「さっきはどうも。二人とも手加減ナシだもんなー」 肩を竦めて腰を降ろすカヅサに二人とも呆れ顔だ。 「よく言う」 「最後まで逃げきったくせにー」 避難がましい二つの視線を受けカヅサは再び肩を竦めた。 二回戦で当たったMとP。 〇〇とクラサメのチームは4人削られたが、相手のチームをより多く弾き出したため、カヅサに当てる事は敵わなかったが駒を進めたのはPだった。 「だからって君達なんでボクばっか狙ったワケ」 終了時の人数比は10対3。 コート内にはカヅサの他に二人いたにも関わらず、後半は目の敵であるかのようにカヅサを狙い続けた。 「「ポケットに突っ込んだ手を出したかったから」」 一つの疑問に揃いの答えを返した二人は、互いに意外だったのか視線を交わす。 「心証悪いぞ。これでも遊びじゃない。授業の一環だ」 「一回もボールに触れてないでしょ。なんかこう、せめてキャッチさせたかったというか」 理由の理由は二通りだった。 「いやクラサメ君は顔面だし〇〇ちゃんは足元だし。無理。そりゃ避けるでしょ」 「足元狙いは基本ですー」 「手元が狂った」 二人とも悪びれた様子はない。 だからこのチームは残っているわけだが。 「でもよく動けるね。あんなに食べた後で」 「やっと消化されてきたよー」 「何の話だ?」 あの場にいなかったクラサメは、成人男子以上のカロリーを摂取していた〇〇を知らない。 「ランチ、〇〇ちゃんありえない量食べててさ」 ポテト、サラダ、パスタ、唐揚げ。 指を折りながら料理名を上げ出したカヅサに〇〇は慌てた。 「ちょっと待って!クラサメ君!誤解しないでね!全部残りだから!ちょっとづつだし!」 「それにしても、だろ。食べ過ぎじゃないのか」 クラサメの視線から隠すように〇〇は腹を手で隠した。 「しょ、消費するもん」 確かに動く前の量としては食べ過ぎた感がある。開始前のストレッチもちょっとキツかった。 やっと身体が軽くなってきたところだ。 「アクセル全開!あと2回だよ!頑張ろうねクラサメ君」 「興味ないんだけど」 立ち上がり振り向いた先からは常のクールな言葉が返ってきた。 「そんな事言わないで!ほら!内申点アップ!」 あれ。逆効果だったかな? ますます刻まれる眉間のしわ。 「まぁ頑張ってよ。日陰ながらボクも応援してるから。…次の対戦相手はEだけど」 チームE。エミナ。 「「ぅわ…」」 〇〇の呟きはクラサメとまたもやハモった。 やっぱりクラサメ君もやり辛いんだろうか。 ちらりと視線を向けるとしわは更に深くなっていた。 すでにアウトになっていてくれますようにという願いは叶わず、引かれたラインの向こうでエミナは綺麗な笑みをたたえていた。 笑顔だが、圧力を感じる。 「よろしくね、クラサメ君。〇〇も」 端っこにいた私にまで視線ばっちり。 この場合のよろしくってつまりよろしくだよね。 頭を抱える〇〇と苦虫を噛み潰したようなクラサメ。 「動揺してるわね。うふ」 髪を後ろに払い、エミナは綺麗に笑った。 人が悪い。あー同じチームでよかった。 耳打ちされたアリィはこっそりそう思う。 だがこんなチャンス滅多にない。存分に付け込ませてもらいますかね! 「キミには負けないよ!クラサメくん!絶対、たたき出す!」 ニィっと歯を見せてアリィは指を突き付けた。 指された事にか言葉にか。 「両チーム、セット」 「そんじゃ、ま、よっしく!」 クラサメは不愉快気に眉根を寄せたが、教官の言葉に散らばる皆同様踵を返した。 そのクラサメの傍に近づき、〇〇は手首をほぐす。 「モテモテだね。さすが」 ってなわけで。 「あの二人、よろしく」 「無理」 「早いなっ」 「俺はあのヒョロイの行く。エミナ頼んだ」 「無理」 「即答かよ」 「だって!まかり間違って珠肌に傷でも付けちゃったら私!」 「俺だって同じ理由だ。後が怖いんだよ」 後が怖い? レディ。 聞き返そうとしたタイミングで教官がボールをスローインしたため、二人は同時に腰を落とした。 |