クラサメはテーブルに広げられた書面にちらりと視線を向け、脱力感に苛まれながら背もたれに身体を預けた。
対面にはエミナと〇〇。
クラサメに差し出された書面を順に読んでいる。
「お気の毒さま…」
最後の1枚を読み終えたエミナは天を向いているクラサメに労いの言葉をかけたが。
「でも大抜擢じゃない?」
それに続いた〇〇の言葉は軽かった。
「本当にそう思うなら替わってくれ」
「いや親展だし。ご指名頂いたのはクラサメでしょ」
ストローに口をつける〇〇を軽く睨んで再び書面に目を落とす。
「俺が何したっていうんだ…」
□ □ □
「自分が、ですか…」
書類が入った封筒を、納得がいかないながらも受け取る。
「大変名誉ある抜擢だ。気を引き締めて事に当たるがいい」
「あ、の!」
渡すだけ渡してさっさと帰ろうとする教官を呼び止める。
「理由、は…。何故、自分が選ばれたのでしょうか…」
返ってきた言葉は素っ気なかった。
「俺は渡すように言われただけだ。それに書いてあるんじゃないか」
手元にある封筒を見ると、また教官は歩みを再開する。
縋るように口を開いたが、掛ける言葉も教官が答えを持ってないのもわかっていた。
「怠惰は許されないが、多少の授業やレポートは考慮してやる」
教官、それは優しさではありません。
言葉の裏を読み取ったクラサメは溜め息をついた。
要するに免除が適用される程厳しいというわけである。
何度も読んだが理由は書かれていない。
謎だ。何故、名指し。
接点など、この間の任務一度きり。
「この間四天王にお目通りしたとき、何かあった、とか?」
ケーキを一口食べながら、考えこむエミナ。
クラサメも考えた事だ。
それ以外に思い当たる節はないのだから。
だが。
「…なにも」
唯一の接触の中でさえ、理由は捜し当てられない。
メロエの街で任務後であろう四天王と初めて会い、次の日にベスネルで手を借りた。
「何か会話してないの?」
「アイスファイアの発案はどっちだ、とか、ベヒーモスを剥ぎ取りしないのか、とか…それくらいなんだが」
会話らしい会話をしたのはそこのみ。
「う〜ん…なんでかしらねえ…」
エミナもほお杖をついて考える。
「期待されてるんじゃないの?見込みあり、って思われたんだよきっと」
音を立ててドリンクをすすると飲みきった紙コップをテーブルに置いた。
「くそぅ。私のびてたからなあ…」
「仮にそうだとしてもだ。キングベヒーモスにすら苦戦する候補生を加える必要がどこにある?順序ってものがあるだろ」
切実な様子のクラサメから視線を落とし、エミナは書面をつまんだ。
「次の任務に於いて、クラサメ・スサヤに従属を命ずるものとする。つき・火の月23日、ところ…龍神の聖域」
「え?マジで?クラサメ龍神の聖域に行くの?」
降って湧いた第三者の声に三人は同時に振り仰いだ。
「ケント君」
「よ」
飲み物を片手にテーブルに手をつく。
「なになに。なんでよ。いつから?」
「再来月末から。予定では3週間だ」
うひー、と言いながらストローを噛む。
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ご指名入りましたー。
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