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□dodge run
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「どう?チームマッド!」


 我ながらぴったりじゃん!と〇〇は唐揚げを口に入れた。


「マッド?って何?」

「くすんでるってコト?」

「確かにいっつも着てる白い服、汚れてるしな」


 マジで合ってんじゃね?


「SでもMでも合っちゃうカヅサー?そろそろ行かね?」

「…そうだねえ」


 予鈴はまだ鳴っていないが、もうすぐ始業の時間だ。

 早め行動に越した事はない。


「りょ、料理は?まだ残ってるよ」


 もぐもぐとパスタを食べていた〇〇。

 いろんな皿に少しづつではあるが残っている。


「あー廊下に下げとけば回収されるから問題ないって」


 ひらひらと手を振ってみんなは扉に向かう。

 残されたこれらは廃棄されるのだろうか。


「カヅサ君!私食べていい?」

「これ全部かい?さすがに多いんじゃ」

「大丈夫!」

「先行ってんぞー?」


 後でなーと言い残し、扉を閉める。


 部屋には、三人。


 料理を食べている〇〇と、それを見ているカヅサと、それを見ているエミナだ。


「チーム、マッド…ですってよ?」


 エミナの手の中で氷がからんと涼しげな音を立てる。


「よく知ってるね。そんな難しい言葉」


 そう?と首を傾げながら空いた皿を次々と重ねていく〇〇。

 ペースは早いが、量自体が元々少ない。


 チームマッド。

 みんなはくすんでいる質感と捉えたが。


「mutual assured destruction…ねぇ」


 訳すると相互確証破壊。

 確かに自負はある。

 が、見抜かれてるとは思わなかったんだけどな。


「なんか言った?」

「いいや?」


 肩を竦めて否定する。


 しばらくカヅサを見ていた〇〇だが、皿に重ねて新たに引き寄せた。


 なんだろう。ちょっと阿呆のコだと思ってたんだけど。


 変に勘がいいのか?


 食べる事に忙しい〇〇を眺めていると視線を遮るように手が差し出された。


「変な目で見ないでちょうだい」

「失敬な」

「だからってこっちも見ないでちょうだい」


 ほぼ視界を覆われる。

 美人は自分に向けられる視線に聡い。

 エミナが警戒しているのは知っていた。


 っていうか、〇〇ちゃんはボクをマッドと知った上でこの対応なワケ?


 警戒心のカケラすらない。

 これでいいのか15歳。さらわれちゃうよ?


 それとも単語を知っているだけで言葉の意味を理解してないのか。


「ああ。そっちの方がしっくりくるね」

「何よ?」

「意味、知らないんじゃないかなって」


 確かにねえ、とエミナは〇〇を見下ろした。

 飴をくれる人について行ってしまいそうである。


「光源氏も楽しそうだけど」

「ヒカルゲンジ?」

「知らない?大昔の小説。クリスタリウムにも蔵書あるよ」

「どんな内容?」


 一言で言ってしまえば恋愛小説。

 女好きの主人公が好き勝手遊びなからも、ひとりのうぶな女性を自分好みに育てていく物語。


 なんて言えない。


「内緒。」

「今度借りるわね」


 不穏な空気を悟ったエミナはそう言い放った。

 これだから美人は。

 隠しても裏を読むのに長けている。


 興味対象ではあるが扱いが難しい。


 やはりこういうのは。


「カヅサ君は〇〇に近づくの禁止」

「ええー?」

「返事が聞こえないわね?」


 出来るわけがない。


 下手に約束を取り付けて破ったとあらばそれこそ面倒。


 カヅサを動かすのはいつでも好奇心だ。


 出来るかどうかわからない約束ならばしない。安請け合いはしない。


 好きな色は灰色。


 カヅサ・フタヒト。15歳。


「ねーえ〇〇?一人でカヅサ君に近づいちゃダメよー?」


 うわそっちにいくか。


 カヅサがきかないなら〇〇に警戒心を抱かせるまで。

 運びが上手い。


「うん?わかった」


 そして意外な事に〇〇はさらりと頷いた。


「じゃあ遊ぶときは三人でだね!」


 あ、そういうこと。

 あっさりとした承諾には〇〇なりのそういう意図があったらしい。


「そうねえ。もう一人増えるかも。私の彼氏」

「エミナちゃん付き合ってる人いるの!?」

「エミナ、でしょ」


 思わず気色ばんだ〇〇を小突く。


「へえ。マドンナを射止めたのは誰なんだろうねえ」

「ふふ。今度紹介するわね」


 そろそろ私たちも行かなきゃ、とエミナは空になったグラスや重ねられた皿をトレーに乗せる。


「行くわよプリティちゃん?」

「そ、その呼び方止めてよー!」


 カヅサ君のせいだー!


 最後の一口を飲みくだし〇〇も立ち上がる。


「じゃあPはなんていうんだい?」


 振り返りながら〇〇に向けられている目は笑っている。


「パ、パーフェクト!とか!」


 対する二人の反応は言わずもがな。

 つい口から出はしたが、言い放った〇〇ですら無いなと思った。


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