「つけてるよ。習慣だもん」 忘れちゃいけないことを忘れないために書く。 そこに書くのは主に人との繋がり。 クラサメがそれを知ったのはかなり前だった。 「飽きやすいくせにな」 「そりゃあ、まいにち書けないときもあるケドさ、演習期間とか、レポートでいそがしいときとか」 ぶつぶつ言って酒を注ぐ。 「でも!だいじなコトらもん!それはつづけるわよ!!」 「ビシッと決めたところ悪いがな…。お前呂律怪しいぞ…」 「あ?なにがよ?」 「…酔っ払い」 「よってない!」 ああそうだな。 酔っ払いはみんなそう言うんだったな。 「あれ、ケーキ全部たべた〜。お代わり持ってきますね〜」 「お前、あんま動くと」 「へーきへーき。よっ」 空になったトレーを手にキッチンへ向かう。 その足取りは、やはり少しだけふらついている。 「大丈夫かよ…」 「だーいじょうぶらって!いいからクラシャメは座ってなさい!」 〇〇の大丈夫は信用出来ない。 過去散々学んだ事実だ。 「酔い潰れるとか、勘弁だぞ…」 何故自分の誕生日にこんな気苦労があるのか。 クラサメは再び天を仰いだ。 「へいお待ち」 ケーキを持ったウェイトレスの格好でその言葉はいかがなものか。 クラサメはまた溜め息をついた。 言葉は指摘せず、〇〇を見遣る。 「顔、真っ赤だぞ」 「ほんと?」 「ああ」 言って〇〇は自分の手を当てる。 「自分じゃわかんないやー。そんなにあかい〜?」 〇〇を手招きして頬に手をあてがう。 「うひゃっ」 「な」 普段は〇〇よりも体温が高いクラサメ。 その手が今は冷たく気持ちいい。 「クラサメの手冷た〜い。あ、飲んでないからじゃな〜い?」 お酌しますよ〜と時雨月を手に取る。 「まま、いっぱい」 飲めないと否定するのも面倒で、クラサメはおとなしく空になったグラスを持った。 微量に注ぎ入れ、更に自らの容器にも注ぐ。 「おたんじょうびおめでとー!かんぱーい」 一気。 飲み干して出た言葉から旨そうなのはわかるが。 「飲みすぎだ馬鹿」 口を付けずグラスを置き、瓶も遠ざける。 「本当に大丈夫なのかお前。人の肌とは思えない色してるぞ」 「ん〜?」 「ボム並」 また頬に触れる。 〇〇は小さく肩を竦めた。 「熱い」 「えー?熱くないよー?つめたいよー」 お前が熱いから、俺の手を冷たく感じるんだろ。 俺は至って平常だ。 「きもちいー」 「…気持ちいいか」 「ん、きもちいー」 「…そうか」 頼むからそんな目で見ないで欲しい。 とろんとした目と赤く染まった頬。 緩く笑いかけてくる〇〇から視線を外すしかなかった。 「ねえクラサメ、トンベリは?キッチンにもいなかったよー?」 酔っ払い確定。 何度目になるかわからない溜め息をついて額に手を当てる。 お前ないい加減に。 そう言おうと視線を向けたとき、丁度〇〇が身震いをした。 「?寒いのか」 こんなに体温高いのに。 「ん〜わかんない。おんど上げていい?」 「俺は寒くない」 「ぁぅ…。あっパーカーあるじゃん。どこやったっけー?」 「…着るのか」 「ん?うん。らってクラシャメさむくないんでしょ?」 パーカーを探そうと立ち上がった〇〇を引き止めたのは、離れる指が名残惜しかったからだろうか。 「ここにいろ」 「わっ」 手を引くと簡単にぐらついた。 「こうしていれば、寒くないだろ」 あっさりと中に収まった〇〇は首を捻ってクラサメを見上げた。 「なーんら。やっぱりクラサメもさむかったんだー?」 「ああ」 「手もつめたいもんねー」 「ああ」 「しかたないなーあっためてあげるよ」 熱い両手でクラサメの右手をくるむ。 「あったかい?」 「ああ」 「ぎゃくー」 「はい」 「あったかい?」 「ああ」 …なんなんだろうな。 この中身の全くない会話と、それに律儀に返す自分は。 |