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□zero sum visitor
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 近づくにつれ、やはり人であることは確信に変わる。
 
 少年…男の子だ。
 
 途中、膝上までの波に足を掬われながらなんとかたどりついた〇〇は隣に膝をつき強く肩を揺すった。
 
 
「ねえ!ねぇってば!」
 
 
 声を掛けつつも強引に身体を仰向けに転がし胸に耳を当てる。
 
 動いている。呼吸も確認できた。
 
 
 生きてる!
 
 
 最悪の事態、漂着した死体ではなかった。
 
 
 と、ほっとしたのも束の間、ここにいては沖にもっていかれてしまう。
 
 陸続きであった〇〇が渡ってきた浅瀬はすでに潮が満ち、ここはもう離れ小島となってしまっていた。
 
 脇に腕を差し込み、少しでも高いところへ引きずるように移動する。
 
 
「服が…ッ水吸って…ッ重いッッ!」
 
 
 目指すは草が生えている場所。
 
 そこならば沈まないはずだ。
 
 さきほど転んだときに被った飛沫か汗が顎を伝い落ちる。
 
 
 いつからここにいたのだろう。
 
 水分も摂らせないといけない。
 
 上から下まで黒ずくめの服装では脱水症状を起こしてそうだ。
 
 海水を吸った服は温いを通り越して熱い。
 
 
「ここまで…来れば…なんとか…」
 
 
 上がった呼吸を整えつつ水を取りだした〇〇は、少年の後頭部を支えてペットボトルを口にあてがう。
 
 
「の、飲める…かな。あ、飲んだ」
 
 
 慎重に傾けていると喉が小さく動いたのを確認できた。
 
 少し零れてしまったが元よりずぶ濡れだし、この天気だ。すぐに乾くだろう。
 
 
「おーい、起きて。干からびちゃうよ?…おぉ」
 
 
 黒ずくめの服装にばかり気をとられていたが、改めて顔を見ると切れ長の眉に通った鼻筋。
 
 かなりの美形だ。
 
 
「夜の空みたいな髪…。どんな声かなー。おーいって…ば?」
 
 
 肩を揺すっていたはずの手が支えを失い砂地につく。
 
 確かに目の前にいた。ここまで運んだのだ。
 
 幻ではない。
 
 いるはずのその少年が突如目の前から消え、〇〇は混乱した。
 
 
「は?え?…え!?ってうわわわナニナニ!?」
 
 
 そしてその混乱が収まりきらないうちに追い討ちをかけるかのような更なる出来事が。
 
 
 この天気の中でさえはっきりと殺気を感じ直感で飛び退くと、今しがたいた場所を光の残滓が通り抜ける。
 
 無害な光ではない。
 
 葉が裂けている。
 
 
「な、なに!?モンスター!?」
 
 
 立て続けに起こる怪現象に頭の処理が追い付かない。
 
 消え失せた少年も気になるが差し当たっての脅威の元を探して素早く視線を巡らせる。
 
 と、波打ち際に佇む彼の姿を捉えた。
 
 
「ねぇ!キミ!」
 
 
 危ないよ、と声を掛けようとして〇〇は息を飲む。
 
 突然目の前から消えた少年。
 
 立っている場所はその僅かな間に歩いて移動できる距離ではない。
 
 前髪で顔は窺えないが精気は感じられなく、その様は操られているか若しくは。
 
 
 バーサク!
 
 
 前髪の隙間から燃えているような赤い眼光が覗く。
 
 〇〇を捉えた瞬間、それは尾を引いて消えた。
 
 
 攻撃手段が不明ではあるが的確に自分を狙っている。躱さねば傷を負う。
 
 
「なんッなのよ!」
 
 
 肌で感じる魔力の流れ。
 
 横っ飛びで転がると、黒い旋風と共にさきほど見られた光の残滓が通り抜けた。
 
 辿ると、光の軌跡は彼へと続いている。
 
 そこに立っていた。
 
 
 どうする。どうするどうする!
 
 
 謎の少年から謎の攻撃を受け〇〇は頭をフル回転させた。
 
 そもそも何故攻撃されているのかわからない。
 
 話も通じない。
 
 バーサクならば解除魔法はエスナだが、あいにく持ち合わせていない。
 
 かくなる上は。
 
 
「恨まないでよね」
 
 
 気絶させるしかない。
 
 
 〇〇はサンダーSHGの所在を確かめるように右手を握りしめた。
 
 
 
 
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