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□Please yourself
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 発せられた言葉にしばし思考が停止する。


「…また、随分と話が飛躍したな」


 どういう回路なんだ〇〇の頭の中は。

 身体を反転させて両肘を手摺りに預ける。


「や、あっちってキザイアとかミィコウ方面だなーって思って」


 キザイア、スカラベ&レッドクローバー、クラサメ、プレゼント。

 そういう思考回路が働いたらしい。


 成る程な。

 連想ゲームか。


 クラサメは溜め息をついた。


「別にいいって。蒼龍に行く前にも言ったけど」

「いやー、こう、何年も記念ごとにあげてるとネタも尽きてきてさあ」

「だから」

「どうしよっかなっていろいろ考えたんだけど」

「おい」

「今年は直接希望を聞いてみるコトにしてみました」

「何度も言うが」

「ね、なにがいい?」


 本当に…。

 つくづく話を聞かないヤツだな…。


 呆れて物も言えない。

 見上げてくる〇〇を肩越しに見遣る。


「ねえ」

「…別にいいって。ただ」


 身体を手摺りから離し。


「話聞け」


 〇〇の頭を軽く小突く。


「何よ。今年はプレゼントじゃなくてお願い?」


 違うって。

 だから人の話をだな。


 口を開いてはたと停止する。


 …それいいな。


「あ、ちょい待った!!ストップ!思考ストップ!!今何考えて」

「じゃあ今年はそれで」

「それってどれ!!」

「わかってるくせに」

「わかんない知らない!!」

「いつかのお前の誕生日の逆。俺の言う事を聞く日」

「イヤ!!!」

「普段人の話聞かないんだ。年に一度くらい聞いたらどうなんだ。祝う気あるのか」

「祝う気はある、ケド…!!…そだ!さっき別にいらないって言ったじゃん!」

「前言撤回」

「男に二言は無いって言葉、知らないの!?」

「男にだって二言はあるんだぞ。知らないのか?」

「知らないわよ!聞いたコトないわよ!!」

「そっちこそ、希望取ったくせに」

「アレは無し!前言撤回よ!!」

「女には二言があるのか?」

「当たり前じゃない!女には二言も三言もあるのよ!!」

「男女差別か。哀しい壁だな」

「うるさいッ!あこらちょっとドコ行くのよ!」

「帰る」

「まだ話は終わって」

「来週」


 半身だけ振り返る。


「楽しみにしてるからな」


 〇〇は拳を握り締めていた。


「…講義の助手、入ってるんだけど!!」

「気にするな。俺も授業だ。終わってからでいい。部屋来て存分に祝え」

「ちょっとクラサメ!」

「零時だ」


 鐘が鳴るぞ。




 □ □ □




 そんなわけで、こんなわけです…。


 持ってきた紙袋をテーブルの上に置く。


「すごい荷物だな」


 手伝う気が無いクラサメはソファに座ったままだ。


「ご主人サマに、貢ぎ物をと、思いまして。…いろいろと」


 クラサメはふぅん、と顎をあげた。


「それよりもめかしこんでくれた方が良かったんだが?」


 化粧なんかする時間無かったんだってば!


「申し訳ありませんでした。私用で時間が無かったものですから」


 ヘアピンを数本取り出し器用に髪を纏め上げ、羽織っていた前開きの膝丈パーカーを脱ぐ。


「…初めて見るな。そんな格好」


 〇〇が着ているのは開襟の七分袖のブラウスに黒いタイトスカート。

 ご丁寧に腰巻きの黒いエプロンも着用している。


 ウェイトレス。給仕係。召し使い。

 レースもふりふりも無いが、いわゆるメイドの格好だ。


「…ウェイトレスのバイト経験がある友達に借りてきたので」

「なんて言って借りたんだ。恥ずかしいヤツ」


 だってこんなの持ってないし!

「…あんまりじろじろ見ないで頂けますか」

「俺の勝手」


 即座に返される言葉に〇〇は小さなため息をついた。


 今日は何言っても無駄だな…。


「失礼致しました。キッチンをお借りしても?」


 肩をすかした仕草を了承と考えて、〇〇はクラサメの視線から逃れるようにキッチンに向かった。


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