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□Please... after
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まず一つ目。
そう切り出したクラサメは執事口調だった。
リクエストを聞いておきながら呑まれなかった要求。思わず反射で口を挟んだが。
どっちがいいかは聞きましたがそちらを採用するとは言ってません。選ぶのは私です。
返ってきたのは取り付く島も無いそんな言葉。
確かにそうだけど!
出だしからしてくじけそうである。
「聞いてますかお嬢様」
「はい...」
「本当に、覚えてらっしゃらないと?」
「はい...」
返事は消え入りそうになる。
だって覚えてないんだもん。
踵落としの直前?
私なんか言ったっけ?
薄すぎる反応にクラサメは溜め息をついた。
「私の名前を呼ぼうとしたんです。クラサメ、と」
あ...。
名前を呼ぼうとした事を〇〇は覚えていないが、クラサメがそう記憶しているのならそうなのだろう。
一度だけ鋭く呼んだ。
お嬢様、と。
それは背後に男がいるからという注意喚起ではない。
〇〇が名前を呼ぼうとしたからだ。
「待っていろといったのに待っていられず、呼んではならないというのに名前を呼ぼうとする。挙げ句シスターと大声でお喋り。どこが通りすがりですか。知り合いだとバレバレです」
あの賊たちは下の下だったからよかったものの、頭の回る輩だったらそこから割れてたかもしれなかった。
「良かったですね、任務ではなくて。上官の命令を再三無視。フォローまでさせて。ただの足手まといでした」
だから上に昇ってこれないんですよ。
口から出た声は我ながら酷なトーンになってしまった。
強くなりたいと。上にいきたいと言っている〇〇。
その走っている姿を見ている内に、つられるようにクラサメの足も動いていた。
それが院長のためであるというのは後で知った事だが、教官にも準教官にも未だ昇格していない。
並走していたはずの〇〇は、いつも間にか振り返らねばならない位置にいた。
力には憧れがあったが、クラサメは官位にさしたる興味はなかった。武官でよかったのに。
何故今の位置にいるのか。
たまに書類を作成しながら首を捻ることがある。
原因は一つ〇〇だ。
クラサメを引き上げた〇〇はその場で足踏みを繰り返している。
昇りたいと言う〇〇だが、クラサメとて同じくらい昇ってきて欲しいと願っているのに。
だから駄目出しも熱が入る。
目の前でソファーに座る〇〇はただただ小さく縮こまっていた。
ーーーーーー
糖分ねぇなあ。
ごめんなさいねw