。
そんな仕草があまりにも可愛らしくて。
じっと見つめていれば、視線が交わった途端、顔を桜色に染めて佐助が俯いた。
「てめえの作るもんは、どうも甘すぎていけねえな」

「え・・・・・・」

言葉の意味を理解した途端、桜色だったその頬が真っ赤に染まった。


「あんたこそ・・・」
小十郎の唇から伝ってきた桜餅の味は、更に甘美で。
俺様こんな甘いの作ったかなあ・・・などと、不覚にも思ってしまったのだ。

あんたこそ、
唇に蜂蜜でも塗ってあるんじゃないの・・・?

そう言えば、ご機嫌にまた唇を重ねてきた。
「ぁ・・・んっ、ふ・・・」
ゆっくりと優しく口腔をなぞられ、全身の力が抜けてしまう。
たまらずその首に抱き付けば、腰に腕を回され、更に強く抱き締められた。
そして。
「もっと甘くしてやろうか」
意味深に笑って小十郎がそう呟いた。



   * * *



「ゃめ、ぁ、ゃだ・・・あ・・・っ・・・」
がくがくと下肢を震わせながら、佐助は強く敷布を握り締める。

下肢に顔を埋めた小十郎の舌が、緩やかに佐助を恍惚の淵へと誘っていく。

「んんっ!!」
ふいに与えられたざらりとした感覚に、佐助は背をしならせた。
「ちょっ、何・・・んあっ」
小十郎のあまりにも甘い舌技に酔いしれて、一瞬反応が遅れた。
「ゃああっ・・・!!」
次に佐助を襲ったのは、信じられない光景と、えもいえぬ快感。
「ゃだっ・・・何これ、っん・・・」
桜餅の葉で巻き付けられたのは、己の欲望。
そして餅を包んできた結い紐は、葉が落ちぬよう、しっかり根元で結われている。
「こっちのが美味そうじゃねえか」
そして満足そうに佐助を見下ろす不敵な笑顔。
「早くっ・・・んああっ、とっ、てよ、この鬼畜っ・・・」
「何とでも言えや、身体は喜んでるみてえだがな」
笑いながら佐助の欲望を軽く指で弾くと、甘い喘ぎ声と共に佐助の腰が揺れた。
散々、小十郎の舌に貪られて絶頂寸前のところに、桜の葉のざらつく微弱な刺激と戒められた根元が、佐助の吐精を妨げる。
「ぃやだああっ・・・」
達けないもどかしさと、意思に反して勝手に揺れる腰に、佐助の羞恥は限界に達した。
ついに瞳から零れ落ちた佐助の涙に、一瞬小十郎が動揺を見せた。
「そんな顔するな、辱めたいわけじゃねえ」
抑えが利かなくなるだろうが、と佐助の頬を両手で包み込む。
「・・・・・・感じてくれてんのが嬉しいんだよ」
自分の腕の中で淫らに喘ぐ、何よりも愛しい存在に、優しく口付ける。
「ふ、ぁ・・・んっ・・・」
声を封じられ、やり場のない快楽に、佐助の顔はどんどん紅潮していく。
そう、辱めたいわけじゃないのだ、決して。
だが、恋人のそんな痴態を見せられて、客観視出来るほどの余裕もないのだ。
桜の葉ごと、佐助のものを握り混み上下に擦ると、その顔が更に苦しげに歪む。
「んっ、ゃああ・・・っ」
戒められている為に達けない先端は、しとどに先走りを零し続ける。
それを指先に絡めると、やんわりとその後孔に指を伸ばした。
「やっ、待っ・・・ぅぁあっ」
いつもとは違う桜の葉の葉脈に擦られる快感に、気をやっていた佐助の瞳が一瞬驚きに見開かれる。
「あっ、ぁ・・・やっ、ああっ」
奥深く指を飲み込ませ、前立腺を刺激してやれば、佐助が理性を手放すまであと少し。
「あぁっ、ふ・・・ぁ・・・」
次第に佐助の瞳がとろんと理性を失っていく。
呆然と宙を見やる虚ろな瞳と、小刻みに震える身体。
半開きのまま必死に呼吸だけを追い求める口に、恍惚としたその表情は、指を増やされた事にも気付いていない程妖艶だ。
「っ・・・・・・」
そんな佐助の姿に、小十郎も限界を訴え、ぎりっと歯を噛み締める。
そして、佐助を戒めている結い紐を解くと同時に、桜の葉ごと、強く佐助の欲望を刷り上げた。
「ぃやっ、ぁ、ああぁぁっっ」
突然の強い刺激と開放感に、思考が追いつく間もなく、嬌声と共に佐助の欲望が弾けた。
「んっ、あ、はぁ、はぁ、っ・・・」
どくどくと脈打つ鼓動に、佐助が呆然と天井を見つめる。
だが、達したばかりで力の抜けたその身体に、容赦なく小十郎がその身を食い込ませた。
「ふ、ぁ・・・?」
間髪入れずに佐助の両膝を抱えあげると、小十郎が佐助の奥へと咥え込ませ、一気に貫いた。
「んぁあああっっ」
続けざまに襲い来る絶頂に、ただただ佐助は翻弄された。
そのまま腰を突き動かせば、声も出せない程感じ入ってるのか、佐助の口から漏れる空気の抜ける音と、あえかな喘ぎ声だけが静かな空間を包んだ。
「佐助・・・」
耳元で名前を呼んでやると、それすらも快感なのか、その背を大きくしならせた。
その白い首筋に吸い付いて、まるで散りゆく桜の花びらのように、鮮やかに痕を散らせると、最早羞恥心すらなくした佐助が、必死に小十郎にしがみついてくる。
それがたまらないほど愛しくて、可愛くて。
「ぁあっ、小十、郎さ・・・んああっ」
佐助の内壁がいっそ痛いくらいに締め付けた。
がくがくと佐助の下肢が震えだし、その前兆を小十郎に訴えると、小十郎も歯止めを失ったかのように、強くその奥に腰を叩きつけた。
「っ・・・ぁ、・・・ぁあああっ・・・」
佐助が再び欲望を弾けさせると、同時に小十郎も佐助の中に想いの丈を放った。


