戦国親就
□砂浜に描いたLOVE
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≪砂浜に描いたLOVE≫
L・・・。
「何をしておるのだ」
O・・・。
「聞いているのか、長宗我部!」
V・・・。
「貴様ぁっっ!!!」
ぐしゃぐしゃっ。
「わぁっ!てめっ、何すんだよっ!!」
「ふん・・・・・・」
癇癪を起こす目の前の男、長宗我部元親を冷めた瞳で睨み付ける。
毛利元就は今、すこぶる機嫌が悪かった。
いつも通りに早めに夕餉を済ませ、明日の朝一番の日輪に祈りを捧げるべく、さっさと床につく。
今日も滞りなく、平穏無事な一日を終えた筈だった。
・・・・・・が。
緩やかに瞳を閉じた元就に訪れたのは、めくるめく夢の世界ではなく。
「元就〜!!」
・・・・・・。
「お〜い元就〜!!」
「ちょっ・・・困ります長宗我部様・・・っ!!」
・・・・・・めくるめく夢の世界ではなく。
自分の名を呼ぶ耳障りな重低音と、それを必死で止めようとする毛利家女中の叫び、だった・・・。
・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・。
「こんな夜中に呼び出しておいて、何を砂浜に書いておるのだ」
そして話は冒頭に戻る。
無理やり元就を城から連れ出した後。
不機嫌極まりない元就にはお構いなしで、元親は自分の武器の柄の部分を使い、器用に砂浜に何かを書き始めた。
真夜中に悪びれもせず、ここへと連れ出しておいて放置プレイとは、これは何の仕打ちだと、元就は憤った。
そして、元親が書きかけている何かを踏みにじる・・・という暴挙に元就は出たのだ。
一度、釈迦にされたそれらに嘆きつつも、元親は再び砂浜へと手を滑らせる。
「・・・砂遊びがしたいなら、貴様ひとりでするがよい。何故、我を連れ出した」
「いいじゃねェか、星が綺麗だぜ」
鼻歌混じりに、空を見上げる元親は、どこかご機嫌だ。
「ふん・・・我には無関係な産物よ」
海賊は、船の上では星読みをして、時間や位置、進路や進行速度を把握するのだとか。
以前、この男に聞いた事があった・・・気がする。
「星の綺麗な夜などに興味はない、」
我の力が一番弱まる時間帯だ。
「まぁそう言うなって」
日輪みたいな派手さはない。
だが、空に無数に煌めく儚い光も悪くねェだろ。
そう言いながら、元親は武器を手放し、元就を引き寄せた。
砂浜に書かれた『LOVE』の形。
これが文字なのか、図形なのか、はたまた何かの記号なのか、海賊独自の暗号なのか。
全くもって、元就には理解不能だった。
だが、元就を胸に抱き込み、静かに潮の満ち引きを眺める元親の顔は、心なしか高揚していた。
「・・・何の呪いだ?」
「呪いじゃねェよ、まじないだ」
「まじない・・・?」
「そ、この前の航海でよ、外国かぶれの奥州の竜に教わったんだ」
波打ち際に『LOVE』と書いて、それが波に消されるのを好意を寄せる相手と一緒に見届けると、想いが通じるのだとか。
元来、まじないやら占いだのは、元親は信じるタイプではなかった。
だが、相手が元就となると、話は別だ。
このまじないを信じる信じないは別として、この時間を過ごしてみたいと思ってしまった。
日輪の沈んだ闇の中で。
こうして身体寄せ合って瀬戸内海を眺めるのも悪くねェだろ?
そんな事を思いながら、元親は自分の腕の中で緊張したままの愛しい存在に口付けた。
― End ―
【海辺の恋1/5題】
お題提供:確かに恋だった
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