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□zero sum visitor
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くそ、外した!
最速で放ったサンダーSHGだが手応えがない。
姿が見えない状態はもしかしてブリンクも兼ねているのだろうか。
だとしたらこちらの攻撃は届かない。
エースのような一瞬の回避ではなく、かなりの長時間だ。
まずい。
〇〇は口元を歪めた。
「逃げるが勝ち…っても逃げれるか?コレ…」
彼が〇〇を襲う理由も判らないので無差別なのかも判別出来ない。
安易に人がいる場所へは行けない。
「誰かに連絡を…!」
逃げの一手が難しいならば応援を頼めば良いと逆転の発想をした〇〇は近隣にいそうな人物を模索する。
確かトグア辺りにエースがいるはずだ。
そう考え手探りでCOMMを操作している最中も少年の猛攻は止まない。
発信先を確認するために一瞬だけCOMMに目を向け、再び耳に装着する。
身体が隠れる程度の岩を利用して少年と遮蔽物なしで対峙しないようにはしているものの、脅威はそれだけではないのだ。
「早く、出て…ッ」
気が逸れたその一瞬。
〇〇の頭上が陰った。
竜騎士さながらのハイジャンプで襲いかかってくる少年の攻撃を、手のひらで岩を押し出し更にサンダーSHGを放つことで推進力を重ね、紙一重で躱す。
全く容赦のない攻撃だ。
一太刀でも受ければ素早さが落ち、それが死へと繋がりかねない。
思案に耽る時間も与えられず、少年は〇〇に向き直った。
足元に寄せ返す波の音を聞きながら鼓動が逸る。
「…困ったぞ」
自分のスタミナが落ちてきているのか、攻撃のスピードが増しているように感じる。
後ろには彼方まで続く大海、左右には白浜。
そして少年との間に遮るものは何も無い。
眼光の揺らめきが〇〇を捉え止まったかと思うと剣の切っ先を砂地に付けたまま、予備動作なく少年の姿が消えた。
正体不明の攻撃に未だ打開策を見出だせないまま躱わすしかないのだが、右足に電撃が走ったような痛みを感じ〇〇は苦悶の呻きを漏らした。
とうとう、躱しきれずに攻撃を喰らってしまった。
出血こそないものの、裾が焦げ、痺れのような感覚がある。
幸いなことに致命傷ではないが向こうにしてみればこれは好機。
折れているわけでもない右足の痛みは無視して、来るであろう追撃に備え素早く体勢を立て直し、少年の姿を探して視線を巡らす。
「どこ…!?」
前方のみならず後方や頭上も警戒するが姿が見えない。
インビジを多様する敵はこれほどまでにやりづらいものなのか。
小さく舌打ちをして神経を研ぎ澄ます。
目視がかなわないのであれば魔流を感知すればいいと、いつでも動けるように膝を柔らかく曲げ少年の軌跡を辿る。
感覚を研ぎ澄ますと次第に浮かび上がってくる光の残滓。
それが流れではなく留まっている箇所は〇〇の正面、海の中だった。