「確かに、あんま見るトコ無い…かな」 二つ目の袋小路にたどり着き〇〇は踵を返した。 初めて訪れたがメロエはシンプルな街らしい。 東西南北に真っすぐ道が延びた、十字型の街並だ。 「魔導院もこのくらいシンプルだったらいいのに…」 階段やら魔法陣やら複雑極まりない。 途中、仲良く手を繋いで今日の出来事を話す親子とすれ違った。 いいなぁシチューかな。 下げられている買物袋から献立を想像する。 大切な人の食べる顔を思い浮かべて作られる料理。学食も美味しいけれど、上手い下手ではなく母の手料理はまた別格だ。 候補生寮にキッチンなんていう上等な代物はもちろん備わっていない。 しばらく料理なんてしていない。 十字路に差し掛かり最後の道に向かう。 夕飯の支度時間だからかあちこちの煙突からいい匂いの煙りが昇っていた。 ホテル帰ったら何食べようかな。 お腹をさすりながら左右に建ち並ぶ家をふわふわ眺めていると、 「あ」 視線を移動させた先に、見覚えのある水色のマントが見えた。 「お疲れ〜」 声を掛けると、書面から顔を上げて振り返った。向けられた瞳はアイスグリーン。 「こんなトコで何してんの」 「シミュレーション」 返ってきたのは短い言葉。 部屋でやればいいのに。 そう思いながら断りなく向かいに座る。 「部屋だと狭いからな」 口に出していないはずなのに答えが返ってきた。 「筒抜けだ」 溜め息をついたクラサメはドリンクに口を付ける。 「お前こそ何してるんだ」 「私?私はもうちょっとポーション補充しとこうかなって思って」 言いながら隣のイスに置いたアンプルが入った紙袋を叩く。 「前は当日従卒に貰ってたな。万全を期すに越したことはない。いい心掛けだ」 そう言ってまた一口飲む。 あんたは私の教官か何かか。 思うが口には出さない。クラサメの言い分が正しい事くらいわかる。 「なんかクラサメと店のチョイス被るよね…なんでだろ」 「知るか」 〇〇が見付けたのは、街の外れのオープンテラス。客は少ないが、こざっぱりしていて落ち着く。 二人の性格に似てる所なんて無い。むしろ対象に近い。 だが今のように、クラサメがいるところに〇〇が来ることもあるが、〇〇がいるところにクラサメが来たりすることも度々あった。 クラサメがいるんだったら…。 〇〇は腕を組む。 誘えばよかったかな。確かカッコイーとかステラが騒いでいた気がする。 いやでもクラサメにはエミナって可愛い彼女がいるんだからダメか。 ダメ?いやクラサメが思ってるわけじゃないからいいのかな? 「おい百面相」 考え込んでいるとメニューで頭を軽く叩かれた。 「俺がいるんなら、なんだよ。言葉を途中で切るな」 またもやだだ漏れていたらしい。 「なんでもないわよ。誘えば良かったなーって思ってただけ」 肩を竦めてメニューを受け取り開く。 誘えば良かった?…俺を? クラサメは怪訝な表情を浮かべた。 「ここで会えたんだからどっちでもいいんじゃないか?」 返ってきた言葉は上の空。 どうやらオーダー選びに集中してしまったようだ。 汗のかいたグラスを持ち上げる。 「…確かに、〇〇がいるなら俺も違うの頼めば良かったな」 飲んでいたのはカフェラテ。グラスの底にはクラッシュされたコーヒーゼリーが沈んでいる。 充分に甘い飲み物だが、他に気になったものもあった。 「いいわよ、私それ貰うから。本命頼んであげる」 でも一口ちょうだいよねと付け足されはしたが、願ってもない申し出に視線を上げる。 ではと、メニューを指そうとするが閉じられた。 「クラサメが頼みたかったものくらい分かるって」 すいませーんとウェイトレスを呼ぶ。 「この、プリティキャットってやつくださーい」 窓ガラスを拭いていたウェイトレスが返事をし、店内に入っていくのを見送ってからクラサメが口を開いた。 「よくわかったな」 〇〇は頬杖を付いているクラサメを見て、 「筒抜けよ」 先程のお返しとばかりに笑った。 |