発せられた言葉にしばし思考が停止する。 「…また、随分と話が飛躍したな」 どういう回路なんだ〇〇の頭の中は。 身体を反転させて両肘を手摺りに預ける。 「や、あっちってキザイアとかミィコウ方面だなーって思って」 キザイア、スカラベ&レッドクローバー、クラサメ、プレゼント。 そういう思考回路が働いたらしい。 成る程な。 連想ゲームか。 クラサメは溜め息をついた。 「別にいいって。蒼龍に行く前にも言ったけど」 「いやー、こう、何年も記念ごとにあげてるとネタも尽きてきてさあ」 「だから」 「どうしよっかなっていろいろ考えたんだけど」 「おい」 「今年は直接希望を聞いてみるコトにしてみました」 「何度も言うが」 「ね、なにがいい?」 本当に…。 つくづく話を聞かないヤツだな…。 呆れて物も言えない。 見上げてくる〇〇を肩越しに見遣る。 「ねえ」 「…別にいいって。ただ」 身体を手摺りから離し。 「話聞け」 〇〇の頭を軽く小突く。 「何よ。今年はプレゼントじゃなくてお願い?」 違うって。 だから人の話をだな。 口を開いてはたと停止する。 …それいいな。 「あ、ちょい待った!!ストップ!思考ストップ!!今何考えて」 「じゃあ今年はそれで」 「それってどれ!!」 「わかってるくせに」 「わかんない知らない!!」 「いつかのお前の誕生日の逆。俺の言う事を聞く日」 「イヤ!!!」 「普段人の話聞かないんだ。年に一度くらい聞いたらどうなんだ。祝う気あるのか」 「祝う気はある、ケド…!!…そだ!さっき別にいらないって言ったじゃん!」 「前言撤回」 「男に二言は無いって言葉、知らないの!?」 「男にだって二言はあるんだぞ。知らないのか?」 「知らないわよ!聞いたコトないわよ!!」 「そっちこそ、希望取ったくせに」 「アレは無し!前言撤回よ!!」 「女には二言があるのか?」 「当たり前じゃない!女には二言も三言もあるのよ!!」 「男女差別か。哀しい壁だな」 「うるさいッ!あこらちょっとドコ行くのよ!」 「帰る」 「まだ話は終わって」 「来週」 半身だけ振り返る。 「楽しみにしてるからな」 〇〇は拳を握り締めていた。 「…講義の助手、入ってるんだけど!!」 「気にするな。俺も授業だ。終わってからでいい。部屋来て存分に祝え」 「ちょっとクラサメ!」 「零時だ」 鐘が鳴るぞ。 □ □ □ そんなわけで、こんなわけです…。 持ってきた紙袋をテーブルの上に置く。 「すごい荷物だな」 手伝う気が無いクラサメはソファに座ったままだ。 「ご主人サマに、貢ぎ物をと、思いまして。…いろいろと」 クラサメはふぅん、と顎をあげた。 「それよりもめかしこんでくれた方が良かったんだが?」 化粧なんかする時間無かったんだってば! 「申し訳ありませんでした。私用で時間が無かったものですから」 ヘアピンを数本取り出し器用に髪を纏め上げ、羽織っていた前開きの膝丈パーカーを脱ぐ。 「…初めて見るな。そんな格好」 〇〇が着ているのは開襟の七分袖のブラウスに黒いタイトスカート。 ご丁寧に腰巻きの黒いエプロンも着用している。 ウェイトレス。給仕係。召し使い。 レースもふりふりも無いが、いわゆるメイドの格好だ。 「…ウェイトレスのバイト経験がある友達に借りてきたので」 「なんて言って借りたんだ。恥ずかしいヤツ」 だってこんなの持ってないし! 「…あんまりじろじろ見ないで頂けますか」 「俺の勝手」 即座に返される言葉に〇〇は小さなため息をついた。 今日は何言っても無駄だな…。 「失礼致しました。キッチンをお借りしても?」 肩をすかした仕草を了承と考えて、〇〇はクラサメの視線から逃れるようにキッチンに向かった。 |