戦国親就

□目映さに覚めやらず
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   ≪目映さに覚めやらず≫


「よぉ、こんな天気のいい日に何篭もってんだよ」

声もかけず、いきなり豪快に襖を開け放った其の男、長宗我部元親。

その聞くだけで苛つく声音に、書類に判を押す手は止めぬまま、毛利元就は思いきり眉を顰めた。

「また来たのか・・・飽きずに毎度毎度、ご苦労な事だな」

最初の挨拶位、顔をあげろと言いたいところだったが、言っても無駄・・・もしくは、倍返しの毒舌が待っている。
そう悟りきっている自分も、大概この男にはまってるぜとそう思いながら、元親は苦笑した。
「オメェの好きな日輪とやらが輝いてるぜ?拝まなくていいのかよ?」
「昼間のあれの力は、我には強過ぎるのでな」

日輪を愛する、氷のような目をした男。

元就は、相変わらずこちらを見ようとしない。
「ハッ、日に焼けるのが嫌だってか、情けねぇな」
情けない、
そんな喧嘩を売るような元親の物言いに、ようやく元就が顔をあげる。
「・・・そなたの様になりたくは無いのでな」
元親の、日によく焼けた小麦色の肌。
その口から零れる白い歯が、妙に爽やかさを演出する。
一瞬、見とれるように魅入ってしまった自分を戒めるように、元就は深くため息をついた。
「・・・そのまま焼け焦げよ長宗我部」
「へっ?」
「そして灰となり朽ちてしまえ、海の藻屑と成り果てるがよい」
「そこまで言うか・・・?」
酷ぇ・・・と呟き、元親がうなだれた。

結局。

自分が発言を自重しようが何か言おうが、元就と『会話をする』と言うことは、こうなる事なのはわかりきっている事だった。


元就と初めて出会ったのは戦場だった。

共に戦う仲間を『駒』だといい、少しも大事にしない元就に、腹が立った。

だが、刃を交えながら少しだけ交わした受け答えに、何か妙に惹かれるものを感じた。

この男は単に冷酷なのではなく、弱い人間なのだ、と。
そして、とても優しい人間なのだと、そう思ってしまったのだ。

臆病な自分を隠す為に、権力を奮う。
失った悲しみに打ちひしがれるだろう弱い己を隠す為、初めから『駒』と扱い、仲間として慣れ合う事を拒んだ知将。

そんな人間臭さを垣間見た瞬間、元親の中に情が生まれた。
また、元親との出会いは、元就の心情にも何らかの変化をもたらしたのかも知れない。

あの時の『戦』では、元親は元就に敗れている。
だが、元就はこの首を取らなかった。
「利用価値のある間は生かしておいてやろう、せいぜい我の『駒』として励むが良い」
そう言った顔が、ほんのり染まっていたのが、今でも色濃く印象に残っている。

正式な同盟を結んだわけでも、なんでもない。

だが、こうしてふらりと突発的に訪れる元親を、元就は言葉では拒否しながらも、迎え入れてくれるのだ。

そんな中途半端な距離が、元親に微妙な期待を煽るのだ。
「手に入れてぇなあ・・・」
思わず呟いた一言に、元就が反応する。
「ならばそうすればよい。略奪はそなたの専売特許であろう、下等な海賊が」
「オメェなあ・・・」
何を手に入れたいのか、とは絶対に聞かないのだ。
お前の事になど少しも興味はない、そう態度に表しながらも、元親が口を開くのを待っている。
言葉とは裏腹な、あまりにも素直過ぎる態度に、元親の口端が自然とにやける。
「・・・いいのかよ」
「何故、我に許可を得る・・・・・・・・・んっ」
結局お前に勝てるのは・・・力技だけか。
そう思いながら、その細い身体を強引に自分の胸に引きずり込む。
重ね合わせた唇は、思いのほか熱く、元親に妙な安心感を与えた。
「いいのか?オメェを手に入れて」
「っ・・・・・・」
「捕らえて、飾って、傍に置いて、・・・いいのか?」
赤みを帯びた顔は、その白い肌をより一層引き立てた。
「いいわけ、ないであろう・・・」
消え入るような小声で拒否を表すも、不意打ちで落とされた口付けに対応できず、元就は俯いた。
その腰に腕を回し、力を込めれば、びくんと元就の身体が強張った。
「・・・俺が怖ェか」
「何故、我が貴様なぞ・・・」
この状況でも減らず口を叩き付ける元就に、今度は先程とは一転し、元親の瞳が勝ち気な色を帯びる。
再び元就へとゆっくりと顔を近付ける。
嫌がりこそしないが、ぎゅっと瞳を閉じて固まってしまった元就に、どうしようもない愛しさが込み上げてくる。

「覚悟しとけよ」

元就が予想していた口付けは、元親の唇は。
そのまま元就の唇を通過し、耳元に寄せられた。
「絶対ェ手に入れてやるからな」
囁かれる言葉と、鼓膜を震わせる元親の吐息が、元就の肌を粟立たせた。
「ふん・・・」
誰が貴様などの手に墜ちるか。
そう言い返しながらも、元親を警戒し強ばらせていた身体が、ゆっくりと力を抜いていく。

それが元親にはたまらなく嬉しく、「いっそ理性も何もかも、かなぐり捨てて食っちまいてぇ」と、思わずそう考えてしまう。


きっと・・・一目見た時から、目映いまでのその光に、捕らわれてしまっていたのだ。


この熱は、覚めない。


取り敢えず。

目下の目標は・・・こいつを素直にさせる事だ。
だが、それが一番厄介なんだよなぁ。

そう思いながら、目映いまでのその存在を、元親はきつくきつく抱き締めた。


― End ―


※ 史実上の元就さまは、誰よりも繊細で優しい心を持っていた・・・らしい。
仲間が死んで悲しむ位なら、情などかけなければいい、いっそ自分が忌み嫌われよう…と思った結果が『ただの駒』発言にBASARAでは反映されたんですねww

■ 2012/03 企画部屋より再掲。


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