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□zero sum visitor
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ゆるりと首をもたげ、その慣性のまま振り返って〇〇を正面に捉える。
その動きと瞳の赤い残光が人間味を損なっていた。
意志が感じられない。
機械仕掛けというよりは、操り人形のような。
赤い眼光で自分の意志がなく、強い人物。
たどり着いた一つの答えに晴天の最中でさえうすら寒くなった。
それを無理矢理消し去るように頭を振る。
「ないない!ルシはもう…いないんだから!」
彼がルシであるならば理由は不明だが狙われている自分の命はないだろう。
しかしもうこのオリエンスにルシは存在しない。
はずなのだ。
そう言い聞かせても不安が拭えない。
「大丈夫、大丈夫。た、ただの謎の美少年だよ。ちょっと見たことない攻撃方法だけ、ど…ぉ!?」
〇〇が自らを安心させている間に謎の美少年は両腕を広げて背後に幾つもの様々な武器を召喚していた。
長槍、大刀、銃剣、弓、銃、騎士剣…見たこともないものもたくさんある。
全てに光の粒子が纏わりつき実体がないようでもあるが、喰らってみるような危険は犯せない。
不安材料が多すぎる。
一度退避した方が良策だろうか。
じり、と後ずさるが、しかし大人しく見逃してくれはしなさそうだ。
〇〇の退く気配を察知したのか彼の右手が動き、その指揮に命じられるかのように背後の武器が一斉に蠢いた。
「いッ!?」
飛び退いた地面に短剣が数本刺さり、中空の〇〇を追って長槍が風を切って飛来する。
容赦なく喉元を狙うそれを蹴り返して着地したところに、まるで何かに振りかぶられたかのように大剣が降り下ろされた。
その凶刃が〇〇を襲う直前、寸でのところで甲高い音が鳴り響き、空気にヒビが入る。
「…ウォ、ウォール張っといて正解だった」
冷や汗が頬を伝う。
が、安心している暇はない。
頭上の大剣はウォールを切り崩そうという意志があるかのように乱打している。
ちらりと少年に目を向ければ弓に矢がつがえられ、キリキリと引かれていた。
彼の手を下すことなく。
「省エネルギーだな!」
相変わらずの無表情に赤く揺らめく眼光。
汗ひとつかかず、呼吸も乱さない様はやはりルシを彷彿とさせる。
複数の武器が玄武のルシ、ギルガメッシュを。
操り放つ様が白虎のルシ、ニンブスを。
「違う…!違う!違う!!世界は人の手に渡った!クリスタルはもうない!ルシも…いない!」
叫ぶと同時に頭上のウォールが砕け散り、それを好機と待ち望んでいた大剣は刃を煌めかせた。
確実に〇〇を狙ってくる大剣をギリギリまで我慢して待ち、大振りを誘って最小限の動きで避け、深々と刺さったその柄を握る。
「言うこと…聞いて!」
主が違うと嫌がるように鳴動するその大剣にサンダーSHGを撃ち込んで強引に服従させ、飛来する矢を弾き返す盾とした。
全ての矢が地に落ち、あるいは刺さる。
〇〇に届かなかったのを確認した少年は、ついと顎を上げ、背後中天にある一本の長剣を手に取る。
来るか。
切っ先を下げ力なく立っている様は構えのようにはとても見えないが、〇〇はいつ来られてもいいように柄を握り直した。
その上体がゆらり、と前方に傾いだかと思うと〇〇の眼前から消える。
予想通りさきほどの瞬間移動に剣撃を合わせてきた。
文字通り視界から消えているのだが動き自体は複雑ではなく直線的だ。
しかし、純粋に早い。
突き刺した大剣の束尻を支点に跳び上がり冷や汗をかきながらなんとかかわすものの、その先の岩を膝をバネのように使って蹴り返し間髪入れず追撃してきた。
今度は避けれない。
噛み合った刃と刃がキリキリと甲高い音を立てた。散る火花の向こうには爛と燃える眼光。
「見た目より!重いッッ」
押し負けそうになる寸前で剣筋をいなす。
斬撃を受け、その間にサンダーSHGを叩き込もうという算段だったのだがそれもままならない。
あの斬撃を躱し、最接近した瞬間にサンダーSHGを放つしかない。
〇〇は無用となった大剣を地に刺し少年から視線を外さず数歩離れた。
攻撃を読みきれているわけではない。
いつ喰らってもおかしくはない。
できれば早々に気絶願いたいのだがそう簡単にはいかなそうである。
〇〇が最速でサンダーSHGを放てるよう魔力を高めると、それを察知したのか彼が初めて構えらしい構えを見せた。
長剣を目線水平に持っていき、腰を落として足を広く開く。
予備動作はそれだけ。
重心移動は目視出来ずに少年は消えた。
奇をてらった動きやフェイントはない!
「ここ!!」
僅かな経験と直勘を頼りに〇〇はサンダーSHGを放った。