開始時の人数比は6対7。 3分が経過した今、逆転して4対3でPが押していた。 「残り2分!」 教官が声を張る。 まだ3分しか経っていない。 半身捻ってボールを避け、〇〇は距離を取った。 「3、4。このままイケると思う?」 「どうだろうな」 ボールから視線は外さず隣へ話し掛けるが、返ってきたのは参考にならない答え。 「…ねぇ、やる気ある?」 ちらりと視線を向けるとクラサメも同等の視線を寄越した。 そうデスか。 目は口ほどに物を言う。 向こうのコートから振りかぶられたボールを避けるため、二人は飛びのいた。 当ててはくれてるし避けてもくれてるのだが、噂通り冷めている。 やる気は感じられない。 まだコート内にいるのも心証のため? 楽しくないのかな? 唇が尖る。 全員が全員、〇〇のように楽しんでいるわけではないのはわかる。 タルい。 そう言って第一投目で降りたチームメイトもいた。 だけど。 息を絞り取られつつも真正面でボールを受け止める。 やるからには意味があるはずで。 だったら全力でやらなきゃ意味が。 「ないでしょうが!!」 想いを乗せたボールは手元が狂い教官を掠めた。 …生姜? ペコペコと教官に頭を下げる〇〇を視界に入れながらクラサメは首を傾げた。 試合はボール回収のために一時中断している。 太陽が陰ったためクラサメは開けていたシャツのボタンを留めた。 動きは最小限にしているため汗をかくには至っていない。 コート外に視線を向けると、座りながら談笑している者、教本を開いている者など様々に過ごしている。 トーナメント戦であるため、参加人数は時間経過と共に少なくなっていた。 こちらよりも白熱しているのは隣コートの逆トーナメント。 必死だ。 「ごっめん!仕切り直しね!ほら、みんなテンション上げて!」 顔の前で手を拝みながら〇〇が戻ってくる。 「仕切り直しも何も、もう1分もないんじゃね?」 「ハイ、油断大敵!」 伸びをしたノーフェに〇〇は指を突き付け、欠伸を止めた。 「開始直後と終了間際は注意が散漫になりやすいんだから」 腰に手を当て上目遣いでノーフェに高説を垂れる。 確かにそれにはクラサメも同感だった。 よく耳にする文句だ。 「このスローインも、注意だよ」 ちらりと相手コートに目をやった〇〇は何を思い付いたのかに耳打ち出来るよう皆を集めた。 「スローインはあっちにだけど、私最初前にいるから。多分狙ってくると思う。誰かボール持った人と私のライン上にいて?で、私が避わしたボール取ってパス、ちょうだい。速攻やる」 「でもそれって〇〇ちゃんも危ないんじゃないのでは?」 「心配ありがとうシエニちゃん。平気平気」 「マジ?」 「任せてよ。あー、任せるケドね」 「ははッ。どっちだよ」 「ボール取るのは男子二人に任せる、ってコト。さっきのキツかった〜」 「あれは避けておけよ女子として」 「いやー考え事してて」 「尚更避けましょうよ」 「まぁまぁ。過ぎたコトだし!4、2なら後は逃げ切れるっしょ」 当ててみせるよ。 ニィと笑って見せた〇〇。 セットの声掛けで配置に付いた4人は〇〇が最前で他は後方だ。 腰を落として構える〇〇の背中に視線を向ける。 さすがに前過ぎやしないか。 あからさまに狙ってくださいと言わんばかりの位置だ。 向こうの3人も怪訝な表情を浮かべている。 こんな中で出来るのか? 疑いは半分。 もう半分は。 「レディ」 教官が声を発する。 やってみろ。 クラサメも意識を集中させた。 |