戦国親就

□最上の宝
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〜BASARA2・猿飛佐助物語〜での、サンデー毛利を引用してます。

   ≪最上の宝≫

最上の宝、毛利元就。

手に入れたいと願ったそれが、力無く横たわっているのを見た時、心の臓が止まるかと思った。

「おいッッ!!」
もともと色の白いその肌は要所に血が滲み、ますますその白さを引き立たせているように見えた。
「・・・・・・ん・・・」
「俺の声が聞こえてるか?」
下手に動かさない方がいいが、意識を戻させなければ・・・そう願う一心で、長曾部元親は元就の頬を叩き続けると、弱々しく元就が言葉を発した。
「ザ、ビー・・・様・・・?」
「てめぇ・・・ブッ殺すぞ!」
「ぁ・・・・・・。」
うっすらと目を開け、元就は呆っと目の前に居る人物を視界に入れようとした。
見覚えがある、
その銀髪、片目を覆う紫緋色の眼帯、やけに勘に障る勝気な瞳・・・。
「長曾我部・・・元、親・・・? ここで・・・何をしている・・・」
「何をしている? じゃねぇ、ほらさっさと帰んぞ」
帰る? 何処に? 貴様と共に?
相変わらず鬱陶しい奴よ・・・何やら身体中が痛いのだ、そうっとしておいて欲しいのに、この乱暴者に体を抱き起こされ、その背を支えられる。
「触れるな・・・・・・!」
力ない腕で押し返そうとするが、びくともしない。
「我は戻らぬ。ザビー様と共に、ここで愛に生きると決めた故」
「はあぁっ!?」
くだらねぇ、と元親がその呟きを一蹴する。
「洗脳されてんじゃねぇよ、この田舎もんがよぉ!!」
嗚呼、煩い。
「おめぇ馬鹿だろ、相当な馬鹿だろ、知将とか言われてるくせに本当は馬鹿だろ」
「なっ・・・・・・!」
煩い、耳元でわめくな。
そう言ってやろうと思ったのに、馬鹿を連呼され元就は思わず絶句する。
「『愛』なんてなぁ、俺にだってわかるくれぇ簡単なもんなのに・・・・・・なんでおめぇはわかんねぇんだよ!?」
ふざけるな、貴様如きに何がわかる・・・そう言おうとした言葉は声にならなかった。
発言を遮るように唇を封じたのは、柔らかい感触。
「・・・ん・・・・・・」
何だこれは。
優しくて、甘い。
ともすればこのまま世界に引き込まれてしまいそうな、そんな心地良さ・・・・・・。
その正体を見極めようと目を開けた瞬間、元就はパニックを起こした。
元親の顔が眼下に広がっている。
否、既に唇同士が触れている・・・。

「!! んっ、・・・ンンッッ・・・ンー・・・」

必死に呪縛から逃れようともがくその身体を、いとも簡単に元親が押さえつける。
がっつりと後頭部を大きな手で抱え込んで、再び乱暴に元就の唇に食らいついた。
「離っ・・・せ・・・・・・んんっ」
尚も暴れもがく元就の抵抗など全く意に介さず、元親の手が強引に下腹部に伸びて行く。
その手が生暖かい液体に触れた瞬間、元就はびくんと仰け反り、苦痛に顔を歪ませた。
「!!」
ぬるりと元親の手に纏わりついたのは、赤い・・・
「・・・・・・じっとしてな」
唇を放し、素早く元就の身体を横たえる。
「何、を・・・・・・!?」
「動くなっつってんだろ! ・・・ちぃと黙ってな」
返り血ではない。
これは元就自身が流しているものだと認識し、元親は自らの衣服で元就の傷口を縛った。
きつい締め上げに、元就の口から苦痛の吐息が零れる。
こりゃ一刻も早く戻らないといけねぇな、と呟く元親に、元就は不思議そうに視線を合わせてきた。
「・・・・・・何故貴様がここに居るのだ?」
今頃聞くか?
そう言いたげに、元就を一睨みし、元親はふんと鼻を鳴らした。
「てめぇを連れ戻しに来たんだよ」
「頼んでなどおらぬ」
「頼まれたんだよ、どこぞの日輪の野郎共によ」
日輪の・・・?
たかが駒ごとき、と自分に酷い扱いを受けていた彼奴等の事か?
「何故だ・・・・・・」
自分が領地を出た事は、歓迎されこそすれ帰還を待つ者などいないのではないか・・・?
「本当にわからねぇか?」
不思議そうな顔をしたままの元就に呆れたような、いや、本当に心底呆れ果てた声が元親から発せられる。
「・・・わかるわきゃねぇか」
そして、大きなため息をついた。
「たかが捨て駒の気持ちなんざ考えた事もねぇんだろうよ、お前はな」
続けざまに腹の立つ事を言われたのに、言い返す言葉がてんで浮かんでこない。
「なあ元就・・・」
ふいに、背中に熱を感じると、元就は再び元親の大きな手に支えられ、抱き起こされていた。
「自軍の大将の心配をするのも『愛』なんじゃねぇのか?」
背後から耳元に告げられ、元就の身体が強張った。
「心、配・・・・・・?」
「くだらねぇとか言うんじゃねぇぞ、みんなお前の帰りを待ってんだぜ?」
そんな事は絶対に在り得ない。
元親の戯れ言に、元就は呆然となる。
「待つ・・・・・・我を?」
信じられない、信じない。
自分はただ一人の孤高の存在、毛利元就だ。
誰も心配などしないし、そして自分も人の心配などしない。
この男は、何を甘い事を言っているのだ。
「おめぇ以外に、他に誰が居んだよ」
如何わしそうな視線で元親を睨み上げると、元就の考えている事がわかったのか、元親が苦笑する。
「ほら、帰るぞ」
「だが我はザビー様に…」
「うるせぇよ、今頃そのザビー様とやらも生きちゃぁいねぇよ」
おめぇもその忍びにやられたんだろ?
と元親に言われ、バツが悪そうに視線を泳がせた。

