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□Please yourself side-0
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 帰るわよ!ええ帰りますとも!!

 言いながら力強く絨毯を踏み付け扉に向かっていると。


「〇〇」


 いつものトーンで名前を呼ばれた。


 さっきの今でよくも。

 深いしわを刻みながらも振り返る。


「明日も来るのか」


 だから!さっきの今でよくも!!


「ハァ?来るわけ」


 指差された先を見て言葉を詰まらせる。

 指されていたのは、テーブルの隅に鎮座している時雨月だった。


 …動けない。前にも後ろにも。


 取りに行きたい。

 非常に取りに行きたい。

 が、クラサメが…。

 まるでエリクサーの横に居座るベヒーモス。


 悩みながら睨んでいると、そのベヒーモスは後頭部で腕を組んだ。

 その様子を確認して、ソファを回り込んでにじり寄る。


 油断大敵よ。

 なんたってさっきの今。


 瓶を引ったくって一気にらっぱ飲み。


 呆気に取られているベヒーモスを尻目に、ドンと勇ましく空になった瓶をテーブルに置いて。


「ご馳走様でした!おめでとうございました!お邪魔しました!おやすみなさい!!」


 捨てゼリフを放ち、ベヒーモスが体勢を整える前に逃げるように退出した。




 いくつかの廊下を渡り、いくつかの魔法陣くぐり、〇〇はようやく歩みを止めた。


 部屋に向かうはずだったが正面扉を抜けて今は外。

 輝く星々。

 真夜中なので他に生徒はいない。


 噴水の縁に手を掛けしゃがみ込む。


 何が、起こった?


 誕生日を祝うだけだったはずなのに。


 ほてった頬に手を当てる。


 クラサメが私を?


 そんな考えが過ぎるが、頭を振って追い払う。


 お酒のせいよ。

 そんなまさか。

 ありえない。


 出会ってからかれこれ長い付き合いになっているが、フラットで良好な関係を保っていたはずだ。

 いつから。

 どうして。


「だから!違うってば!」


 クラサメが、私を好き。


 結局行き着いてしまう思考に、声を出して否定する。

 
 ないないないない!ありえないから!


 今の今までクラサメを良き友人としか見ていなかった〇〇は、この状況に困惑していた。


 差し当たった問題は。


「次会うときどんな顔すれってさ…」


 何度か飛ばした事がある記憶は、こんなときにかぎって飛んではくれない。

 おかげさまでばっちりある。


 気まずい事この上ない。


 熟考の末たどり着いた答えは。


「…忘れたフリ、しかないよね…」


 記憶から故意に抹消してしまうしかない。

 一夜限りの出来事、なんて大人な対応は〇〇には無理だった。


 重いため息をついて〇〇は立ち上がった。


「日記、どうしよ…」


 就寝前、いつもつけている〇〇の日課。

 だが今日のトピックスはどう考えても。


「ばーか…」


 冷たい水面をぱしゃりと叩く。


「あーぁ…勿体ない飲み方しちゃった…」


 美味しかった時雨月も苦い思い出になってしまった。


「すいませんユヒカ様…」


 過去何度か日記に出てきた事のある四天王に小さく謝罪する。


 あれもそれもこれも全部、悪いのは。


「あんの朴念仁!!」


 頭に浮かぶ涼しげな人物を力強く睨みつける。


 だがそれでも縁は切りたいわけではなく。


 〇〇は首から下がってしるノーウィングタグとネックレスを握り締めた。


 顔を上げ、朱雀の像に口の中だけで呟く。


 そして小さくくしゃみをし、今度こそ部屋に帰るため踵を返した。



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