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□Please yourself
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 ホールにして4つ。

 イチゴと生クリームのショートケーキ、数種類のフルーツを使ったタルト、チーズケーキにガトーショコラ。

 更にマフィン、ゼリー、プリン、コンフィチュール。


 全種類を1つずつ取り分けて2つのプレートに乗せ、クラサメの待つテーブルへと運ぶ。


「お待たせ致しました」


 テーブルに置くより前にクラサメから感嘆の声が漏れた。


「まだ向こうにありますので。切り分けて冷蔵庫に入れさせて頂きました。足の早い物からお食べくださいませ」


 テーブルに差し出されたカードには、大まかな賞味期限と食べ合わせの例。

 手書きだ。


「どちらをサーブ致しますか?」

「これ」


 右手にサーバー、左手にお皿でスタンバイしていた〇〇はプレートを回してフルーツタルトを取った。


「見た事無いケーキだな。レッドクローバーの新作か?」

「…恐れ入ります」


 ずっとむくれっ面の〇〇だがちらりとクラサメに視線を向けた。


「…手作りか?」

「…恐れ入ります」


 クラサメに衝撃が走った。


「凄いなお前」


 褒められた。


「何で今まで隠してた」


 怒られた。


「…申し訳ありません」

「今度また作れ」


 って言われるだろうから秘密にしてたのよ!!


「承服致し兼ねます。特別なのは本日中に限らせて頂きますので」


 これだけ作るのにどれほど苦労したか!


「只今お飲みものをお持ち致します」


 まだ何か言おうとしていたクラサメを遮り、〇〇は立ち上がって再びキッチンへと戻った。


 めでたい事や祭り事が大好きな〇〇。

 人が喜ぶ様を見ているだけでこちらも嬉しくなってくる。


 年に一度の誕生日。


 誠にめでたい日である。


 もうちょっと、気持ちよく祝わせてはくれないものかしら。


 炭酸で作ったクラッシュゼリーを飾りグラスに入れ、持参したタンブラーから飲み物を注ぐ。


 いやいや。無理難題を押し付けられても祝う気持ちが大事。

 大事なのよ。


 使った形跡の無さそうなシルバートレイに乗せてテーブルに運ぶ。

 クラサメはケーキに手を付けず待っていた。


「…?失礼致しました。どうぞお召し上がりください」


 てっきり食べてると思ってたんだけど。

 あ、飲み物待ってたのか。


「ドリンクは?」


 手元にはグラスが一つだけ。言われているのは〇〇の分だと察する。

 今運んできているというのに催促する程クラサメは関白じゃない。はずだ。


「いえ。私は」


 タンブラーにはもう一杯分入っているが、それはクラサメのお代わり。

 給仕する側でいる気だったので自分のは用意していない。

 夜も遅いからケーキも食べるつもりは無かったし。


「持ってきてないのか」

「…ではコーヒーを頂いてもよろしいでしょうか」


 三度(みたび)キッチンへ行こうとするが手で制された。


「丁度いいのがある」


 そう言って〇〇が来てから初めてソファから立った。


 手渡されたのは薄い紙でくるまれた木箱。

 とぷんと重心移動するこの重さから察するに。


「お酒…?」

「貰い物だ」


 だよね。クラサメお酒ダメだもん。


「では御好意に甘えさせていただきます」


 高そうな紙を丁寧に剥がしていると、〇〇の前にピューターが置かれた。


「恐れ入りま」


 紙を脱いであらわになった木箱。そこに書かれていた文字。


「しッ」

「し?」

「〜〜なんッであんたが持ってんのッ!?」


 ずびしと、だがしかし丁寧にクラサメの目の前に木箱を突き付ける。


「時雨月!!!」

「…確か高いやつだったか?」


 さすが下戸。反応は薄い。


「高いなんてもんじゃ…!」


 思わず箱を崇める。


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