「エミナぁ〜…」 「ちょっと、なんて声出してんのよ」 「だって…疲れたんだもん」 やっと魔導院が近付いてきた頃。 ほっとしたためか、我ながら情けない声が出てしまった。 魔導院からはそう遠くない距離にあるコルシ洞窟。今はそこで調査を行ってきた遠征帰りだ。 「あと少しなんだから頑張りなさい」 「ぶぅ〜」 颯爽と先頭を歩くエミナには、見るかぎり疲れの様子は無い。 なんでこうも自分と差があるわけ? だって野宿で三泊だよ? 疲れないわけないじゃない。 唇を尖らせてちらりと後方を伺えば、私より年下の少年少女たちがついて来ていた。 中には疲労の濃い者もいる。 わかるよ…。疲れたよね。 「そんな目してもダーメ。ちゃんと歩きなさい。ほら、ぴしっと!」 エミナに背中を叩かれたのでぴしっとしてみるが、三秒ともたなかった。 「しょうがないわねぇ〜。じゃあ、帰ったらリフレッシュルームでお茶しましょ?」 「あ!それナイスアイデア!」 どっから湧いた、この元気。 急に身体が軽くなったような気がして、背筋も伸びる。 「何食べよっかな。私すっごい久し振りだ」 「言っておきますけど、〇〇の奢りだからね?」 「なんで!?」 「あら。あのときあたしがプロテス掛けなかったら危なかったのはどこのどなた様でしたっけ?」 「ぐっ!!」 そういえばそんなコトも…。 「わかったよ…奢るよ…奢るから行こうエミナぁ〜」 「はいはい。わかったからさくさく歩く」 張り付いてくる〇〇を剥がして軽くいなす。 「よ〜し!!」 〇〇はぺしりと頬を叩いてくるりと向きを変えると。 「みんなぁ!あと少しだよ!ほら暗い顔してないで歩く歩く!」 先程までの疲労感を感じさせない動きで一人ひとりに労いの言葉を掛けに行った。 まったく、現金なんだから。 「索敵も忘れないように!」 訓練生の間をちょこまか渡る〇〇に声を掛け、エミナはため息を漏らした。 お茶の約束を取り付けた〇〇のテンションも手伝い、そこから魔導院に到着するまでの道程は短く感じられた。 「みんな、今日はご苦労様。各自、身体のケアを怠らないように」 噴水の周りで思わず座り込む訓練生(と〇〇)を叱咤し、レポート提出を二日後と定めてその日は解散とする。 「じゃあ後で!シャワー浴びて着替えたら部屋に行くから!」 言いながらもすでに軽い足取りで部屋に向かっている〇〇。 角を曲がる直前、エミナから見える最後の位置でぴょこぴょこ跳ねながら手を振っている。 あの、ちょっとおバカなトコが可愛いのよねぇ。 小さく手を振り返し〇〇を見送った後、エミナも自室に帰るため魔法陣へ向かった。 「たっだいまぁ〜」 軽く鼻歌まで口ずさみながら部屋にたどり着いた〇〇は、ドアを閉めるなり次々と服を脱ぎながらシャワールームに向かった。 「お疲れさん。機嫌いいね、どうしたの?」 本を読んでいたルームメイトのソナが顔を上げる。 「んふふふふ〜。これからエミナとケーキ食べに行くんだ」 カーテンからひょっこり顔を出す。 口元の笑みは手で隠しているがにやけ顔は隠しきれていない。 「だから急いでるの!」 バスタオル出しといてーと言い残し、シャワーの蛇口を捻る。 仕方ないなあとため息を漏らしながら、ソナはふと考え込みそばのペンを手に取った。 |