戦国小十佐

□恋の味を教えよう
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「・・・・・・あのさあ・・・」
「何だ」
「・・・・・・。」


《恋の味を教えよう》


窓の外に気配を感じ、片倉小十郎は雨戸を少し開けた。
「こんばんは」
暗闇の中から聞こえる声は、思いの外明るい。
こんな夜分に気配も消さずに現れる人物に、心当たりは一人だけだ。
「さっさと入れ」
暗闇に向かって声を掛ける。
促すように暗闇に声を掛けたのは、何か違和感を感じたからなのかもしれない。
いつもなら、屋根裏やら何処からでも、なんの躊躇もなしに侵入してくるこの忍びが、部屋に入る事に対して、躊躇しているように感じたのだ。
あのさあ・・・、
暗闇から再び声が届く。
「何だよ」
奥州の冬を舐めてんのかてめぇは。
思わず言葉に出そうになるのを堪えたところで、寒さに身体が強張っていくのはどうにも止められない。
この忍びに寒いという言葉はないのだろうか。
「佐助」
「ん・・・」
促すように声をかければ、ゆっくりと闇から姿が少しだけ、近寄って来た。
遠慮がちに窓枠に指を掛けるも、まだ部屋に入る気はないらしい。
前回の逢瀬で、何か佐助の気に障る事でもしたのだろうか。
考えても心当たりはない。
かといって怒っているわけでもなさそうで。
「・・・あんたって一体何者なんだろうと思ってね」
佐助の出方を待つしかないかと、諦めたように窓枠に寄りかかった小十郎に、佐助の自嘲めいた笑みが問いかけた。
「ぁあ?」
・・・わけがわからない。
何かあったのかと聞いたところで、「別に」と言われるのはわかっているし、ならば一体自分はどうすればいいのだ、の心境だ。
「俺様は真田の旦那の忍びだし、これからも・・・一生傍で仕えたい」
淡々と喋るこいつの表情が見えなくて、むしゃくしゃするのに、その表情が読めなくてもどかしくなる。
「真田の旦那の為なら身体だって売れるし、死ぬことだって厭わない」
小十郎の目が吊り上がった。
「てめぇ・・・・・・」
ため息をつく佐助に、いいようのない感情が支配していく。
自分を前に、真田の為に身体を売れるなどと言われ、喜ぶ奴が何処にいる。
それともこれは、体よく別れを切り出そうとしているのだろうか。
「だけどあんたは違う」
「!?」
「・・・無条件で傍に居たい、あんたの為に死にたくない」
「っ・・・・・・」
「あんたの為に生きたいと思う・・・・・・何なんだろね、これって・・・」
そんなくだらねぇ事を考え、身を潜めてやがったのかと思うと、じわじわと怒りがこみ上げてきた。
「こういう事だろ」
暗闇に腕を伸ばし、力任せに引き寄せる。
「ぅわっ・・・」
突然の強い力にバランスを崩した佐助が、小十郎を押し倒すように床に転がった。
慌てて上体を起こそうとした佐助の後頭部を、小十郎ががっつりと掴んだ。
逃れる隙を与えず、顎を持ち上げ佐助に唇を重ねた。
氷のように冷たかったそれが、小十郎の腕の中で熱を取り戻していく。
「・・・ん・・・・・・っ」
歯列をなぞり、舌を絡めとると、弱々しく小十郎の背中に手を這わせる。
長く深い口付けからようやく佐助を解放すると、その肩が小刻みに上下する。
「てめぇは忍び失格だな」
呆れたように呟いた小十郎の手には、政宗から佐助に託された、幸村への書簡。
口付けの合間に抜き取られたのだ、と気付いた瞬間、佐助の顔が一気に高潮した。
慌ててひったくるように書簡をもぎ取ると「卑怯だよ・・・」と悔しそうに呟いて佐助が俯いた。
口付けに夢中になってしまい、大事な物を盗られてしまうなんて・・・本当に忍び失格だ。

そう自己嫌悪に陥る佐助に、小十郎はニヤリと悪戯な笑みを浮かべた。


「情と恋の違いもわからない馬鹿な忍びには、いい仕置きだろう?」



― End ―

★熱く甘いキスで・1/5題★
お題提供:
確かに恋だった
.

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