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□おかえり 中編
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「私が死んだら...〇〇の中から私の記憶が無くなる。哀しむ事もなく...〇〇は新しい恋人を見つけるのだろう。それは...耐えられない」
後ろを向いていた〇〇がそろりと首を捻ると、視線の先には苦痛に顔を歪めるクラサメがいた。
「耐えられないって...死んじゃってるじゃん」
「それでも、だ。私の事で泣き暮らして欲しいとは思わない。〇〇にはいつも心健やかであってほしい。...だが、〇〇の一番傍にいるのが私ではないなど、...考えたくもない」
どうしても腕に込めた力が強くなってしまう。
〇〇が小さく息を漏らした事に謝罪はしながらも緩められない。
「クリスタルの恩恵...記憶が消える判定は、死だ。では死とはなんだ?瀕死の状態は?心停止にはどっちの判断が下る?一度止まっても息を吹き返せば記憶は戻るのか?その際の時間は?植物状態になった場合...助かる見込みはなくとも記憶は失われないのか?」
「...クラサメくん...」
今にも泣き出しそうなクラサメの頬を撫でた。
「〇〇よりは少しばかり強いといっても、私は世界最強ではない。〇〇を置いて逝く事に怯え、〇〇の中から消える事に怯え...だがそれを糧にして私は戦線に立ち、そして必ず戻ってくるんだ。〇〇の中にいる事を、確認するために」
「...私...自分の事ばかりで...」
謝りながらクラサメを胸に引き寄せる。
自身を落ち着かせるように深呼吸をしたクラサメは、〇〇の顔が見える程度に身体を離した。
「お互い様だ。私は〇〇を忘れる事は想像出来ないからな。〇〇が先に死ぬなど、有り得ない。...私が必ず守る」
「...一緒がいいな」
僅かな沈黙の後、窺うように〇〇は呟いた。
「死ぬときは...一緒がいい」
「しかし」
「お願い。...一緒がいい」
クラサメは溜め息をつきながら、首筋にかじりつく〇〇をあやすように頭を撫でた。
「考えておく。ほら。もう寝ろ。明日に響くぞ」
「...うん」
「こら。考えるな」
「だって...ッひゃあ!?」
クラサメの手がいきなり服の中に侵入してきたので〇〇は身体を強張らせた。
「や...ッしないよっ?」
「考え事を追い出そうかと。」
「この方が寝れない!明日に響くでしょ!」
「それもそうだな」
おとなしく手をシャツの中から手を引いたクラサメは〇〇の背に回す。
「おやすみ」
「おやすみなさい」
クラサメは〇〇の額に。
〇〇はクラサメの鎖骨に。
お互いに唇を寄せて瞳を閉じた。