床を叩いていた水音が止まる。 シャワー室から出てきたクラサメは、バスタオルで髪を拭きながらベッドに腰掛けた。 疲れた。 ミッションから帰ってきたばかりだった。 一度落ち着いてしまうと億劫になってしまうため先にシャワーを浴びたが、まだ荷造りも解いていない。 がしがしと乱雑に水分を飛ばしながらも、重い瞼が下がってくる。横になればすぐに泥のように寝てしまえそうだった。 ミッションから帰院するといつも温もりを感じながら寝るのだが。 フラれたしな。 今、隣に温もりは無い。 ただ、温もりが無いからといって眠れないわけではなく、疲労感は平等に襲ってくる。 クラサメは鈍くなっている思考を払拭するように頭を振って立ち上がった。 明日は全休だが早めに就寝しよう。 まずは荷を解かないと、と鞄に手を掛けたとき、派手な音がして窓が開いた。 「よーぅ!暇だろ?俺の部屋来いや」 開け放った窓から入ってきたのは四天王の一人、ビャクヤ。 先程、別れたばかりの人物だった。 クラサメは立ち上がって目を見張る。 「なんですかいきなり!なんで窓から!」 「甘いねぇ。鍵なんてモンは俺様の前には無いに等しいっちゅーのに」 「にしても!ここ6階ですが!?」 「軽い軽い」 これが、さすが四天王というべきなのか、ビャクヤだからなのかはまだ模索中だ。 いつもの笑みを浮かべ、ずかずかと部屋の中に入ってくる。 「おまえ明日オフだろ?歓迎会するから俺の部屋集合ー」 「それは…またいずれという話になりませんでしたか…」 帰りの飛空艇の中で。 というか。 「…さっき、帰ってきたばかりなんですけど…」 「なーに言ってンだよ。みんな同じじゃんか」 それはそうなんだが。 だから何故あえて今日。 日にちを変えるべきでは無いのか。 「次のミッション入ったからまたすぐ発たにゃならんくなったかんなー。延び延びになるから、んじゃ今日やろうやってコトに。ほーら!さっさと行くぞ!」 「ちょっと待ってください!」 言うだけ言ったビャクヤは突っ立ったままのクラサメの腕をぐいと引いたが、頬をひきつらせたクラサメはその手を振り払った。 怪訝な表情をされたがその顔を睨みつける。 「服!着させてください!」 クラサメは半裸だった。 「ウェルカ〜ム」 そう言いながら自らドアをくぐる。 通された部屋は、らしいといえばらしかった。 調度品は少ないが脱ぎ散らかされた衣類や食事の跡がそのままになっている。 足の踏み場くらいはかろうじてあるものの、散らかり放題だった。 「ま、ちょいと散らかってるけど気にすんな」 誰も気にしねーから。 誰も、というのは他の四天王と、恋人か。 ということは、この部屋の惨事はデフォルトという事らしい。 床やソファーに放置された衣類を拾い集めてまとめてベッドに放り投げ、何食分かの食器もまとめてシンクに置いた。 その様子を見ていたクラサメは深い溜め息をついた。 ドア付近で立ったまま。 「んなトコ突っ立ってないでソファーでも座ってろ主役」 今度は雑誌を集め、積み重ね始めたビャクヤ。 そう。主役のはずだ。 自分以外はみな先輩。大先輩に囲まれる事になるが、加入を祝われる席。 「自分も、手伝います」 シャツの袖ボタンを外し、腕まくりをする。 「マジか。くつろいでていいんだぞ?」 隣室から声が返ってくる。 「…嫌でなければ」 性格からして、片付けとかは全部恋人任せだろうと踏んで、返事を待たず身近なジャケットを拾いあげる。 「ナニお前。潔癖症じゃねえだろーな」 「…そういうわけでは」 ないけれど。 だってくつろげと言われたソファーは座るスペースが無い。 |