   * * *


ぐったりと死んだように眠る佐助の頭を、優しく慈しむように、小十郎の大きな手が撫でる。
行為の後、「死ね」だの「馬鹿」だの「鬼畜、ケダモノ、鬼!」だのと散々悪態をついた口は、今は可愛らしい寝息を立てている。

「なあ佐助・・・」

起こすわけでもなく、独りごちるように小十郎が呟いた。
その視線の片隅には食べかけの桜餅と、昨夜散々佐助を鳴かせた桜の葉。
花見がしたかった、そう佐助は言ってたな・・・と今更に思い出して、小十郎はくすりと笑った。
「上田城が誇る千本桜、か・・・」
是非とも拝んでみたいものだ。
その中で、さぞやこの忍びは、その景色にとけ込むのだろうな・・・。

てめえは桜みたいだ。

戦場でも自分の腕の中でも。
鮮やか過ぎる程に咲き誇り、見る者を惹きつけ虜にしてしまう。
そして鮮やかに散っていくのだろうか・・・。

「・・・散るなよ」

その茜色の髪に口付け、切に願う。

今のまま、このまま・・・枯れることなく、この腕の中で咲き誇っていて欲しい、と。

そんな柄にもない事を考えてしまい、小十郎は少しだけ恥ずかしそうに微笑んだ。



― End ―

2009年、上田は4/9に満開を迎えました。
今年の上田城千本桜祭りは4/4〜4/19でした。


上田城東櫓より。

★熱く甘いキスで・3/5題★
お題提供:確かに恋だった

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