思い出した。

どこぞの茜色の髪をした、やたらと派手な忍びとやりあって、自分は敗れたんだった。
夜襲・・・・・・ではない。
それなら単身で乗り込んでくることはない筈だから。
大方、ザビー教の内情を探りに来た処を、信者に見つかり口封じの為の暴挙に出たのだろう。
そうか、
「ザビー教は壊滅するか・・・。」
正直、帰るのは気が重かった。
愛を知らなかった自分が、部下である兵士達に言った残酷な言葉が、重く胸に突き刺さる。
部下等が心配している、元親の言葉が本当ならば、尚更だ。
だが、もう一度、やり直せるだろうか・・・。
そう元親に問いかければ「てめぇ、今までの話聞いてなかったのかよ!」と耳元で怒鳴られた。
「動けるか?」
背を支え続けるその手を乱暴に突き飛ばす。
これ以上、借りを作るのは御免被りたかった。
「いらぬ世話だ!」
あのなぁ・・・と苦笑する元親が勘に障り、平静を装い一歩を踏み出そうとして・・・・・・ふいに視界が揺らいだ。
「ぇ・・・・・・?」
「おいッッ!!」
次の瞬間、元就の目の前に気に食わない男の顔が間近に現れる。
無理矢理立ち上がった元就が立ち眩みを起こし、元親の腕に倒れ込んだのだ。
「・・・解せぬ・・・・・・」
「解せぬ…じゃねぇよ、何冷静になってんだてめぇ!! あんだけ血ぃ流してりゃあ誰でもこうなんだよ!」
耳元で怒鳴られ、嫌そうに眉を顰める元就の身体が、ふいにふわりと浮いた。
女子のように、いとも簡単に横抱きにされ、元就の顔が真っ赤に染まる。
「我に触れるなっ!」
「はぁっ!? この期に及んでふざけた事言ってんじゃねぇ、この怪我人が!」
「耳元で喚くな、傷に障る・・・」
「てめぇなあ・・・」
本気でぶち殺してやろうか、と物騒な事を呟きつつも、元就の身体を案じているのか、最小限の動きで、静かに振動を与えないようにゆっくりと歩いていく元親に、違和感を感じて眉を顰めた。
「長宗我部、元親…」
「ぁあ?」
この男は、この様な・・・人の身を案じれる男だったのか・・・?
「何故・・・我を連れ戻しに来た?」
「頼まれたっつっただろ」
またその話かよ、そう言いたげに眉が吊り上る。
「断れた筈よ・・・一国の主が何をしておる」
「・・・・・・理由が必要かよ」
自国を離れてまで、自分を迎えに来る理由がわからない。
たかが隣国の武将に頼まれたからと、行動に出るのは酔狂だろう。
この男は、会う度に自分の心をざわめかせる。
「何故、我の口を吸った」
「っ・・・・・・!」
一瞬動きを止めた元親を見上げると、チッと怒ったような舌打ちが聞こえた。
「・・・・・・言わなきゃわかんねぇか? おめぇ、ここで『愛』の何を学んだんだよ」
「・・・・・・。」
「ったくしょうがねぇよなあ・・・」
呆れたよう苦笑し、元就を見つめるその瞳の優しさに、鼓動が高まった。
と、その顔が突然近くなり唇が重なった。
なんだこれは。
唇が放されても、どくどくと不規則に脈を打ち続ける心の臓、熱くて鼓動が早くて・・・このまま破裂してしまいそうだ。
「俺ぁ好きでもねぇ奴にこんな事しねぇ」
真正面から元就を見つめ、真剣な表情でそう告げる元親に息が止まりそうになる。
こんな表情をする男は、知らない・・・・・・。
「理由が知りたきゃ自分で考えな」
怪我が治るまでゆっくり考える時間があるだろう?
そう付け足すと、元親がにやっと笑った。
ああ、この表情は知っている。
気に食わない、偉そうな態度の、自分の知る顔だ。
「治ったら・・・・・・会いに来いよ、続きをしてやる」
「っ・・・・・・」
なんの続きだと言い返す間もなく、元親の周りにやかましいこの男の部下達が集まってくる。
アニキ、アニキと・・・どこまでも鬱陶しい連中よ。

「野郎共、帰るぞ!!」

嗚呼なんて煩い、なんて暑苦しい連中。
西海の荒くれ共と、最も暑苦しいその頭主の強い腕を心地良く感じながら、元就は誘われるように眠りの世界に引き込まれていった。


― End ―

六月笠さんとの相互記念に進呈♪
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