「あ!いたいた!」 探していた人物を見つけた〇〇は小走りに駆け寄る。 「エーミナっ!ちょっとクラサメ貸して!」 「高いわよ?」 「おい俺の意思は」 「すぐ返すから割り引きしてよね!」 「おい」 「ちょっとこっち来て」 ぐいと腕を引っ張ってクリスタリウムを出る。 だからお前ら聞けよ人の話を! 思うがもう口には出さない。 言っても無駄だという事は重々知っている。 代わりに溜め息を付いた。 「来週、何があるか知ってる?」 扉が閉まったのを確認して〇〇は言葉を発した。 何かと思えば。 「合同演習だろ」 「他に!」 「四大元素のレポート提出」 「んぁッ!忘れてた!!…じゃなくて!」 目の前でもどかしそうに指を振る。 「エミナの誕生日でしょ!?忘れてたなんて言わせないわよ!?」 そういえば大分前に聞いたような気もしないでもない。 「そうだな…」 「プレゼント、買ってあんの?」 「…」 今まで忘れていたため用意なんてしていない。 「うわっホントに買ってないわけ!?ありえない!最低!」 その後にも二、三罵倒が続き、クラサメは辟易した。 なんだこの言われようは。 なんで女子ってのはこう、記念日が大事なんだ。 「カヅサから聞いて良かった〜。…そんなどーしよーもないクラサメに救済措置!」 ぴっと目の前に指を突き出す。 「明後日の講義、二限目で終わりでしょ?買い物付き合うからキザイア行こうよ」 どうやら時間割はリサーチ済みらしく、そうなると拒否権はクラサメにはない。 「わかったよ…」 「よっし!」 もぎ取った了承の返事に〇〇は腰に手を当てて満足そうだ。 対照的にクラサメはまた一つ溜め息を付く。 魔導院に来てから格段に溜め息の回数が増えた。 いや、こいつらに出会ってからか。 「エミナ〜」 一二〇〇に入り口ゲートでと約束を取り付けた〇〇は、クラサメを返却するためにエミナの元に走っていった。 「…」 「…」 睨み合う事、既に十数分が経過。 「おい」 「う〜…」 「…」 「あッ何すんのよ!」 見てるじゃない、と取り上げられたメニューを追い掛けるが、手は空を切った。 「いい加減にしろ。一日潰す気か」 「ぁぅ…だって、せっかく来たんだから吟味しなきゃ…」 〇〇が見ていたのはメニュー表。ここは看板にパスタの模型が付いていた喫茶店だ。 一三三〇にキザイアに到着した〇〇とクラサメは、買い物より先にランチをとる事にした。 目に付いた喫茶店に入ったまでは早かったのだが。 「優柔不断」 当たってはいるが認めたくないのか、唇を尖らせて返事は無い。 溜め息と共に取り上げていたメニューをテーブルの真ん中に戻し、見やすいように横向きに置く。 「どれとどれでで迷ってるんだ」 「…なんで二択ってわかるの?」 メニュー表に身を乗り出しながら、上目遣いでクラサメに聞く。 そんなもの。 「目の動きを追ってればわかる」 十数分見てれば嫌でも。 「ん〜と、これと…これ」 〇〇が指指したのはニョッキのグラタンとアラビアータ。 対象的だ。 「二つ頼め。俺も食う」 「いいの!?」 この目の輝かせよう。 そんなに意外か。 「俺の買い物のために〇〇サンの貴重な自習時間を割いてるもらっているわけだしな。ついでに奢ってやる」 「優しいっ!…どうしたの?き」 ついて出そうだった言葉に〇〇は慌てて口を押さえた。 「…お前今気持ち悪いって言おうとしなかったか」 ぴきっと青筋が浮かぶ。 「言ってないないない!!」 「…全力の否定は肯定と同意だ」 覚えておけ。 注文が決まったところで、オーダー待ちをしていたウェイトレスに目配せをする。 「あっ!じゃあついでにデザートも!!」 クラサメは?と問い掛け、またメニューにかぶりついた。 「お前…来週のレポートは手伝わないからな」 また長考されては敵わない。 悲惨な声を出してこちらを見る〇〇からメニューを取り上げた。 |