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□dodge run
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「さっきはどうも。二人とも手加減ナシだもんなー」


 肩を竦めて腰を降ろすカヅサに二人とも呆れ顔だ。


「よく言う」

「最後まで逃げきったくせにー」

 
 避難がましい二つの視線を受けカヅサは再び肩を竦めた。


 二回戦で当たったMとP。

 〇〇とクラサメのチームは4人削られたが、相手のチームをより多く弾き出したため、カヅサに当てる事は敵わなかったが駒を進めたのはPだった。


「だからって君達なんでボクばっか狙ったワケ」


 終了時の人数比は10対3。

 コート内にはカヅサの他に二人いたにも関わらず、後半は目の敵であるかのようにカヅサを狙い続けた。


「「ポケットに突っ込んだ手を出したかったから」」


 一つの疑問に揃いの答えを返した二人は、互いに意外だったのか視線を交わす。


「心証悪いぞ。これでも遊びじゃない。授業の一環だ」

「一回もボールに触れてないでしょ。なんかこう、せめてキャッチさせたかったというか」


 理由の理由は二通りだった。


「いやクラサメ君は顔面だし〇〇ちゃんは足元だし。無理。そりゃ避けるでしょ」

「足元狙いは基本ですー」

「手元が狂った」


 二人とも悪びれた様子はない。

 だからこのチームは残っているわけだが。


「でもよく動けるね。あんなに食べた後で」

「やっと消化されてきたよー」

「何の話だ?」


 あの場にいなかったクラサメは、成人男子以上のカロリーを摂取していた〇〇を知らない。


「ランチ、〇〇ちゃんありえない量食べててさ」


 ポテト、サラダ、パスタ、唐揚げ。

 指を折りながら料理名を上げ出したカヅサに〇〇は慌てた。


「ちょっと待って!クラサメ君!誤解しないでね!全部残りだから!ちょっとづつだし!」

「それにしても、だろ。食べ過ぎじゃないのか」


 クラサメの視線から隠すように〇〇は腹を手で隠した。


「しょ、消費するもん」


 確かに動く前の量としては食べ過ぎた感がある。開始前のストレッチもちょっとキツかった。

 やっと身体が軽くなってきたところだ。


「アクセル全開!あと2回だよ!頑張ろうねクラサメ君」

「興味ないんだけど」


 立ち上がり振り向いた先からは常のクールな言葉が返ってきた。


「そんな事言わないで!ほら!内申点アップ!」


 あれ。逆効果だったかな?


 ますます刻まれる眉間のしわ。


「まぁ頑張ってよ。日陰ながらボクも応援してるから。…次の対戦相手はEだけど」


 チームE。エミナ。


「「ぅわ…」」


 〇〇の呟きはクラサメとまたもやハモった。

 やっぱりクラサメ君もやり辛いんだろうか。

 ちらりと視線を向けるとしわは更に深くなっていた。




 すでにアウトになっていてくれますようにという願いは叶わず、引かれたラインの向こうでエミナは綺麗な笑みをたたえていた。

 笑顔だが、圧力を感じる。


「よろしくね、クラサメ君。〇〇も」


 端っこにいた私にまで視線ばっちり。

 この場合のよろしくってつまりよろしくだよね。


 頭を抱える〇〇と苦虫を噛み潰したようなクラサメ。


「動揺してるわね。うふ」


 髪を後ろに払い、エミナは綺麗に笑った。


 人が悪い。あー同じチームでよかった。

 耳打ちされたアリィはこっそりそう思う。

 だがこんなチャンス滅多にない。存分に付け込ませてもらいますかね!


「キミには負けないよ!クラサメくん!絶対、たたき出す!」


 ニィっと歯を見せてアリィは指を突き付けた。

 指された事にか言葉にか。


「両チーム、セット」

「そんじゃ、ま、よっしく!」


 クラサメは不愉快気に眉根を寄せたが、教官の言葉に散らばる皆同様踵を返した。


 そのクラサメの傍に近づき、〇〇は手首をほぐす。


「モテモテだね。さすが」


 ってなわけで。


「あの二人、よろしく」

「無理」

「早いなっ」

「俺はあのヒョロイの行く。エミナ頼んだ」

「無理」

「即答かよ」

「だって!まかり間違って珠肌に傷でも付けちゃったら私!」

「俺だって同じ理由だ。後が怖いんだよ」


 後が怖い?


 レディ。


 聞き返そうとしたタイミングで教官がボールをスローインしたため、二人は同時に腰を落とした。


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